キョーコが入院している病院から連絡を受けて南部博士は車上の人となり道を急いでいた。
「しらゆき孤児院から連れてきた男の子のことについてお話したいことがあるの」
そうキョーコが言っているそうだ。
なんということだ。
私が何をやっているのかあの子には手に取るようにわかってしまうのだろうか?
孤児院で見出したあの二人のことについてはまだ極秘事項だというのに。
病院の車寄せで一人ハイヤーから降りた南部博士は上着の襟を正すとまっすぐキョーコの病室へ向かった。
薄いピンク色の生地に濃いピンクの縁どりがついている病衣を着たキョーコがベッドのリクライニングを起こしながら博士を迎えた。
「パパ、約束通り一人で来てくださってありがとう。時間は取らせないわ。」
キョーコは何も映っていないテレビの黒い画面を見つめながら話し始めた。
「パパ。あの小さな男の子の右腕についている小さなアザを消しておいてほしいの。国際科学技術庁の医学ならきれいに消せるわよね。早いほうがいいわ。いま
消しておけば成長したころには傷跡も残らないしね。パパ、あの子は忍者になるべくして生まれてきた子よ。だからきっとパパの計画には欠かせない存在になる
わ」
博士はポケットチーフでメガネを拭きながらキョーコの話を聞いていた
「確かにアザを消すくらい簡単なことだが、その理由を話してはくれないかね?」
そう尋ねる博士にキョーコは小さくため息をつくと
「故郷は心に抱いて生きていけ・・ということかな」と小さな声で呟いた
記憶の一部が欠如していると思われるジョージにそれを伝えるべきか迷っていた博士はキョーコに心を読まれた気がしてそれ以上は何も言わずに病室を後にしたのだった。
(おしまい)

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