ジョージ浅倉の息子(
OVA 蛇足)
「ママ、ママ」
身体をゆすられて意識を取り戻した。
「え?ここは何処・・」
今日子はリビングとダイニングの境目に置かれたカウチで目を覚ました。
いつもは白い天井が夕焼けに染まって真っ赤に見える。
小さなころから何度も見る同じような夢・・
これってなんなのかしら・・?
ピンポーン♪
玄関のチャイムが鳴っている。
「ママ、パパの”おかえい”だよ」
「あら、しまった。ちょっとのつもりがこんな時間までお昼寝しちゃったわ」
白地に黄色いチューリップがデザインされたサロンエプロンをかけなおすと今日子はインターホンの前へ行き、モニターに映っているジョルジョの顔を見て吹きだした。
「パパ、玄関の前でそんな百面相はしないでちょうだい。穣(じょう)がまた真似するでしょう?」
「インターホンで言ったらご近所に聞かれるじゃねぇか、早く開けてくれよ」
今日子がドアのロックを解除すると穣が玄関へ駆けだした。
ジョルジョはイタリア人でF1のレーサーだ。
レースのない日はこうして早々と帰宅して息子の穣と日本式のお風呂に入ることを何よりも楽しみにしている。
今日子は日本人だが友人が冗談で応募したレースクイーンのコンテストに合格してあれよあれよという間にレーサーの中でも「キュートな笑顔のキョーコ」として評判になっていった。
ある日いつものように今日子が大きな傘を持ってカメラのフラッシュを浴びているとつかつかとジョルジョが来て、いきなり腕をつかむと「やっと会えたね」と声をかけてきた。
イタリア男の典型的な「挨拶」とわかっていたが、この日の今日子は素直に彼のナンパに応じることにした。
灰青色の瞳になぜか懐かしさを覚えたからだ。
「パパ、おかえい~!」
「ただいま~。ジョー、いい子にしてたか?」
上下を麻の生成りのスーツで身を包んだジョルジョは枯葉色の髪をかきあげると玄関で高々と穣を抱き上げた。
「パパ。おヒゲ、痛いぉ~」
ジャケットの間から見える陽に焼け鍛えられた素肌の胸の前で穣を抱(かか)え直すと、ジョルジョはマシュマロのような息子の頬にキスをすると軽く噛んだ。
同じ灰青色の瞳がそっくりの笑顔で見つめあう。
「ママ、シンダ」
穣の言葉に風呂場で湯加減をみていた今日子がどきりとする。
だが、「ヒャッ、ヒャッ、ヒャッ・・」と笑うジョルジョの声にほっとする。
「そうかそうか。ママはまた昼寝してたんだな。じゃ、今夜は寝かせないようにするかな?」
今日子はときどきふと思う。
ジョルジョとは生まれる前から知り合いだったような気がすると・・
(おわり)

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