必殺仕掛忍者賀茶満
配役
念仏の健
棺桶の錠
鉄砲玉のおじゅん
おひろめの甚平
北町奉行所同心・中西主水
元締・南部の旦那
中西せん
中西おりつ
壷振りのお響
勝栄親分
江楠越後守相哉
(オープニング・ナレーション)
この世の悪をなんとする
天の裁きを待ってはおれぬ
正義の使者もあてにはならぬ
闇の陰から仕置する
その恨み晴らしやしょう
南無阿弥陀仏
(シーン1=場末の賭博場)
勝栄親分をはじめとする柄久田組が仕切る品川宿外れの賭博場。ふんどし姿でお守りだけを首から下げた痩せた男がツボを振っている
壷振りの男:ようござんすね?入ります
(さいころをツボに入れる)
柄久田組組長:さぁ、はったはった!
お客1:丁!
お客2:丁!
柄久田組組長:半方ないか?半方
念仏の健(以下、健)半!
(柄久田組組長が勝栄親分と目配せをする)
柄久田組組長:丁半、コマそろいました・・勝負!
(壷振りの男がツボを取る)
壷振りの男:グニの半!
(健、満足そうに胸を張る)
お客たち:あー
お客たち:やられた
柄久田組組長:え〜、ここで壷振り人の交代をさせていただきます。姐さん・・
(組長の案内で白地に黒と朱の縞模様を染めた粋な着物姿のお響が賭場へ入ってくる。)
お響:(賭場を見渡しながら)お響と申します。訳あって流しの壷振り、今宵は
勝栄親分さんの厚意で壷を振らせていただきます。お見知りおきを
(三つ指をつく)
(お響の凛とした声に場内がどよめく)
(健と甚平は顔を見合わせてにんまりと笑いながらお互いの腕や胸をつつきあう)
健:いい女じゃないかー
甚平:掃き溜めに鶴とはこのことだね、兄貴
錠:フン(腕組みを決め込む)
(錠をちらりと見たお響は勢いよく片肌を脱ぐ)
お響:ようござんすね?入ります!
お客たち:(次々と)丁!半!・・
健:半!
甚平:錠の兄貴は丁にするの?それとも半かい?
錠:(眉間にしわを寄せてじっと考える)かわいいこだ、美しい・・
甚平:え?
錠:いや、なんでもねぇ・・丁!
柄久田組組長:丁半、コマそろいました。勝負!
(お響がツボを取る)
お響:ニゾロの丁
(健はがっくり。錠はガッツポーズ)
柄久田組組員:ちょっと待ったぁ!
お響:何をするのさ、放しとくれ
(組員がお響を取り押さえると、組長がさいころをかみ砕く。中におもりが入っている)
組長:このアマぁ!
(その時、畳が舞い上がりろうそくの火が消えた)
柄久田組組員:逃げたぞ!追え、追え
(健と甚平、錠はそこに置き去りになった金銭を懐へ掻きいれるとあっという間に賭場を出る)
(シーン2=夜道)
お響:はっ、はっ(追っ手を気にしながら静まり返った品川宿の裏道を駆けてくる)
(健が闇の中から現れる)
お響:うっ
健:お響・・だったな。ふっ、やってくれるじゃないか?
(お響、踵を返し、後ろへ逃げようとする)
錠:(やはり闇の中から現れその道をふさぐ)もう逃げられねぇぜ!
甚平:(健の後ろから現れる)まったく、きれいなお姐さんだなと思っていたのに。とんだイカサマ女だよ
お響:い、イカサマ?違う・・私はやっていない
錠:いまさら、いうか?
柄久田組組員ら:(声だけ。口々に)おい、いたぞ!こっちだ。どこだ?こっちだこっち!
甚平:アニキ〜、見つかっちゃうよ
健:仕方ない、錠。おじゅんのところへでも連れて行って後のことを考えよう
錠:よし。こっちだ(お響を後ろ手にして引きずるように闇へ消える)
(シーン3=おじゅんの茶屋)
お響:あっ(土間に倒れこむ)
健:(お響を柱に縛り付けながら)あまりこんなことはしたくないんだが・・
鉄砲玉のおじゅん(以下おじゅん):なぁに?こんな夜中に
(店から奥の土間へ降りてくる)
甚平:あ、お姉ちゃん。こいつだった。イカサマ野郎・・
おじゅん:(お響の顎を手で押さえて顔を見る)野郎じゃないよ、女じゃないか
錠:女だろうと男だろうと関係ないのさ。へっ、イカサマでたんまりため込んだものをどこへ隠してあるか吐いてもらおうじゃねぇか!?
お響:イカサマなんてするもんかい!
錠:ちぇ、気が強いなぁ。おじゅんといい勝負だぜ・・
おじゅん:え?
錠:いやいや・・こっちのことさ
甚平:こいつ、本当に元締めが言ってたイカサマ師なのかなぁ?アニキ〜
健:さぁな。・・だが、柄久田組の賭場でイカサマをやったことは確かだ。
お響:あれは、勝栄親分の罠だったんだ
健:そいつはどうかな?明日元締めのところへ連れて行ってやるから、覚悟しておけよ
お響:(健をじっと睨む)
(シーン4=元締めの隠れ家へ)
翌朝。
雨戸がガラリと開けられると健が出てきて周囲の様子をうかがう。合図をすると棺桶を担いだ錠が、続いて甚平が出てくる
(表通りのおじゅんの茶屋の前を「葬列」が通るとまんじゅうを食べながらお茶を飲んでいた中西主水がそれを見てお茶を吹く)
おじゅん:あーあぁ、汚いなぁ。中西さんは、もう!
中西主水(以下、主水):なんだ、ありゃ?誰がくたばったんだ?
おじゅん:ちょっと夕べね・・
主水:なにがあった?
おじゅん:(耳打ちする)
主水:(うなずくと立ち上がる)ごちそうさん(小銭をおじゅんに渡すと距離を置きながら三人を追う)
(シーン5=元締めの隠れ家)
南部の旦那の隠れ家の庭に棺桶が置かれる。その蓋を取ると中に猿轡をされたお響が入っている
健:元締め、こいつがイカサマをした壷振りです
(南部が障子をあけて縁側から棺桶の中を覗く)
元締・南部の旦那(以下、南部):そこから出してみろ
錠:へい(お響を抱き上げる)よっこらしょっと
南部:こっちへ(縁側へ座らせる)
(手足は縛られたまま、お響の猿轡を外す)うーむ(お響の顔をしげしげと見る)
主水:ごめんよ(庭へ入ってくる)
南部:おぉ、中西さん。こいつでしょうかね?
主水:どれどれ?なかなかの別嬪ですな
お響:あなたが、八丁堀の中西主水さまですか?!
主水:だったら?
お響:(縛られたまま主水の足元に土下座する)私の兄は佐々木孝三郎と申します。柄久田組の悪事を暴こうとして逆に罠にはまり殺されました
主水:なんだって?佐々木殿の・・(視線をお響から健へ移す)おい、健。
健:なんだ?八丁堀
主水:残念だが、こいつはイカサマ壷振りじゃないな
健:なにぃ?
主水:縄をほどいてやりな
錠:(お響の縄をほどきながら)だが、八丁堀よ。お響のサイコロには細工がしてあったぜ
健:俺たちは見たんだ、この目でな
お響:あれは・・
南部:さしずめ、勝栄がすり替えたんだろう。
健:なるほど、そうか
錠:くそう、勝栄め
甚平:(お響にやさしく)痛くなかったかい?お響姐さん
お響:ちょっとね。(腕に手をやる)でももう大丈夫だよ(ほほえむ)
甚平:えへへ(にっこり笑う)
南部:で、お響。佐々木殿はどのくらい勝栄の悪事をつかんでいたのだね?
お響:私もよくわかりません・・が、勝栄親分の背後にはもっと偉いお侍がいるのではないか?ということでした
南部:黒幕がいるということだな。八丁堀、思い当たる者はいないか?
主水:さぁ・・?
錠:なんでぇ、頼りねぇなぁ
(シーン6=とある料亭)
勝栄が畳の上に大きな菓子箱を出す。その先には芸者をはべらせた身分の高そうな武士が座っている
勝栄:
江楠さま、今月分のお土産でございます
江楠:ん、いつもご苦労だな。
勝栄:最近は不況でなかなかあがりも少なくて、かないません(手拭いで頭を拭く)
江楠:何とかならんか?勝栄。これが無いことにはお前に賭場を続けさせることも難しくなってくるぞ(片手でお金のサインを出す)
勝栄:そ、それは困ります。
江楠:イカサマをもっとやって儲けるんだな
勝栄:それが最近、気付く者がいましてなかなか難しくなって・・
江楠:(言葉をさえぎって)何を申すか、勝栄!バレそうになったらまた腕に覚えのある連中に消させればよいではないか
勝栄:はぁ・・
江楠:後のことは私に任せてどんどん、儲けることだな
勝栄:へへぇ(かしこまる)
(シーン7=中西家)
座敷でおりつとおせんがさいころを転がしている
義母・せん(以下、おせん):えいっ(さいころを投げる)
妻・りつ(以下、おりつ):(さいころの目を見る)お母様、3と6ですからサブロクの半ですわ
おせん:あー、もううまくいきませんね〜!
おりつ:では今度はわたくしが・・
おせん:いえ、もう一度わたしがやります!(さいころを奪う)
おりつ:あぁ!もう!
(疲れた様子で主水が帰ってくる)
主水:ただいまー
(おりつとおせんは気づかずにまだサイコロを取り合ってもめている)
主水:なんですか?一家の
主が帰ってきたというのに・・
(主水の足元にサイコロが転がる。それをつまみ上げる主水)
おせん:おや、婿殿。おかえりなさいませ。
おりつ:おかえりなさい、あなた
主水:二人そろって何をしているのかと思ったら、サイコロ遊びですか?
おりつ:遊びだなんて、これをご覧くださいな。
主水:なんですか?これは・・
おせん:小間物屋へ行った帰りに瓦版屋がこれを配っていたんですよ
主水:なになに?(瓦版を読む)
『募集、女壷振り。どんな目でも自由に出せたら50両差し上げます』
(おりつに)おまえまさかこんなインチキを信じているんじゃないでしょうね
おりつ:もちろんですわ〜、でもどのくらいの確率で出るかちょっと・・
主水:ばかばかしい。それよりお腹がすきました。何か食べさせてください
おせん:あら、召し上がってこなかったんですか?ふかしイモならありますが・・
主水:(がっくりして)あー、そうじゃないかと思っていました。
ちょいと夜泣き蕎麦でもいただいてきます(出て行く)
おせん:(主水が出て行ったのを確かめると)行っちゃいましたよ
おりつ:(嬉しそうに)お母様、それでは(さいころを出す)
(おりつとおせんは再びさいころを振る)
(シーン8=
有戸長屋。甚平の家)
主水:ごめんよ(がらりと戸を開ける)
甚平:あれ?こんな時間にめずらしいね
主水:(甚平の耳をつまみ上げる)なんだ?あの瓦版は!?
甚平:いててて・・。あれにはちょいとわけがあって・・
主水:なんだ、言ってみろ
甚平:今日、町をふらついていたらさ、柄久田組の下っ端がいたんで・・
(回想)
甚平:(柄久田組組員たちに)ねぇ、今度はいつやるのさ。この前、ちぃっと儲かったんでまた遊ばせてよ
組員1:だめだめ、いま壷振りがいなくてね
甚平:え〜、つまらないなぁ
組員2:お兄ちゃんが探してきてくれれば、勝たせてやるぜ。いひひっ
甚平:本当かい?よーし。おれ、探してきちゃうもんね
(回想終わり)
甚平:・・というわけでお姉ちゃんを忍び込ませようと思うんだけど、すぐ壷振りが見つかったらかえって怪しまれるだろ?
主水:お前にしちゃ、手の込んだことを考えたな
甚平:えへへ・・
主水:で、おじゅんは?
甚平:アニキのところで壷振りの修行中さ。
主水:修行?
甚平:お響ねえちゃんが特訓しているってわけ
主水:ほう?
(シーン9=
有戸長屋。健の家)
おじゅん:(片肌を脱ぎツボを振っている)ようござんすね?入ります
(サイコロが一つ、壷から飛び出す)
(見ていた健と錠がずっこける)
甚平:(主水と共に窓から覗いて)ありゃ〜、だめだこりゃ
お響:大丈夫よ、さっきよりうまくなってるから。さ、もう一回
おじゅん:(健が拾ったさいころを受け取る)ありがと、健。ようし、今度こそ。ようござんすね?入ります!
(うまくいく)
甚平:やった!よーし、お姉ちゃん。今夜にでも柄久田組へ売り込みに行こうぜ
(シーン10=とある料亭)
料亭の豪華な座敷に通され、かしこまっているおじゅんと甚平
甚平:(小声で)お姉ちゃん、なんかここ場所が違うくないか?
おじゅん:しぃっ!ここで勝栄親分が直々に面接するって言ってたじゃないか。ちゃんとしていないと逆に怪しまれるよ
柄久田組組員:(がらりと障子をあける)ひゃっ、ひゃっ。おまえが新しい壷振りのお姐さんか?(おじゅんに触ろうとする)
おじゅん:やめとくれよ、もう
甚平:(割って入る)うるさいなぁ、早く親分を呼んで来いよ。しびれが切れっちまわぁ
柄久田組組員:なんだぁ?このチビは?
甚平:俺はチビじゃないぞ。
有戸長屋の瓦版屋、おひろめの甚平さまでぃ
柄久田組組員:ふーん、ジンペイだかトンペイだか知らないが親分は今お取込み中だ。もうちょっと待っていろ。いいな。
(組員、部屋から出て行く)
甚平:(こっそりと)お姉ちゃん、お取込みってなんだい?洗濯物かい?
おじゅん:(甚平の頭をはたく)やだよ、この子は。大人になればわかるさ
甚平:ちぇ
(部屋の外で声がする)
料亭の主人:おーい、越後守様のお帰り〜〜
甚平:えちごのかみ様ってあの江楠様かな?
おじゅん:ま〜さかぁ。そんなお偉いお侍さんがこ〜んな料亭に出入するもんかい
甚平:(障子の隙間から廊下を覗く)
(廊下を頭巾をかぶって「お土産」の風呂敷を抱えた江楠が通る。その後ろをペコペコしながら勝栄親分がついて行く)
甚平:(向き直って)お姉ちゃん、面白いものが見えるぜ。勝栄の野郎がコメツキバッタみたいにこんなしてるぜ(勝栄親分の真似をしてペコペコしながら座敷をぐるぐる回る)
(その時、ふすまがガラリと開いて勝栄親分が入ってくる)
勝栄:待たせたな(甚平を睨みつける)
甚平:わっ!(急いでおじゅんの隣りに座る)
(シーン11=南部の隠れ家)
健:それで、どうしたんだ?
甚平:結局さ、お姉ちゃんがまた壷からサイコロをこぼしちゃって・・不器用なんだよ。まったく!
おじゅん:うるさいわねー、あんたが騒ぐから気が散ったんでしょ!
錠:(舌打ちして)しょうがねぇなぁ。おい、健。どうするんだよー
健:イカサマは現場を押さえないと・・
錠:けっ!
南部:甚平、そんな大事な時に何を騒いでいたのかね
甚平:それがさ、元締め。勝栄の野郎より偉い奴がいるみたいでさ
南部:なに?ホントか
甚平:そうなんだよ。そいつの後ろをこんな風にしてくっついて歩いていたんだぜ
(また、勝栄親分の真似をしてペコペコしながらぐるぐる回る)
健:へー、あの勝栄が?
錠:勝栄より偉い奴なんて誰だろう
南部:うーむ。もしかしたら・・甚平、その偉そうなお侍の名前はわかるか?
甚平:えっとね。・・ナントカノモリ・・だったかな
おじゅん:バッカねぇ。越後守でしょう?
主水:なにっ!ま・・まさか!?
南部:
江楠越後守相哉・・か・・?
(その時、裏口の戸がガタンと鳴る)
健:誰だ!
(健と錠が音もなく裏口へ回ると外へ飛び出す)
(だが、真っ暗な闇の中に誰もいない)
(錠の足元にかんざしが落ちている。拾い上げる錠)
錠:お響だ
健:なにっ!
錠:しまった。あいつ、一人で兄貴の敵を討つつもりだぜ
(シーン12=江楠の屋敷)
江楠が一人、奥座敷で酒を飲んでいる。それを屋根裏からこっそり覗いているお響
江楠:(傍らに置いてある「お土産」の蓋を取ると小判がぎっしり入っている)ん〜、いつ見てもいい物よう(うっとりしている)
お響:(音もなく江楠の後ろ側に飛び降りると小刀を首に突きつける)
越後守相哉、江楠だな?覚悟!
江楠:な、なにやつ!?
お響:佐々木孝三郎の妹、お響さ。兄者の敵!
江楠:く、くそう・・(お膳の下の紐を引く)
お響:あ
(畳が舞い上がったかと思うと江楠がお響を振り払う)
江楠:曲者じゃ、出合え!出合え〜!
お響:しまった
(腕利きの用心棒が現れたかと思うとお響を一刀のもとに切りつける)
お響:あぁ・・(倒れる)
(シーン13=屋敷の外)
健と錠が暗い夜道を思いっきり走っている
健・錠:はぁ、はぁ・・
(江楠の屋敷の前にたどり着く。まだ息が切れている)
健:ここだ
錠:(うなずくと懐から羽根の形を模した手裏剣を出してくわえる)
(しんと静まり返った屋敷のくぐり戸が音もなく開くと筵に包まれた"何か"が打ち捨てられる)
錠:うん?
健:あれは?ま、まさか・・
(二人が駆け寄り筵を開けると、ぐったりとしたお響が入っている)
錠:お響!
健:遅かったか・・いや、まだ息があるぞ
錠:バカヤロウ!なぜ一人で行ったんだ!?(お響を抱き起す)
お響:(うっすら眼を開ける)錠・・(苦しい息の中、途切れ途切れに話す)
三日月神社の三本松、知っているかい?
(健と錠がうなずく)
お響:(途切れ途切れに)真ん中の松の根元に賭場の稼ぎが埋めてあるんだ。
それを仕掛忍者に渡して、兄者と私のうらみを晴らしとくれ・・
錠:わかった。わかったから、死ぬな!死ぬんじゃねぇぞ、お響!
お響:(途切れ途切れに)これで兄者のところへ逝ける。あとは頼んだよ、錠・・
(錠の腕の中で力尽きる)
健:お響は俺たちが仕掛忍者と知っていたようだな
錠:(お響を抱いたままうなずくと鋭い眼を前方へ向ける)
(アップになった錠の鋭い眼と土を掘る音が重なる)
(三本松の根元を掘っている健と錠。ツボが出てくる)
健:これだ
(シーン14=南部の隠れ家)
仕掛忍者全員が集まっている
南部:(一人一人の前に5両ずつ配る)全部で30両あった。一人5両で仕事をしてもらう。
どうした?甚平。いつもの元気がないな
甚平:おいらが「江楠」だなんて言ったから・・お響ねえちゃんが・・
おじゅん:甚平、それは違うわ。
主水:どちらにしたって金を出したモンから依頼されたんだ。(小判を掴み取ると懐へ入れる)仕事をするまでよ。
(主水、去る)
健:(やはり無言で小判をつかむとその一枚を噛んでニヤリとする)本物だ
(健、主水に続いて去る)
おじゅん:(自分の5両を袂へ入れると甚平の分をまとめて手渡す)ほら、いつまでもめそめそしていないで仕事、仕事。
甚平:あぁ(コクリとうなずくとおじゅんと出て行く)
南部:(自分の分け前を懐へしまいながら、ずっと腕組みを決め込んでいる錠に)どうした?錠。行かないのか?
錠:やるに決まっているじゃねぇか!(ふてくされた態度で無造作に小判をつかむと出て行く)
南部:(独り言)錠の反抗的な態度は今に始まったわけではない
(シーン15=仕事)
(仕置きのテーマ曲スタート)
5人が横一線に並んで夜道を歩きだす
甚平:江楠も勝栄もみんなあの料亭にいるぜ
健:そいつは好都合だ
主水:みんな気をつけるんだ。相手は一筋縄ではいかないぞ
(料亭の前につくと健がおじゅんに目で合図をする)
おじゅん:(うなずくと手まりの形をした花火を料亭内へ投げ入れる)はっ!
(料亭内は花火とその誘爆で大騒ぎとなる)
料亭の女たち:(口々に)きゃあ〜!助けて〜!あ~れぇ~!
おじゅん:(女たちを誘導する)こっちよ早く!
甚平:こっちだよ、早く逃げて〜!(女たちを誘導しながら)おねえちゃん。火薬、多すぎたんじゃない?
おじゅん:なに言ってんだい?ちょうどぴったしだよ。おじゅんさまを見くびるんじゃないよ!さ、みんなを安全なところへ案内するんだよ
(騒ぎの中、奥の間では勝栄が「お土産」が入った風呂敷を結びなおして逃げようとしている)
健:(勝栄の後ろに音もなく回り込み、首を締め上げる)勝栄、今日は逃げられないぞ。
勝栄:お、お前は・・?
健:てめぇのような悪党に名乗るようなモンじゃないが・・(右手を大きく開いて力を込める)人の恨みを買って仕事する仕掛忍者賀茶満、念仏の健さ!
(言うが早いか勝栄の胸の骨を外すと心臓を止める)
勝栄:(無言でばったりと倒れる)
健:(音もなく去る)
(一方、火が回った江楠の部屋に錠が現れる)
江楠:(あわてて)く、曲者じゃ〜!出合え〜!
(用心棒がぬっと出ようとするところ、肩を叩かれ振り向く)
主水:おまえさんの相手は俺だ(用心棒を一太刀で切り捨てる)
(その様子をニヤリとして見ていた錠。)
錠:(鋭い眼つきで江楠を睨みつける)壷振りのお響と佐々木孝三郎から恨みを買ってきたんでな。悪く思うなよ。(羽根型の手裏剣を投げると江楠の顔をかすって壁に突き刺さる)
江楠:ひゃぁ〜、か、金ならいくらでもやるから・・た、助けてくれ〜
錠:残念だが、金ならあるんでね(短刀で江楠の喉を突き刺すと、ぐっと奥まで入れてしまう)
江楠:(立ったまま息絶える)
主水・錠(音もなく去る)
(シーン16=おじゅんの茶屋)
酒を飲みながら手の中でサイコロを弄んでいる錠
(健が入ってくる)
健:なんだよ、珍しいな。昼間っから(徳利を錠からを取り上げ自分も飲む)
おじゅん:さっきからずっとこうなんだよ。あ、健も飲むでしょう?いま一本つけるからさ
健:えへへ(錠の隣りに座りなおす。錠だけにそっと囁く)もう忘れちまいな。な?
錠:ふっ(笑顔が戻る)おい、おじゅん!ちょっと振ってみな(壷を振るしぐさをする)
おじゅん:あはぁ?私がぁ?(徳利を持って健と錠の前に座る)
健:ほら(壷を持ってくる)
おじゅん:(二人を見やって)いくわよ〜ぅ!入ります!(見事にさいころが壷から飛び出る)
健・錠:(口々に)ありゃ〜。だめだ〜、こりゃ(ずっこける)
(ずっこけた二人のストップモーション)
完

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