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俺の住処(すみか)はトレーラー

「いや。止めるなよ、ケン。俺が出て行く。お前はここにいてやってくれ。博士も俺なんかよりお前の方がいいと思ってるだろうし。」
「ジョー…」

 もう言い合いになった理由(わけ)も忘れてしまった。
だがここを出て行くしかないとジョーは決めたのだ。
ケンがここに来てからジョーは言葉ではうまく言い表せないが何となく疎外感を感じていた。
しかし、ケンにも博士にも悪いところは一つもない。
きっと自分が悪い奴だからなんだろう。思えば小さな頃からワルサばかりしてきた。
本当は俺なんかいない方がいいんだ。
いつの頃からかジョーはそう考えるようになっていた。
そして、この日ちょっとしたことからケンと口げんかになったのをきっかけにジョーはここ南部博士の別荘から出ていく決心をしたのだった。

 出て行く先にあてがなかったわけではない。
レーサーの先輩マックのところだ。
だが彼は世界を渡り歩く賞金稼ぎの一匹狼のレーサーだ。今どこにいるのかすぐにはわからない。(彼のそんなところもジョーは気に入っているのだが。)
どうやって連絡をとればよいものか悩んだ末、ジョーはレーサー仲間がよく集まるスポーツバー「ピットイン」へと足を運んだ。

 「よう、アサクラくんじゃないか?!めずらしいな。」
カウンターの中から声をかけてきたのは、元レーサーでこの店のオーナー店長、フィリップ・ミラー。愛称フィルだ。
「ちょっと人を探しているんだ。」
「まぁ、こっちへ来て一杯飲め。おごるぜ。」
「へぇ、いいのか?」とジョーは目を輝かせた。
「おっと、いけね。つい他の連中と一緒にしちゃったよ。ジョー、お前いくつになったんだっけ?」
フィルはテキーラを注いだ小さなグラスをカウンターの下にさげながら苦笑いをした。
「14だよ。」
「本当かぁ?」
「13と5カ月。来月には13歳半になるぜ。もう14だ。」
「ほぅ!たった13年でよくもまあ、こんなに育ったもんだな。」
大げさに目を丸くして見せたフィルは後ろの冷蔵庫からコーラを取り出しながら
「で、誰を探しているって?」と訊いた。
「俺、ジンジャーエールがいいなぁ。」ジョーはカウンターに身を乗り出した。
「ダメダメ。おごれるのはこれだけだ。」フィルはジョーの頭をコーラの瓶で押し戻した。

「マック…マクスウェル・シュトラーゼンは今どこにいるか知らねぇか?」
コーラをラッパ飲みしたジョーはゲフッと一息つくとそう尋ねた。
「マックだとう…?」
急に口ごもるフィルにジョーはたたみかけた。
「マスター、知っているんだね。教えてくれよ~!」
「…う…い、いいや。知らないぜ…」
そういいながらもフィルの薄茶色の瞳がちらりと店の奥にあるVIPルームのドアを見た。
それをジョーは見逃さなかった。

「おい、ジョー!そっちはダメだ。」
フィルの制止を難なく降りきってジョーはVIPルームのドアを開けた。
と、そこには…。

 皮張りの広々としたソファにゆったりと腰をかけたマックがキャビアをたっぷりとのせたクラッカーを口に運んでいるところだった。
しかも後ろ向きだったが裸の女性を膝の上に乗せていた。
「ジョー!ジョーじゃねぇか?よくここがわかったな。」
マックがそういうと背中をひねって女性が振り向いた。
空色の瞳に金色のショートヘアがよく似合う美しい人だ。
「紹介しよう。こいつはルシー。俺のハニーさ。」
マックはルシーを見上げると顎でジョーを指した。
「あいつはジョー。俺のテクニックをあいつにだけは教えているんだ。…フッ。いまのところドライビングの方だけだがな、まだ。」
口の端を少し上げてニヤリとしたマックは、そういいながらルシーにキスをした。

 ルシーはソファの端にかかっていた薄いピンク色のバスローブを取るとマックの上に乗ったままそれを着た。そしてマックから降りるとジョーの方へ歩み寄って白い手を差し出した。
「ハイ、ジョー。はじめまして。」
「はじめまして、ルシーさん。」ジョーはその手を握った。
ルシーからは何かとても良い香りがした。
「んふふ。ルシーでいいわよ、ジョー。ねぇ、マック。この子顔が赤いわ。」
ルシーが煙草に火をつけたマックにそう言うと彼は煙にむせたふりをした。
「ちょっと失礼するわね。」
そう言ってルシーはシャワールームへ消えた。
 マックが灰皿に煙草を押しつけながらジョーに訊いた。
「どうした?ジョー。俺に用があったんだろ?」
「……。」
ジョーはうつむいたまま口をへの字に曲げていた。
「あててみようか?」
ミネラルウォーターをコップに注ぎながらマックはまた右の口角を少しだけ上げた。
「おおかた『新しい兄弟』とケンカして家を飛び出して来ちまったんだろう?」
「兄弟じゃねぇ!」
ビップルームにジョーの大きな声が響いた。
だが変声期のためか途中で声が裏返ってしまった。なにもかもジョーは悔しかった。
グッと奥歯をかみしめてまた口がへの字に曲がってしまった。
そんなジョーの気持ちを察したのかマックは額にしわを寄せてわざと大きく目を見開いてこう言った。
「わかったよ、ジョー。しばらく俺のところにいればいいさ。新しく家を買ったのは知ってるだろ?」
「……。」
ジョーは横に首を振っただけでそれには答えずに、つり上がった横目でじっとシャワールームのドアを見つめた。

 ミネラルを飲みほしたマックはフンと鼻先で笑い、
「ルシーのことは気にしなくていい。彼女もオマエも俺にとっては大事な家族みてぇなものだからな。」
といいながら新しい煙草に火をつけた。
そして「ルシーは女だてらに結構やるんだぜ。」と、ハンドルを回す仕草をした。
「ルシーさん、いや、ルシーもレーサーなの?マック!」
「そうともよ、ジョー。なんだやっと元気が出てきたな。」
 ジョーはあわてて涙をぬぐった。ルシーがシャワールームから出てきたのだ。
そしてマックの耳元で何か囁いた。
ジョーのわからない言葉で二言三言、言葉をかわすとルシーはにっこり笑ってぬれた身体のままジョーをハグした。(バスローブは着ていたが…)
「ジョー、うれしいわ。新しい家族。私の弟…。」

 マックはルシーと出会ったのをきっかけにイギリシア国に住まいを構えることにした。
白い砂浜にエメラルド色の海を見渡せる白壁の二階家だった。
二階が居住部分で一階はガレージだ。マックとルシーの愛車が仲良く置かれていた。
 その奥にもう一台。…レースカーではないものが置かれていた。
「マック、これは何?小さな家のようだけど。」
「あぁ、これはトレーラーハウスさ。トラベル・トレーラーって言われている奴だよ。あれっ?オマエに話したことなかったか?俺はこれで世界中を巡っていたんだぜ。」
「聞いたことはあったけど見るのは初めてだよ。これがマックの家だったんだね。」
ジョーはカーテンがかかった窓からトレーラーの中を覗くようにして続けた。
「ちょっとだけ中を見たいなぁ、マック。」
「特に変わったものはねぇよ。大体のものはみんな2階に上げちまったからな。」
そういいながらマックは入口の扉をガチャリと開けた。
 ベッドにカーテン。造りつけの小さなキッチン、シャワールーム兼トイレの他は何もなくてガランとしたトレーラーの中は意外に広々としていた。
ジョーはベッドの上に腰かけるとスプリングを確かめるように身体を上下させて目を輝かせた。
「マ、マック!いいよここ。俺ここに住みたい。本当だよ。」
ジョーは早口でたたみかけた。
「そしたら、マックみたいに世界中を旅しながらいろんなところのレースに出て賞金を稼ぐんだ。いいだろ?マック。」
「へへっ。そうだな…」
次にマックが何か言おうとした時、ルシーの声がした。
「マック!電話よ。ジョーを探しているっていう人から。」
「ここにいるって言ったのか?!」
「ううん。マックに電話を替わるって言っただけよ。」
「そうか。よし、いま行く。」
マックはジョーをトレーラーに残してルシーと2階へ上がって行った。

 いつだったか、南部博士が長期出張に出かけるときに同じくらいの子供を持つISOの職員の家にジョーを預けたことがあった。そこでジョーはラジコン・カーを初めて見た。そしてその虜になった。
それは次第にエスカレートして「本物の」サーキットに足繁く通うようになり、そこでマックに出会ったのだ。
 ジョーはマックの卓越したテクニックにまず心酔した。が、やがて彼のすべてにシンパシーを感じて、そのちょっと斜めに構えた態度や話し方、口の端を曲げる笑い方に至るまで真似をした。
両親と死に別れるまでジョーは近所のガキ大将に従ってやりたい放題のワルサをしてきた。父親も母親もジョーをとても可愛がってはくれたが仕事が忙しいと言っては家をあけることが多くジョーは学校をさぼることもしばしばであった。

 だが、あの日両親をギャラクターに殺され、南部博士に助け出された時からジョーの生活は一変した。
自分でもびっくりするくらい博士の云うことを聞き、入れ替わり来る家庭教師(今考えるとISOの若い職員だったようだ)とも打ち解けていままでの分を取り戻すかのように勉強をした。
これが本来の自分の姿だったような気さえした。

 あの頃は、まだISOの施設が整っていなかったこともあり、南部博士の母方の別荘だった建物を改装して研究室として使っていた。
数多いゲストルームにはISOの研究員や職員が何人か泊り込みで仕事をしていた。
そんな中でジョーも寝起きをするようになっていたのだ。

 しかしそんな生活も長続きはしなかった。
同じ歳のアイツがやって来たからだ。
何をやってもアイツにはかなわない。
「育ちが違う。」
そう誰かに言われたこともあったっけ。
 アイツも母親が死んでからしばらくのあいだ施設にいたらしい。だが、行方不明だという父親のことを南部博士はよく知っているようでわざわざ引き取ることにしたということだ。
それに比べて、親を亡くした子犬のように拾われてきただけの俺なんか…。

 「おい、ジョー。聞いてるのか!?」
マックの言葉にジョーははっと我に返った。
「あ…。」よかった。涙はこぼれていなかった。
「しょうがねぇやつだ。ほら、なんて言ったっけ?おめぇの親代わりのお偉い先生…」
「南部博士がどうかしたの?」
「事故に遭ったらしいぜ。」
ジョーの顔色が変わった。
「なんだって?!それで博士は?!」
ジョーがつかんだTシャツからその手を引き剥がすとマックは続けた。
「あわてるな。無事だとよ。へっ、そんなに心配なら帰ってやれよ。おめえのこと探しているとよ。」
 ジョーはマックに背を向けてこっそり涙をぬぐった。
「無事ならいいんだ。」
マックはやれやれというように肩をすぼめて言った。
「詳しいことは飯を食ってからだ。話を聞いたら明日にでもフィルの店に行って来い。」
「そうするよ。マック…。」

 次の日の朝早くジョーはフィルの店「ピットイン」へ向かった。
マックとルシーは二人揃って玄関まで来て見送ってくれた。
だがこれがマックの無事な姿を見た最後となってしまうとは知る由(よし)もなかった。

 昼過ぎに「ピットイン」に着いたジョーはフィルに自分と同年代の男の子を紹介された。
その子はジョーよりひとつ下でおっとりとした感じだったが体格はがっちりとしていて日本のスモウレスラーといった風貌だった。
「オラぁ、リュウ。ナカニシリュウっていうんだ。あんたがジョー・アサクラさんかね?」
ほとんど「アサクラさん」と呼ばれたことがなかったジョーはちょっとくすぐったいような気がした。
「おめぇ…いや、君が博士を助けてくれたんだってな。」
「うん。オラ、あんな無茶をする学者先生を見たのは初めてだったぞい。」
「世話をかけちまったな。」
ジョーの言い方がマックそっくりだったのでフィルは思わずニヤリとしてしまった。

「それでよ、アサクラさん。」
リュウはコーラの空ビンを指ではじきながら言った。
「ジョーでいいよ。リュウ。」
コクりとしたリュウは続けた。
「その…なんだ、南部博士はの。ジョーにどうしても伝えたいことがあるっちゅうてオラが頼まれただ。」
「オレは帰らないぜ。」
ジョーの強い言葉にビクッとなったリュウを見てフィルが口をはさんだ。

「ジョー、今回は博士を助けてくれたナカニシくんに免じて一度顔だけでも見せに行ったらどうだ?」
フィルが冷えたコーラの瓶をジョーの前に出しながら諭すように言った。

 ジョーはキッと鋭い目でカウンターを見つめたままつぶやいた。
「オレが悪かったんだ。」
ジョーは続けた。
「オレが…。博士のそばにいなかった…オレが悪いんだよな?!」
強い口調ではなかったがリュウもフィルも下を向いてしまった。

「ケンは?ケンはどうしたんだ。アイツはそばにいなかったのかよ。」
「あ、あぁ…。ワシオさんならずっと博士につきっきりだわ。」
リュウがボソリと応える。
「へっ。怪我してから付き添ったっておせえんだよ。ま、ケンがいるならオレは関係ねぇや。」
そう言ったもののジョーの目からは大粒の涙がこぼれおちていた。

「ジョー、それを飲んだら博士のところへ行くんだな。帰るかどうかはまたあとで考えればいいさ。な。」
ジョーはコクりと頷いてコーラを飲みほした。

 国際科学技術庁附属病院7階、特別病棟7018号に南部考三郎と小さく書かれた名札がついる個室があった。
「ここじゃわぁ。」
リュウは嬉しそうににっこりすると真っ白に磨き上げられた病室のドアをノックした。
「はい。」
若い男の声がした。
「南部博士、アサクラさんをお連れしたぞい。」
そう言いながらリュウはその引き戸になっているドアを開けた。
 リュウに続いてジョーが病室に足を踏み入れたその時だった。
博士のベッドの横に座っていたケンがすっと立ち上がり顔色一つ変えずにジョーに歩み寄ると、いきなり胸ぐらをつかんだ。
「ジョー、きさま…っ!」
「ケン、やめたまえ。ここは病院だぞ。」
リクライニングの背を上げたベッドの上の博士の一言でケンは手を離した。
「ふっ、相変わらず博士の言うことはよく聞くんだな。」
シャツの胸を直しながらジョーが言うと博士がたしなめた。
「ジョー、ケンが君のことをどのくらい心配したのか知っているのか?」
「へ。心配している割には暴力的じゃねぇか?見そこなったぜ。ケン!おめぇがついていながらなんだって博士にこんな怪我を…。」
ケンは横を向いて唇を噛んでいた。
「ジョー、ケンを責めないでくれ。彼は飛行訓練を始めたばかりで私に同行できなかったのだ。」
「ヒコウクンレンだとう?!」
健に詰め寄るジョーを制するように博士は続けた。
「 病院(ここ)では詳しい話はできないがある重要な任務をケンには担ってもらおうと考えているのだよ。そしてジョー。君にもその任務を手伝ってもらいたいのだ。それから、ナカニシ君にも。」
 病室の隅で事の成り行きを心配そうに見守っていたリュウがうれしそうに笑った。
「でへへ。今度オラにでっかいホバークラフトを作ってくれるっちゅうことで楽しみにしとるんだわ。」
「ホバー…なんだって?」
急な話の展開にジョーはついて行けない。
ケンだけでなくリュウにもそんなものを?
よっぽどリュウのことを気に入ったんだな。博士は一体なにを考えているんだろう。

「ケン、私はナカニシ君とちょっと話があるからジョーにあの車を見せてやりたまえ。」
そういう南部博士の目がメガネの奥でキラリと光った。
「はい。わかりました、博士。ジョー、こっちだ。」
病室のドアを開けるケンの青い瞳もまた輝いていた。
「ちぇっ、偉くなったもんだぜ。」
口では文句を言いながらもジョーはケンがしばらく会わないうちに随分と大人びたことに気づいていた。

 病院の駐車場の片隅に濃いブルーの新車が一台、置いてあった。
何の変哲もない普通のレーシングカーだった。
だが、それはジョーの心を揺さぶるには充分なものだった。
「こ、これは…?」
「南部博士がオマエのために造った特別な車だ。」
「オレのために?」
すでにジョーの全身全霊はその車に集中していた。声がまた途中でひっくり返ったのも構わずにジョーは窓越しに中を覗き込んでいた。

「あぁ。博士は何か大きなことを考えているようだぜ。オレにはセスナを一機造ってくれたんだぜ。」
「セ、セスナって飛行機だよな!?」
「見るか?向こうの空き地に停めてあるんだ。」
ケンのニヤリと笑う顔を久しぶりに見た気がした。
「おう。」
走り出すケンのあとを追いながらジョーはケンがもう自分が家を飛び出したことなど気にはしていないのだと思った。

 大人びた 風貌(ふうぼう)でも、やはりまだ13歳の少年たちだ。
来たるべき未来が明るいと知ると二人のわだかまりは春の日差しを浴びた雪のように溶けていった。
のちにケンの愛機やジョーの愛車には考えもつかないような極秘の装備がなされ、厳しい訓練の日々が待ち受けているのだが、それがわかるのはもう少し後になってからのことだった。

 ジョーは毎日のようにサーキットで「コンドル号」と自ら命名した愛車を駆っていた。
マックにも早くこの新車を見せたかったが最高の状態で見せたいと思い、もう少しもう少しと先延ばしにしていた。
 3ヶ月ほどたったころ、ケンは博士の別荘から独り立ちしようとしていた。
彼の父親が行方不明になってから荒れ放題になっていた小さな飛行場の管理小屋へ移り住むことにしたのだ。
博士が造ってくれたセスナを格納するにはぴったりの場所だったし、少し手を加えればケン一人が住むには充分な設備が整っていた。

 ケンの引っ越しの手伝いから戻ってきたジョーに南部博士はまだしばらくはこの別荘にいればよいと言ってくれた。
しかしジョーもうじきにここから独立するつもりでいると答えた。
住むのはもちろんあのマックのトレーラーハウスだ。
マックは本当にトレーラーを譲ってくれるだろうか?
もし、ダメだと言われたらどうしよう…。

 『ジョー、やつらに気をつけるんだ!』
そうマックは叫んだあと、彼は暗い谷底へと落ちていった。
「マック…!!」
ジョーは叫んだ自分の声で目を覚ました。
「夢か…。」
だが妙な胸騒ぎを覚えたジョーは夜明け前の別荘をこっそりと抜けだすとイギリシア国へと向かった。
ベッドの上に置手紙を残して…。

 コンドル号のエンジンは快調だった。
国際科学技術庁が総力を挙げて造ったというのもまんざら嘘ではないようだ。
あのマックの夢さえ見ていなければ鼻歌の一つも出ただろう。
次の日の午後、ジョーはマックの家の前に着いたのだった。

 いや、マックの家だったところといった方が正しいだろう。
ジョーの嫌な予感は的中していた。
目に眩しかった白い壁の二階家は見るも無残に焼け落ち、数本の柱が黒い炭となって虚しく立っているだけだった。
ジョーは自分の目を疑った。
(一体全体…何があったというのか…?)
 現場にジョーが立ちすくんでいると地元のシェリフ(保安官)と名乗る中年の男が声をかけてきた。
「ジョージ・アサクラくんだね。マクスウェル・シュトラーゼン氏が亡くなる直前に君に渡したいものがあると言っていたよ。」
「亡くなるだって?!」
ジョーは今度は自分の耳を疑った。
「ちょっと署まで来てくれないか?きみに見せたいものがあるのでね。」
シェリフは茫然としているジョーの肩を優しくたたくと警察署へ案内した。

 署の駐車場には見覚えはあるがやはり酷く焼け焦げた車が2台置かれていた。
焦げ臭いにおいがするその車を見てジョーはハッとした。
「ルシーは?マックと一緒にいた女の人はどこ?」
シェリフは口髭に手をやりちょっと困ったような顔をして言った。
「彼女は行方不明だ。放火犯に連れ去られたという目撃情報もあるが、目下捜査中でね。」
「そ、そんな…。」
気が遠くなりそうになるのをジョーは必死にこらえていた。

 「ジョージくん、マクスウェルさんの遺言の品はあれですよ。」
シェリフの指さす方を見てジョーは「あっ。」と小さな声を上げた。
そこにはあのトレーラーハウスが置かれていたのだ。
駆け寄ってみるとほとんど…いや全くと言ってよいほど傷ついてもいなければ焼けた跡も無かった。
 「なぜかこのトレーラーは海岸の方へと引き出されていてね。俄かには信じられんが、火だるまになって燃えている人間が押し出していたという証言もあって…。」
シェリフの言葉にジョーはカッと目を見開いてトレーラーのガラス窓に手をついた。
「トレーラーをジョージ・アサクラという子にやってくれというのが病院に担ぎ込まれたマクスウェルさんの最期の言葉でしたよ。」
 ジョーは二の句が継げなかった。
そしてトレーラーにしがみつくようにして声をあげて泣いた。
シェリフはジョーの背中に手をやると優しく話しかけた。
「こんなときに申し訳ないのだが、ジョージ君。最後に一つだけ質問があるんだ。」
ジョーは手の甲で涙を拭うとこくりとうなずいた。
「マクスウェルさんは何かわからないが闇の組織に狙われていたようだった。もしかしたら一緒にいた女性が関係あるかも知れない。何か知っていることはないかね?」
 ジョーは首を横に振った。
恥ずかしいとは思ったが嗚咽が止まらなかった。
激しい波のように押し寄せてくる悲しみに任せて泣いた。

 ジョーはその夜をトレーラーの中で過ごした。
そして次の日の朝早く「コンドル号」の後ろにそれを取りつけると、南部博士の元へと戻ることにした。
まだ新しいがだいぶなじんできたハンドルを操りながら
「マック…。俺、マックの分まで長生きするよ。そしてこのトレーラーを一生大事に使わせてもらうぜ。」
そう独り言をつぶやいた。

 バックミラーに朝日がまぶしく反射している。
ジョーは下ろしていた前髪を右手で掻き上げてみた。
朝焼けに赤く染まったその顔はいくらか大人びて見えた。


The End

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お母さんの膝の上

ふと目が覚めるとカーテンの隙間から陽がさしていた。
朝になったようだ。
晴れたか…。
今年のクリスマスイヴもホワイトクリスマスとはいかないな。

「それにしても、寒い…。」
そう小さくつぶやくと素っ裸のケンはもう一度布団の中にもぐりこんだ。

「なんだまた寝ちまうのか?」
ケンの隣りで裸の胸の上に灰皿を乗せたいつものスタイルでジョーがベッドに横になったまま紫色の煙を吐き出していた。

「メリークリスマス、ジョー。」
「メリークリスマス、ケン。夕べは世話になっちまったな。」
ジョーの呼吸に合わせて耐熱ガラス製の黒い灰皿がわずかに上下している。

「あぁ、ちょっと飲み過ぎた…。」
「任務とはいえ随分と不条理な結末だったからな。」

ギャラクターに運命をもてあそばれた美しい少女の顔が二人の脳裏から離れなかった。
しばらく沈黙が続いた後、胸の上で煙草を消したジョーが口を開いた。

「おい、ケン。今日はどうする?これから…。」
「オレは行くところがある。」

「ふっ、女のところとか言うんじゃねぇだろうな。(オレと寝た次の日に女のところへ行くとは思えねぇが…。)」
「…男か女かというのなら、女だな。」

「う、このやろう!」
ジョーはケンが枕にしていた腕を勢いよく引き抜いた。
「おいおい、灰皿が落ちるぜ。ジョー。」

「くそう。」
ジョーは灰皿をベッドサイドテーブルに戻した。

「お前も一緒に来るか?ジョー。」
ケンは今度は自分の腕を枕にしてジョーの方へ寝返りをうつと碧い瞳を輝かせ、ニヤリと笑った。
「な、なにぃ?!」
ケンの意外な言葉にジョーは返事に詰まった。
そして
「俺は出かける支度をするからお前先にシャワーを浴びて来いよ。」
というケンの言葉に素直に従うのだった。
だが、ジョーはシャワーから出て来ると
「オレは…帰ることにした。お前には付き合いきれねぇからな。」
そう言い残すと飛行場をあとにした。

「やれやれ。」
シャワーを浴びたケンは濡れてますますウェーヴが大きくなった栗毛色の髪を薄いブルーのバスタオルで無造作に拭きながらベッドの下を覗き込んだ。
そこには用意してあったショルダーバッグがある。中にはサンタクロースの衣装が入っているのだ。
ケンはそれを確認するとバイクにまたがりエンジンをふかした。

懐かしいが悲しい思い出のある湖の前でバイクから降りたケンはじっと湖面を見つめていた。
そして独り言のように口を開いた。
「ジョー、隠れていないで出て来いよ。後をつけられているのに気づかないとでも思ったのか?」
ジョーが街路樹の陰から腕組みをして出てきた。
「へっ、流石だぜケン。だが行き先はここであっているのかい?」
「あぁ。この先の…。ほら、あれだ。」
ケンが指差したのは作りこそしっかりしているがかなり古いアパートのような建物だった。

「ここは老人ホームじゃねぇか?」

ケンは持っている小さなメモ用紙を確かめた。
「ホントワール国立養老院309号室。シャルロッテ・ケリー。」
「シャ、シャルロッテ??」

「ジョー、オマエに話しただろ?死の谷での出来事を…。」
「あ、あぁ。ギャラクターを裏切り、おめぇと二人で井戸につるされたっていう男の話だろ?(…うらやましい。)」
「あの時、ケリーに頼まれたことをさ…」
「うん…。」
ジョーはメモを覗き込んでケンの顔と見比べた。どうやら本気らしい。
「おふくろさんにはとても本当のことは言えないだろう?」
ジョーは右手を顎の下に当ててケンの言葉を聞いている。
「本人を差し置いてアカの他人が面会に来るというのもおかしな話だ。で、考えたんだ。…クリスマスにサンタが息子に代わって来るならいいんじゃないかってな。」
ケンの話にジョーは思わずニヤリとした。
「それもおかしな話かもしれないが、見ず知らずの男が突然来るよりはマシかも知れねぇな。」
「あぁ。クリスマスの奇跡って言うやつさ。どうだ。ジョーも来るか?」
「フッ。お手並み拝見と行くか。」

二人はひんやりとした養老院の階段を上がっていった。
「ここだ。」
サンタの衣装に着替えたケンはドアをノックした。
「失礼します、シャルロッテさん。」
「メリークリスマス!…っだろ、ケン。」
「ん、あぁ。そうだったな。メリークリスマス!ほー、ほ、ほ、ほ!」

「おや、サンタさんかい?ドアは開いているよ。お入り。」
殺風景な部屋の真ん中にある上半身をわずかに起こした介護用ベッドの上に彼女は横になっていた。

ケンはシャルロッテの顔を見てギョッとした。なにもかもあのアーサー・ケリーに生き写しだ。いや、順序からいったらアーサーがシャルロッテに似ているのだが…。

「おや、サンタさん。メリークリスマス。今日は冷え込んだというのに、ご苦労さんでしたね。ささ、もっと近くに来て顔をようく見せておくれ。」
流石にこの歳になると何が起きても動じなくなるのか、シャルロッテは普通の面会人と同じようにサンタを迎え入れた。

「で、こちらの方は?」
し、しまった!
ジョーは素顔で、それもこの寒空に半袖のTシャツのままじゃないか?!

「お…あ…う…」
ジョーは言葉に詰まった。
いけない。
「いや~、こいつは…。」
そう言いながらケンは考えた。こういう時にとっさの判断ができなければガッチャマンとは言えない。

「こいつはトナカイなんです。」

「なっ…!?」
言うに事欠いてトナカイとは!鳴き真似でもしようかと思ったがなんて鳴くんだ?トナカイ…。
ジョーは頭の中は真っ白、目の前は真っ暗になった。

「お~っほ、ほ、ほ、ほっ。」
突然シャルロッテはしわだらけの顔をさらにくしゃくしゃにして笑い出した。
「そうじゃないかと思っていました。」
「はぁ?」
ケンとジョーは顔を見合わせた。

「サンタさんにトナカイさんは付き物ですからね。仲がよろしくっていいじゃありませんか?」
シャルロッテは続けた。
「で、サンタさん。プレゼントは何かね?」
シャルロッテは分厚いメガネの上から白い眉毛とひげのあいだに見えるサンタにしては若すぎる碧く澄んだ瞳に話しかけた。
「息子さんに会ったんですよ。アーサー・ケリーさんに。」

「息子」という言葉を聞いてシャルロッテの顔が曇った。
「ふん。どこで何をしてるかちっとも便りをよこさないと思ったらよりによってクリスマスにサンタをよこすなんて。お天道様に顔向けができないことをしていなけりゃいいが…。」
そういうとシャルロッテは布団をかぶりなおしてむこう側を向いてしまった。

母親ってこういうものなのか…?
こんなに年老いても、自分の子供のことを心配している…。
ケンもジョーも幼いころに死に別れた母親のことを思い出していた。
自分もこんな風に母親に似ているんだろうか?
いま生きていたらやはりこんな風に自分のことより息子のことを心配してくれるのだろうか?

「ねぇ、サンタさん。」
シャルロッテは向こうを向いたまま話し始めた。
「今度アーサーに会ったら伝えてくれませんか?母さんはお前を生んで本当によかったと思っているとね。アーサーのおかげで私は母親になれたんだからね。どこで何をしているか知らないけど…。あぁ、でもサンタさんが友達なら悪いことはしていないね。」

ケンは言わなくてはならないことがあったが、胸に込み上げてくるものがあってなかなか言葉が出なかった。
プレゼントが入っている白い袋をグッと握りしめると口を開いた。

「アーサーさんから伝言を頼まれてきました、シャルロッテさん。今まで親不幸をして申し訳なかった。いまは遠い国へ働きに行っているから会えないがまとまった金ができたら必ず会いに行くから待っていてくれ…とね。」

シャルロッテは相変わらず向こうを向いたままだった。そしてため息まじりにつぶやくように言った。

「お金なんかいらないから元気でいるようにって言っておくれ。サンタさん…。」
その声は涙に震えていた。
「…わかりました。シャルロッテさん。」
ケンはそう言うのが精一杯だった。

そしてジョーにも顔を見られないように壁の方を向いてそっと涙をぬぐうと、いつもの口調で命令した。
「さぁ。次の人のところへ行く時間だ、トナカイくん。ソリの用意はできているな。」
「あぁ。いつでも出掛けられるぜ、ケ…いや、サンタさま。」

するとシャルロッテがこちらに向きなおって言った。
「サンタさん、今日はありがとう。来年のクリスマスにも来ておくれよ。死なずに待っているからさぁ。ねっ、トナカイさんも。」

トナカイはにっこり笑ってシャルロッテに言った。
「あぁ、来年も必ず来ますよ、シャルロッテさん。今度来るときはこいつがトナカイでオレがサンタでね…。」
「おいっ!」

サンタはトナカイの腕をがっちり掴んで引きずるように309号室をあとにしたのだった。


おしまい

拍手

キリストさまにそっくりだ

1.
トレーラーハウスのカーテンを開けると朝日がまぶしく輝いていた。
「ちぇ。今年のクリスマスイヴもホワイトクリスマスはお預けか…。」
ジョーは小さくつぶやくともう一度暖かいベッドの中にもぐりこんだ。
「…冷たいぞ。ジョー。」
まだ半分眠っているケンが眉をひそめた。
「へへ。ケンはあったかいぜ。」
ジョーは背中を丸めてケンの胸に額を押し当てた。
「今回は任務といえ厳しかったな。ジョー。」
「あぁ。今度こそ完全にお陀仏かと思ったぜ。」

ケンは再びジョーの脚に自分の脚を絡めてきた。
「今日はこれからどうする?ジョー?」
「あぁ。ちょっと出かける。用事があるんだ。」
灰青色の瞳を今度は天井に向けてジョーは答えた。
「女のところか?」
「まぁ、男か女かと言われれば女のところかな。」

「そうか…。」
殴られると思って身を固くしたジョーだったが、ケンは絡めた脚をほどくと長いまつげを伏せたままジョーのベッドから降りた。
「シャワーを借りるぜ。」
元気のない声だった。
やはり昨日の任務が堪えたのだろうか?それとも…。

ジョーはシャワー用のタンクに水を足しながら、ドアの向こうのケンに話しかけた。
「おい、ケン。おめえも来るか?一緒によ。」

トイレ兼シャワー室のドアがガチャリと開いた。
「何だってぇ?」
「おめえが来れば俺より歓迎されるぜ、たぶんな。悔しいけどよ。」
ケンの青い瞳に光が戻った。

「シャワー、交代しろよ。ケン。オレが出たらすぐに出発だからな。」

2.
ジョーはそそり立つある岩山のふもとで車を停めた。
そこはケンにも見覚えのある場所だった。

キーンと冷え込んだ空気と真っ青な空にその「顔」がくっきりと映えていた。

「ジョー、ここは…。」
濃い青色に鈍く光るドアを開けながらケンはその「顔」に目が釘付けになった。
ジョーも車外に出て腰を伸ばした。
「あぁ、あのでっかいキリストさまの顔。クリスマスにはふさわしい場所だろ?ケン。」
ジョーは得意げに鼻をふくらませた。
「ってことは…おい、ジョー。まさか…あの子と…そんな仲になったんだ?(俺の知らないところで…)」
「へへ。ま、ひょんなことから再会しちまったわけさ。スーザンによ。」
「ス、スーザン?!」
「スーザン・オーガスト。彼女の名前さ。」
「オマエ、正体をバラしたのか?」
「おめえだってナオミちゃんにバラしちまったろ。おアイコさ。」
「まぁな。そんなこともあったっけ。」

再び車に戻ったジョーはナビシートのケンにこれまでのことを話し始めた。
「こ
の前参戦した耐久ラリーでたまたまここを通ったのさ。オレ、今回はちょっとへまをやらかしちまってよ、勝てる見込みがなかったんでここでリタイヤしたの
さ。で、あのキリストさまを彫っていた女の子に会いたいと言ったら近くの孤児院を紹介されてな。彼女今そこの玄関に飾るマリアさまを彫っているんだ。」
愛車のハンドルを片手で握り、もう一方の手で鼻の横をこすりながらジョーはいつになく饒舌だった。

「彼女お前のことがよくわかったな。」
「あぁ、俺の声を聞いてピンと来たって言ってたぜ。
「ふぅん。」

「で、クリスマスイブの日に孤児院でページェントをやることになってな。」
「ページェント?」
「キリストさま誕生の寸劇さ。」
「で、彼女がマリヤ様を、オレが…」
「神様ってツラかよ。」
「いや、オレはマリヤ様のご亭主役でヨセフさ。」
「フン…。」

なおもジョーの話は続く。
「で、『主役のキリストさまを誰かやってくれないかしら~?』って彼女が言うもんでよ。」
ジョーはスーザンの口真似まで始めた。
「…。」

3.
「ここだ。」
ジョーは住宅街を抜けて小さな林の中にあるお城のような形の建物の前で車を停めた。
円錐形の赤い屋根の上には十字架がかけられていた。
玄関のドアが開くと小さな子供がパラパラと飛び出してきた。
それを追うように見覚えのある少女が現れた。
「ジョー!本当に来てくれたのね。待っていたのよ。」
「へへっ。(最初にこういう出会いをしていりゃよ~。)」
「え?何か言った?」
「いや、なんでもねえ。えっと、こちらが俺のトモダチのケン。」
スーザンの目がキラリと光ったのをジョーは見逃さなかった。
「お会いできてうれしいです。ケン…。」

4.
「劇の練習を始める前にクリスマスツリーの飾り付けをしたいのだけど、手伝ってくださる?」
スーザンの申し出にケンは大きな星の飾りをツリーのてっぺんに乗せた。
だがジョーは
「いや、オレはこういうコマイのはだめなんだ。園庭で子供たちとサッカーをしてくるよ。」
そう言ってさっさと外へ出ていってしまった。
だがどうやらそれで墓穴を掘ってしまったようだ。
少ししてから
「みんなぁ~。ツリーができたから見にいらっしゃ~い!」
「わ~い!」
スーザンの声に子供たちは一斉に園舎に戻った。

ジョーがボールをまとめて少し遅れて帰って来ると、スーザンとケンはすでにページェントの衣装に着替えていた。
「な、何っ?!」
よく見るとケンはヨセフの衣装を着ているじゃないか?!
「おい、ジョー。どうだ?似合うか。」
「なんでオマエがヨセフなんだ?しゅ、しゅ…。」
「あぁ、主役は謹んでオマエに譲るぜ、ジョー。」
「オレ、カミサマっていう顔じゃないぜ。」
「そんなもの、演技力でカバーしろよ。大丈夫、オマエならできるさ。」
「はぁ?!」
なんでそこでオレが励まされているんだ?
「彼女と話し合って決めたんだ。文句はあるまい。」
(くそう、ケンのやつ。斜め45度からのメヂカラを使いやがったな。)

だがもう遅かった。
誕生劇の幕は切って落とされた。

ヨセフ(ケン)「このような粗末な馬小屋で良く頑張ったね、マリア。」
マリア(スーザン)「何もかも天使のお告げの通りですわ。ヨセフ。この子は本当に私たちの救い主なのですね。」
二人は『かいばおけ』に寝かされているイエスの前でかたく抱擁し合う…。
イエス(ジョー)「バブーッ(く、くそう。)」

おわり

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誰かに似ている

ジュンは店の外に何かの気配を感じてドアをじっと睨んでいた。
まさか?ジゴキラー!?

思い切ってドアを開けて外に出てみるとそこには段ボール箱に入れられた小さな仔ネコが一匹ごそごそと動いていた。
「な~んだ。捨てネコかぁ。」

いつもなら、即ジンペイに他のところへまた捨てに行かせるのだが、今日のジュンは違っていた。
箱ごと仔ネコを店の中に運びいれたのだ。
それは今ジンペイが買い出しに行って、まだ戻ってこないからだけではなかった。
「誰かに似ているのよね~。」

そのとき、スナックジュンのドアが開いて健が入ってきた。
「あれ?ジュン、一人か?」
健は目ざとくカウンターの丸椅子の下に置かれている段ボール箱に気づいた。
「いいのか?飲食店でネコなんか飼って。」
カウンターの中でアイスピックをもったジュンが答える。
「飼っていないわよ。ジンペイが帰ってきたら言って捨てさせようと思っているのよ。」
健は仔ネコの首根っこをつかんで持ち上げた。
「ねぇ、健。この子、誰かに似ていない?」
そう言いながらジュンはカウンターを飛び越えて健の隣りにしゃがみこんだ。

手足をばたつかせてミャ~っと鳴いたその仔ネコの目を見て健はハッとした。
灰青色の瞳。
つり上がった目にとても生まれたばかりとは思えない鋭いまなざし…。

「ジョーだ。」

二人は同時にその男の名を口にした。
クロスカラコルムから二人が戻ってきて2年が過ぎようとしていた。

(おわり)

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ミッドナイトブルーに包まれて【脚本風】

(プールサイドで日焼けするカップル、遊園地ではしゃぐ子供たち、ディナーを楽しむ老夫婦など、南の島のリゾート地でくつろぐ人々の静止画がスライド写真のように映し出される。)

(三日月基地内の一室。南部博士は忍者隊にヘルシー島のスライド写真を見せながら豪華な施設を説明している。)

南部博士:諸君。ここが無公害エネルギーを使用し、自然を活かして作られたヘルシー島のデゼニー・パークだ。

ジンペイ:へ~、うわさには聞いてたけどよ。すっげーなぁ・・。

リュウ:オラ、知っとるぞい。アタレヤ国の名もなき離れ小島だったヘルシー島に、いまをときめくデゼニー社が巨額の資金を投じて造った夢のリゾートアイランドで、その環境に配慮された設備の数々は国際科学技術庁も注目しちょるんじゃったかいのぅ?

南部博士:うむ。その通りだ、リュウ。

ジンペイ:へー。リュウがこんなモダンな島のことをよく知ってたモダン・・じゃない、知ってたもんだ・・。

リュウ:オラ、新婚旅行はココって決めちょる。

ジンペイ:お~お~。よく言うよ。アテはあるのかい?おヨメさんのさ。

リュウ:まだ時間があるからのぅ。よーく考えてゆっくり探すんだわ。

ジンペイ:な~んだ。そんな事だろうと思ったよ。そういうのをね、「取らぬ狸の皮算用」っていうんだぜ。

リュウ:なんだと~!オラのカミさんになる子はタヌキなんかじゃないわい!

ケン:まあまあ、ふたりともそのくらいにして博士の話の続きを聞こうじゃないか。で、博士。こんな立派な施設に何か起きたというわけですね?

南部博士:そうだ。ここの飲料水は、この島の中央に広がっているジャングル地帯に降った雨水をろ過したものが使われている・・いや、使う予定だったのだ。その画期的な技術に国際科学技術庁が注目していたのだが・・。

ジョー:毒でも入っていたんですか?

南部博士:うむ。毒とまではいかないが、不純物が混入していてどうしても取り除けないというのだ。

ジンペイ:なんだぁ。毒じゃないんだったら、ちょっとくらいどうってことないや。ねぇ、お姉ちゃん。

ジュン:あら、私はイヤだわ。直接身体に入るものに不純物が混ざっているなんて。それも毎日飲む水でしょう?

ジンペイ:へぇ~っ?!そんなもんかねぇ?

南部博士:ジュンの言うとりだ、ジンペイ。人間の体の約65%、つまり半分以上が水でできているのだ。そしてその水は主に飲料水から摂取している。
そして特にジンペイ、君のような子供は約70%、このくらいまでは水でできているのだ。

(博士、ジンペイの首のあたりに手をやる。)

ジュン:どう?ジンペイ。アンタのここまで不純物が混ざってるとしたら?

ジンペイ:(あわてて)え~っ!ヤだよ。オイラ・・・。やっぱり・・・あ~、びっくりしたなぁ、もう!

(みんなクスクス笑う)


南部博士:そこでだ、諸君。この水の汚染源をまず探ってほしいのだ。

ケン:わかりました、博士。さっそくゴッドフェニックスで向かいます。命令を出してください。

南部博士:いや、今回はゴッドフェニックスは使わずに行くのだ。

ジョー:ええっ?!

リュウ・ジンペイ:アララ。(ズッコケる)

南部博士:今回は国連軍のヘリでヘルシー島の上空まで行き、ジャングル地帯へ直接降下するのだ。
デゼニー社からの招待は2日後だ。その前に一度こっそりと下見をしておきたいだろう?

ジョー:こいつは面白くなってきた。いこーぜ!

リュウ:と、いうことはオラも・・?

南部博士:ああ。頑張ってきてくれたまえ。

リュウ:うへへへ。

ジンペイ:あ~、でも博士。帰りはどうやって??

南部博士:うむ。他の観光客に混ざって普通にフェリーに乗って帰ってくればよい。

ジンペイ:なるほど・・。

ジュン:ジンペイ、いくわよ。

ジンペイ:は、はい。はい。


(軍用ヘリの中。ヘルシー島上空。)


ケン:よし。いくぞ!科学忍法、スパイラル・シューター!!

ジョー:よっ。

ジュン:はっ。

ジンペイ:やっ。

リュウ:それ~っ!!


(5人はクルクルと輪を描きながらジャングルへと降下していった。)


(ヘルシー島に降り立つ諸君。)
(目の前には美しい湖が広がっている。)

ジュン:わぁ。きれいね~。

リュウ:これが水源地かの~?

ケン:しっ!誰か来る!

(全員それぞれ木の影にかくれる。)
(枯れ木や木の根っこを積んだ大型トラックが湖岸にやってくる。)
(トラックから降りてきたのはデゼニーの社長と部下が1人。)

ジンペイ:あれ?あれはデゼニーの社長さんだ。

ジュン:しっ!

ジョー:どうする?ケン。

ケン:しばらく様子を見よう。

社長:(あたりをうかがって)よし。さっさと片付けるんだ。

部下がスイッチを入れるとトラックの荷台が傾いて枯れ木などがすべて湖に沈んでしまう。

社長:これでよし。さ、帰ろう。

(トラックが去ってしまう。)

(顔を見合わせる諸君。)

ケン:あれだ。不純物の原因は。

ジョー:だとすると社長さんは知っていたことになるぜ。

ジンペイ:アニキ~、どうする~?

ケン:うん・・。あの社長さんから、わざわざ調査のご招待をいただいているんだ。
きっと、裏に何かある。

ジョー:へっ、ちょいとあの社長をしめあげりゃ・・。

ケン:いや、今日はここまでにしよう。もうすぐフェリーが出る時間だ。行こうぜ。


(大空を飛ぶゴッドフェニックス。)

ナレーション:改めてデゼニー株式会社からの依頼を受けた科学忍者隊はゴッドフェニックスでヘルシー島へと向かった。

(ゴッドフェニックスの中)

ケン:いいか、みんな。ジャングルの中で見たことは、しばらく黙っているんだぞ。

ジンペイ:分かってるって、アニキ。でもよー、なんで原因が分かっているのに調査を依頼してきたんだろうかねぇ?

ジョー:それを探るのも、今回のオレたちの任務って言うわけさ。

ジンペイ:ちぇ。ギャラクターが相手じゃないと、なんか、こう、力が出ないというか、いまいち燃えないというかさ・・。

(と、シャドーボクシングをする。ヘルメットがまぶかになる。)

ジョー:へへっ。ジンペイ、ギャラクターが出てきたらたのむぜ。

ジンペイ:出るかな?ジョーのアニキ。

ジョー:出るな。

ジンペイ:へー、ずいぶんと自信があるんだね。

リュウ:ケン、ヘルシー島が見えてきたぞい。

ケン:よし。管制塔の指示通りに着陸させるんだ。

リュウ:わかった。

ジョー:おい、ケン。まともに行って大丈夫か?

ケン:ああ。今回は表向きにしろ調査依頼をわざわざしてきたんだ。
来た早々いきなり爆破なんていうことはないだろうよ。

(空港に着陸するゴッドフェニックス)


(一方、総裁Xの部屋にはベルク・カッツェが控えていた)

総裁X:カッツェよ、ギャラクターの秘密を知ったデゼニーの社長をうまく始末できるのか?

カッツェ:はい。都合よく社長を恨んでいる女がおりますので、そやつを利用して暗殺させようかと・・・。

総裁X:女?女は力が弱いぞ。大丈夫なのか?

カッツェ:はい。あの社長は島民にはジャングルの木を一本たりとも切らないで遊園地を作ると約束したにもかかわらず、たくさんの木を伐採して湖に捨てておりまして・・・。

総裁X:ヘルシー島の地下に眠るウラン鉱脈を発見し、湖底から採掘を始めようとしていたギャラクターと鉢合わせになったというわけだな。

カッツェ:そこで、社長には科学忍者隊をおびき寄せれば秘密を守ってやるといってあります。
社長があのニックキ科学忍者隊を湖底基地の迷路に誘いこんだところで・・。

総裁X:もし失敗したら?

カッツェ:そのときは鉄獣ダイネッコを出動させればもう万全でございます。総裁。

総裁X:そうか。あのウラン鉱脈は地球征服にはなくてはならないものだ。
社長と科学忍者隊を抹殺してすべてを奪うのだ。よいな?

カッツェ:ははっ。


(空港のロビーでは社長が諸君を出迎えている)

社長:ようこそ来てくださいました。デゼニー株式会社の社長、デゼニーです。

ケン:今日はご招待ありがとうございます。国際科学技術庁の南部博士からもよろしくとのことです。

ジンペイ:(内緒話で)お姉ちゃん、リュウは?

ジュン:ケンに言われてゴッドフェニックスを別の場所へ移動させに行ったわ。

社長:これでみなさん、お揃いですか?

ジョー:いえ、もう一人。のろいのがいるんですよ。いや、すぐ来ますがね。はははっ。

リュウ:いや~っ。すまんすまん。待たせちまったのぅ。

ジンペイ:遅いよ、リュウ。

リュウ:思ったより道が混んでいてのぅ。はっはっ・・・ん、んっ?

デモ隊の声:デゼニーは汚いぞ~!・・・真実を公表しろ~。

リュウ:ん、んっ?何の騒ぎじゃ。一体?

(ロビーにデモ隊が押しかけている。警備員が押し戻そうとしている。)

(デモ隊の先頭に美しい女性がひとり黒いリボンがかかった写真を掲げている。その写真がクローズアップされると素顔のジョーにそっくりである。)

デモ隊の声:ジョナサンをかえせー。社長を辞めろ~。ちゃんと謝罪しろ~。

ケン:あれは何の騒ぎですか?

社長:いやいや、たいしたことではありません。ここを建設しているときに作業員が一人、事故で亡くなりましてね。その遺族がいまだに私のことを目の敵にして、ときどきああして抗議に来るんですよ。
まったく迷惑なことです。(汗を拭く)

ジョー:あの写真を持った女性は?

社長:亡くなった作業員の婚約者だった人らしいのですが、私はよく知りません。(汗を拭く)

ジンペイ:いや~、それにしてもあの写真の顔は・・・。

ジュン:ジンペイ!何を言い出すの?!

ジンペイ:いっけねぇ~。オイラもうちょっとで・・。あれっ?!ねー、おねえちゃん。ジョーのアニキは?

ジュン:今までここにいたわよ。あら、やーねぇ。どこへ行っちゃたのかしら?

(こっそりとデモ隊の後を追うジョー。)

(街はずれの広場でデモ隊は解散。「ごくろうさま。」「またがんばろう。」「ありがとう。」などと挨拶を交わす。)

(写真を持った女性はひとりで路地の奥にある小さな家へ帰っていった。)

(その様子を陰にかくれて見ていたジョー。一瞬姿を消すと素顔になって現れる。)

(女性の家のドアをノックするジョー)

(ドアを開けた女性はハッと驚くが、突然ジョーに抱きつく。)

女性:ジョナサン!帰ってきてくれたのね!やっぱり死んでなんかいなかったんだわ!

ジョー:あ。い、いや。オレは・・。

女性:えっ?(ジョーをじっと見つめる女性)
・・・違うわ・・。よく似ているけど、あなたはジョナサンではないわ。

ジョー:そんなに似ていたかい?

女性:ええ。でも、ジョナサンはここにホクロが・・。(と、ジョーの口元に手をやる。)

ジョー:(少し照れながら、その手を握リ返すと握手をする)俺はジョー。さっき空港で君たちのことを見かけてあとをつけて来たのさ。君、名前は?

女性:私、ミシェルよ。

ジョー:ところで、ミシェル。この島のジャングル地帯のことで聞きたいことがあるんだが?

ミシェル:なんですって?!

ジョー:あのデゼニーの社長さんのことで知ってることがあるだろう?!

ミシェル:あ、あなた・・・まさか・・・。

(次の瞬間、ジョーがエアガンを出すのとミシェルがナイフを出すのが同時だった。)

ミシェル:ジョー、やっぱり。ギャラクター。

ジョー:なに?!そういうおめぇこそギャラクターだろう?!

ミシェル:ギャラクターを知っているのが何よりの証拠さ。

ジョー:なら、おめぇは何で知ってるんだ?えぇ?!

ミシェル:ふ・・ん、(ナイフを下ろす)やるがいいさ、ジョー。さあ、私を撃って。ジョナサンのところへいけるから・・・。

ジョー:う・・。わかったよ、ミシェル。(エアガンをしまいながら)だが、オレはギャラクターじゃないぜ。ギャラクターに殺されたんだ。オレの両親は・・。

ミシェル:ご両親が・・殺されたの?

ジョー:ああ。だからオレはいつかヤツらに復讐してやるんだ。

ミシェル:ジョー・・・。こっちへ来て。(思いつめたような顔でジョーの手を握り部屋の奥にあるカーテンの中へとジョーを引っ張って入って行く)

ジョー:ミ、ミシェル・・?そんな・・オ、オレは・・。

(カーテンの中は小さな部屋になっていた。そこには暗青色の布がかけられた祭壇があり、中央にはジョナサンの遺影がかけられていた。)

ジョー:へぇ。こういうのには黒い布を使うものだと思っていたぜ。

ミシェル:えぇ。彼がこの色が好きだったものだから。ミッドナイトブルーっていうのよ。

ジョー:それでミッドナイトブルーに包まれてるってわけか。

ミシェル:えぇ。(祭壇の布の下からカセットテープレコーダーを取り出す。そこには、ギャラクターのマークがはっきりとついていた。)

ジョー:これは・・?(目が鋭くきらりと光る)

ミシェル:一週間ほど前に届いたの。ギャラクターから。ジョナサンの仇(かたき)をとってやるから、ギャラクターに入らないかって。

ジョー:なんだって!?

ミシェル:これから返事をしにジャングルの湖まで行くのよ。

ジョー:ミシェル、おめぇ・・まさか・・?

ミシェル:ジョー、あなたには悪いけど私、ギャラクターに入ってジョナサンの仇を討ちたいのよ。

ジョー:じゃぁ、なぜこの話をオレに?

ミシェル:さぁ・・?あなたがジョナサンに似ていたからかしら。

ジョー:わかったよ、ミシェル。邪魔したな。

ミシェル:帰るの?止めないのね。

ジョー:ああ。好きにしたらいいさ。(出ていく)

ミシェル:ジョー・・・。

(カセットを持って家を出るミシェル。こっそりとバードスタイルのジョーがあとをつける。)

(場面変わって、郊外の田舎道を進む一台のマイクロバス。派手な塗装が施されている。)

ナレーション:一方、ガッチャマンたちは社長自らが運転する観光用のマイクロバスに乗り込み、水源地へと向かっていた。

社長:この先が島の中央ジャングル地帯になっていまして、水源地の湖があります。

(前の席で眼を閉じたまま何かを考えているケン。リュウは一番後ろの席で大イビキをかいている。ジュンとジンペイは遊園地のパンフレットを見ている。)

ジュン:湖やジャングルのことはパンフレットに書いていないんですね。

社長:は、はい。遊園地とは直接関係ないものですから・・。

ジンペイ:へ~、そんなもんですかねぇ。

社長:(汗を拭く)

(社長、車を止めて外に出る。)

社長:ここが湖の入り口です。ここからは歩いていきます。

(湖畔の見張り小屋まで来ると社長は門柱のボタンを押す。ボタンが光って門が開く。___ギャラクター基地のボタンが光る。それを見たカッツェがうれしそうにモニターのスイッチを入れる。社長と忍者隊がモニターに映る。)

カッツェ:来た来た。ガッチャマンめ、何も知らずに社長のあとにくっついて来よった。ファハハハッ!今日こそ地獄へ送ってやるからな。

ギャラ兵:カッツェさま。ミシェルと名のる女がカッツェさまに会わせろと来ておりますが・・。

カッツェ:なに?ミシェル・・?おぉ~、そうかそうか。とうとうギャラクターに入る決心をしたんだな。よ~し、ここへ通せ。

ギャラ兵:はっ!

(一方、ガッチャマンたちは、見張り小屋の中へと案内されていた。)

社長:ここに問題の浄化装置があるのですが・・。
ス、スイッチを入れてみますか?

ケン:はい。お願いします。

(社長がスイッチのレバーをガタン!と下げると、床が落とし穴になって地下室へ社長もろとも落ちてしまう。)

ジンペイ・リュウ:ウワ~ッ!

ケン:社長さん、これは一体どういうことですか?

カッツェの声:ファハハハハッ!ガッチャマン、まんまとワナにかかりおったな。デゼニーの社長さん、ごくろうだったな。おかげで、ニックキ科学忍者隊をやっつけることができそうだ。

社長:カッツェさま、科学忍者隊をつれてくれば湖の底に沈めた木の根っこを片付けてくださるという約束は・・?

カッツェ:あ~あ、片付けてやるとも。おまえや忍者隊ともどもきれいさっぱりとな。

社長:だましたな!カッツェ!

カッツェ:今頃気づいても遅いわ。サラバだ、諸君。

ジンペイ:くっそ~、いつもながら汚いぞ!カッツェ!

社長:(土下座して)許してくれ、ガッチャマン。私が馬鹿だった。内緒でジャングルの木を伐採して湖の底に沈めていたのだがギャラクターのやつらに見つかってしまい、黙っていてやるから科学忍者隊をここへ連れてくるように言われたのだ。す、すまなかったー。

(土下座をしている社長をモニターで見ているカッツェ)

ギャラ兵:カッツェさま、ミシェルをつれてまいりました。

(ミシェルが入ってくる)

カッツェ:お~、ミシェル君。よく決心したな。ギャラクターに入ったお祝いにさっそく仇を討たせてやろう。モニターを見たまえ。

ミシェル:うっ、デゼニー。一緒にいるのは科学忍者隊?!

カッツェ:どうだね?ミシェルくん。このスイッチを押せば天井が落ちてきて社長はペシャンコだ。あっという間に仇がとれるぞ。ファハハハハ。

(ミシェルはボタンに手をかけるが、その手は震えていてなかなかスイッチが押せない)
(同じく肩を震わせている社長)

ケン:社長さん、よく言ってくださいました。

社長:へ?(顔を上げる)

ケン:実は、事前に湖を調査したのです。なぜ社長さんがうそをついてまでわれわれをここに呼び出すのか知りたくてワナにはまったフリをして来たのです。

社長:(涙をこぼしながら)わ、ワシは怖かったんじゃ。同じようにギャラクターの秘密を知った現場監督のジョナサンが、こっそり国際科学技術庁に連絡をしようとしてギャラクターに殺されたのを見てしまって・・!

ケン:そうだったんですか。社長さん、ギャラクターの基地の入り口をご存知ですね。

社長:み、湖の下です。地下通路でつながっています。

ケン:そうとわかれば・・ジュン、ジンペイ!あのドアを爆破するんだ。

ジュン:まかせといて。

ジンペイ:それーっ。

(ヨーヨーと爆薬を仕掛けたクラッカーを同時に投げてドアを破壊する)
(リュウがマントで社長を守る)

ケン:よし!いくぞ。

カッツェ:(モニターを見ながら)ばかもの。もたもたしているから逃げられてではないか?!
う~ん。こうなれば基地ごと爆破してやるー。
お前は私と来るんだ。

(ミシェルを引っ張って隠し扉の向こうへ消える)

(入れ替わりにガッチャマンたちが基地内にやってくる)

ケン:ここだな。

(ギャラ兵たちの一斉銃撃)

(それをかわして4人それぞれが、つぎつぎとギャラ兵をやっつける)

ケン:カッツェ、どこにいる?出て来い!
くそう、カッツェめ。逃げたな。

(ジュンが時限装置に気づく)

ジュン:ケン!たいへんよ。もうすぐこの基地は爆発するわ!

ケン:なんだって?しまった!すぐに脱出するんだ。

(社長とともに基地から脱出したガッチャマンたちだが、地下通路が入り組んでいて途中で迷ってしまう。)

ケン:く、くそう。どっちが出口なんだ?

ジンペイ:おねえちゃーん、もうだめだ~。

ジュン:ジンペイ、最後まであきらめちゃだめよ。

ジョー:おい、ケン!こっちだ。

ケン:ジョー、どうしてここに?

ジョー:そんなことはどうでもいい。早くこっから出る方が先だぜ。

(見張り小屋の出入り口にやっとたどり着き地上へ出る忍者隊。)
(その時、湖が大きく盛り上がって枯れ木を吹き飛ばしながらダイネッコが出現する。)

(あっという間に忍者隊に追いついたダイネッコが目前に迫る。)

リュウ:うわ~っ。

ジョー:こ、こいつー。

ジュン:早く逃げないと踏みつぶされてしまうわ。

ジンペイ:おねえちゃ~ん!

(ダイネッコの操縦席にはカッツェが。)

カッツェ:ミシェルくん、よく見たまえ。君の婚約者の仇きがもうすぐ討てるぞ。

(ミシェルは操縦席の後ろにしがみついて泣いている)

ミシェル:(心の中で)ジョナサンを殺したのは社長ではなくてギャラクターだったんだ。何とかしてガッチャマンたちを助けなければ・・。

ケン:リュウ!ゴッドフェニックスはどこに隠してあるんだ?!

リュウ:あの背の高いヤシの木の下だわ。

ケン:よし!オレがやつを引きつけておくからその間に乗り込むんだ。
いいな、ジュン。社長さんを頼んだぞ。

ジュン:オッケー。

ケン:バードラン!(ダイネッコにブーメランを投げるがはね返されてダイネッコが健に迫る)

(間一髪でゴッドフェニックスがダイネッコとケンの間に割って入る。)

(素早くゴッドフェニックスに乗り移るケン)

(と、同時に見張り小屋や湖が大爆発)


ケン:(ゴッドフェニックスのコックピットに戻って)よぉし、ジョー、バードミサイルだ!

ジョー:ま、待ってくれ。ケン。

ケン:なにぃ?!

ジンペイ:あれ~っ、今日はなんかいつもと逆だぞ~。

ジョー:あの中にはミシェルが・・。

ケン:誰だってぇ??

(その時大きな爆発音とともにダイネッコが自爆。カッツェは角の部分から脱出用の小型ロケットで逃げる)

ジョー:ミ、ミシェル~~~~!!!(ゴッドフェニックスから出ていく)

ケン:ジョー!どこへいくんだ?まだあぶないぞ。

ジュン:ジョー、やめて。

ジョー:ミシェル、死ぬな~!

(ダイネッコ最後の大爆発。ダイネッコから放り出されるミシェル)

ジョー:しまった

ジンペイ:ジョーのアニキ~!

(ミシェルが倒れているところに駆けつけるジョー。素顔に戻っている)

ジョー:ミシェル、ミシェル。しっかりするんだ。(ミシェルを抱き起こす。)

ミシェル:(眼をあけて)ジョー・・。私思い知ったわ。復讐がどんな結果を招くのか。・・・また誰かが死ぬだけよ。

ジョー:ミシェル、死んじゃいけない。

ミシェル:でも、ジョーの・・仇きはとっ・・たわ。鉄獣の・・自爆スイッチを押して・・やったの。カッツェは・・吹っ飛んだ・・でしょう?

ジョー:あぁ・・。

ミシェル:よかった。(うっすら笑う)これで・・復讐は・・終わったわ。ジョー・・だからあなたは・・死んではだめよ。ジョー・・。うっう・・。(首ががくりとなる)

ジョー:ミシェル・・ミシェルーーッ!!(強く抱きしめると涙する)

(夕焼け空の中ゴッドフェニックスがジョーに近づいてくる。頬と頬を合わせるようにしてミシェルを抱いたままのジョー。ゴッドフェニックスは飛び去っていく。)

(夕日とゴッドフェニックスのラストシーン)

ナレーション:ベルクカッツェもギャラクターもまだ滅びてはいない。
だがジョーはそのことをミシェルには言えなかった。
それが本当になるその日まで、がんばれコンドルのジョー。戦えガッチャマン!  

(おしまい)

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