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復讐するは我にあり

   婚約者が死んでしまったその年のクリスマスにアランは牧師から神父へと改宗した。
生涯を共にできる人はソフィア以外にいないと思ったからだ。
もう一生誰とも結婚を考えることはないだろう。ならばいっそのこと生涯を神にささげようと決心したのだ。

 実はアランはもともと神父になろうと修業を重ねていた。
十年も前のことだが、突然遊び友達だったジョージが死んだと聞かされてからというものアランの荒れようといったらそれはひどいもので、とうとう未成年者ながら逮捕されてしまったのだ。
そのとき、身元引受人をかって出てくれたのが神父だった。
アランは教会の修道僧として将来の神父を目指し、教会に住み込みで働き始めた。

 そんなある日の夜も更けた頃、アランはろうそく一本の灯かりを頼りに礼拝堂の掃除をしていた。
本来なら昼の間にやっておくのだが、その日は神父とともにブドウの収穫を手伝いに行っていてできなかったのだ。
すると、そっと礼拝堂のドアが開いて誰かが入ってきた。
「どなたかね?」
アランはちょっとだけ神父の真似をして言ってみた。
するとその人影は懺悔室へと音もなく入っていった。
アランは神父へ連絡しようかと思ったが、好奇心から自分がそこへ入ってしまった。

「神父さま。」
その声は聞き覚えのある少女だった。

「ソフィア、ソフィアじゃないか。どうしたんだ?今頃。」
驚いたソフィアは顔を上げて仕切りの向こうにいるアランの顔をじっと見つめた。
「あ、アラン・・?」
逃げ出すかと思ったソフィアは意外にもホッとしたような顔で金網の向こうのアランに話し始めた。
「私、ギャラクターを抜け出したいの。でも一人では何もできない。パパもママもギャラクターだから、私だけが抜け出すことなんてできないわ。」
そんなソフィアにアランは自分の気持ちがしっかりしているのなら当たって砕けろ、上司にあたる女隊長さんとやらに直訴してみたらどうだ、きっと神様が守ってくださると言って励ましたのだった。

 それからというものソフィアは夜になると毎日のようにアランの元へ「懺悔」にやって来た。
それに気づいた神父が問いただすと、アランはこれまでのいきさつを話し、ソフィアの力になってやりたいのだと熱く語った。
神父はアランとソフィアが愛し合っており、すでに男女の関係になっていることを察知した。
そして、どうしてもソフィアを守りたいのなら神父ではなく牧師になって彼女と結婚するべきだとアドバイスしたのだった。


 季節風と近くを流れる寒流のおかげで狭い島ながらそこだけは夏でも冷たい風が吹いて島民の間で避暑地として使われていた海岸。
そこは10年近く前、ジョージが両親とともに銃殺されたと聞いたところだ。
アランはそこにソフィアと一緒に暮らすための小さな牧師館を建てようとしていた。
自分がここにいたらジョージがひょっこりと還って来るような気がしたからだ。

 小さいが誰でも訪ねて来られる明るい教会を作りたい。
貧しい家の子供たちを集めて文字を教え、聖書や他の本を読めるようにしてやりたい。
そうアランは将来の夢をソフィアに語った。

 ソフィアもアランの言う通りに女隊長にギャラクターを抜けたいと直訴していた。
恋する女に怖いものはない。
ソフィアの申し出に女隊長はある条件を出してきた。
そして、ソフィアはためらわずにそれを承諾したのだった。

「本当に大丈夫なのか?」
心配するアランにソフィアは微笑んで応えた。
「えぇ。女隊長が約束してくれたわ。これが最後の仕事だって。私はお母さんに教えてもらった技があるの。だれにも負けやしないわ。」
「そうか。頑張るんだよ、ソフィア。」
アランはソフィアの小さな肩を抱いた。

 ソフィアがその最後だという仕事に出かける前の日に二人は出来上がったばかりの小さな『自分たちの』教会で婚約式を行なった。
これからは二人でともに分かち合い、生きていくのだ。
誰が見てもお似合いの二人だった。
ソフィアが仕事から帰ってきたらすぐに結婚しよう。
そしてこれから二人で幸せになろう。二人の未来はまさにバラ色に輝いて見えた。



「アラン、アラン・フェリーニさんですね。」
婚約式の日から二週間ほどたったある土曜日の夕方、明日の礼拝の準備をしているアランの元を背の高い女性が訪れた。
金髪の長い髪を耳の横で束ねている。
「はい、アランは私ですが。」
「2号・・いえ、ソフィア・モンレールさんのことでお話が・・。」
「・・!・・。」

アランのいやな予感は的中した。

 ソフィアが死んだと事務的な口調で告げる女にアランはそんなことは信じないと言い張ることしかできなかった。
だが、さらにその女は冷たく言い放った。

「私はちゃんと見ていたのですよ。ソフィアは私どもの組織から抜けたがっていまして、これが最後の仕事になるはずでした。科学忍者隊のコンドルのジョーを捕まえてしまえば彼女は自由の身。あなたと結婚するのを楽しみにしていましたのにねぇ。」
「科学忍者隊?コンドルのジョー?」
「そうです。ソフィアはコンドルのジョーを捕まえようとして逆に捕まったのです。『私を許して逃がして欲しい』と懇願する彼女の胸めがけてジョーは羽根手裏剣を撃ち込んだのです。」
「なんだって?!」
「血も涙もない冷酷な人間ですわ。コンドルのジョーは。」
女は耳の下で髪を束ねている星型の飾りに手をやりながらそう吐き捨てるように言った。
「もういい。帰ってくれ。」

 ギャラクターの女隊長は、アランの言葉を聞くと冷たい微笑を浮かべ
「わかりました。では帰らせていただきますわ。」
そう人ごとのようにつぶやいて牧師館から去っていった。

「ソフィア・・。」
人間というのはあまりにも悲しいと涙が出ないというがまさにアランがそうだった。
ただ、「ソフィアは科学忍者隊のコンドルのジョーに殺された・・」
そう何度もつぶやくのだった。

 その次の日、アランの小さな教会では日曜礼拝が行われなかった。
そしてその夜、教会から海へと向かって歩く人影があった。
アランの身体は胸まで海につかり、大きな波がアランを呑み込みそうになる。
もうすぐ脚が立たなくなるだろう。

「・・アラーーン・・」
どこからか自分を呼ぶ声がする。
もしかして・・ジョージ・・?・・お前なのか・・?

 その時アランはガシッと強い力で抱きかかえられた。
「アラン、何をしているんだ?」
「し、神父さま・・!?」
朦朧とした意識がハッと戻った。

「ソフィアが亡くなったと聞いてお悔みを言おうと訪ねてみたら、今日の日曜礼拝がなかったというじゃないか。それで心配になって探しに来たのだよ。」
懸命に走ってきたのだろう、神父は荒い息づかいの中で休み休みそう言葉をつなげた。

「私の名前を呼んでいたのは神父さまだったのですね。」
「ああ。間に合ってよかった。」
ポンと神父に肩をたたかれて、アランははじめて声をあげて泣いた。
「うぅ・・うわーーっ・・」
 頭一つも神父より大きなアランが小さな子供のように神父にすがりついて嗚咽を漏らした。
暗い夜の海で二人はずぶぬれだった。
「そうだ。思いっきり泣くがいい、アラン。ここなら波の音がすべてを消し去ってくれる。」
神父はアランを抱きとめ、その背中をなだめるように優しく叩いた。
「自らの命を絶つということは神に逆らうことだ。もし死にたいのなら・・」
「死にたいなら・・?」
「・・殺してもらうしかない・・。」
「殺して?」
アランは神父の意外な言葉に驚いてほの暗い月明かりの中でその顔を見なおした。
 神父はふっと息を吐くと沖合いを見つめながら続ける。
「私だって人間だ。死にたいと思ったこともある。誰かライフルで私を撃ってくれないかとさえ思うほどにね。」
神父のような人でもそんな風に思うことがあるのか・・。それとも自分を励まそうとしてこんな話を・・?

 神父はアランの両肩に手をやると
「だが、君はまだやることがある。子供たちが君に勉強を教わりたいと待っているじゃないか?」
そう言いながらアランの身体を揺さぶった。

 そして今度はアランの手を取り片方の手でその手の甲を軽く叩きながら
「君は新約聖書、ローマ人への手紙、第12章第19節を知っているね。」
そう問いかけてきた。
「はい、神父さま。」
「言ってごらん。」
「あ・・愛する者よ、自ら復讐するな、ただ神の怒りに任せまつれ。(しる)して『主いい給う。復讐するは我にあり、我これを報いん』・・。」
 神父はもう一度、アランの顔を見た。
「教会学校の子供たちにはわかりやすく言ってやらねばならんよ。さて、なんと言う?」
アランも神父の顔をじっと見つめて言った。
「愛する者たちよ、自分で復讐しないで、むしろ、神の怒りに任せなさい。なぜならば、「主が言われる。復讐は、わたしのすることである、わたし自身が報復する」と書いているからである。」

「うん、うん・・。」
神父は眉を寄せ、目を細めると何度もうなずいた。

その後、二人は無言で海からあがると、牧師館へと消えていった。

THE END

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天使のささやき

南部は爆風で吹き飛ばされた小さな男の子を胸に抱きかかえて病院へと急いでいた。
だが走ることは避けた。その振動でさらに彼の身体に与えるダメージが大きくなりそうだったからだ。
そう、まさに瀕死の状態だったのだ。
その子の顔は鮮血で真っ赤に染まり、どんな顔をしているのかさえよくわからない。
頭をやられているようだった。
南部自身の上着やネクタイ、そしてすでにシャツまでその子の血で染まったいる。
膝から下は上半身に比べてダメージが少ないようだが、予断を許さない状況だ。
「もしかしたら助からないかもしれない。」
ふとよぎるそんな思いを南部は何度か首をふって振り払おうとした。



「ここはどこ?」
ジョージは一人で知らない野原の真ん中にいた。
見たこともない美しい花が一面に咲いている。
聴いたことはないが何か懐かしい感じがする音楽がどこからともなく流れてくる。

「誰か、誰かいないの?」
するとどこからともなく声がした。
「ジョージ・アサクラ君だね。」

「誰?どこにいるの?」
あたりを見回すとサッと上空から光がさした。
「私はガブリエル。大天使の・・。知っているだろう?」
ジョージはまぶしくて目の上に手をかざすと声がする光の方を見ようとした。
「知っているよ。教会のステンドグラスにいる人でしょう?」
「そうだよ、ジョージ。今日は君に聞きたいことがあって来たのだ。」
「どんなこと?」
「君は随分といたずらっ子だったね。」
ジョージはドキッとして一歩下がった。思い当たることがいくつかある。
天使さまが罰を与えに来たのだと思ったのだ。

だが、天使の言葉は意外なものだった。
「君はさっき爆弾に吹き飛ばされて死んだのだ。」
「なんだって~~!」
ジョージは心底驚いた。
「じゃあ、こ、こ、ここは…?」
「そう。天国の入り口だ。」
「…ボク…死んじゃったんだ…」
「そうだ。…だが、いまから私の言うことを聞いて正義の道を歩むというのなら10年だけ寿命を延ばしてやろう。」
「セイギ?!」
ジョージは言葉の意味が良くわからなかったが、天使の言う通りにすれば死なずに済むのかしらと考えた。
「約束します。天使さま。」
「よろしい。では君の命を助けてくれるナンブコウザブロウという博士の言うことをよく聞いて、仲間とともに正義のために戦うのだよ。」
「ナンブ?コーザブロー??」
光が一層強くジョージを照らした。
そして天使の声も大きく響いた。
「地球はいまかつてない危機にひんしている。このままでは世界中の生きとし生けるものみな全てが死に絶えてこの世の終わりが来てしまう。ジョージ、君は神様に選ばれたのだ。地球をこの危機から救う男としてね。」

天使の使う言葉は難しくてよくわからない部分もあったが、これからナンブという人の言うことを聞けばいいということだなとジョージは思った。
それがどんなことなのかよくわからなかったが、いま死ぬのはいやだ。もう少し生きたい。
昨日アランのパチンコを壊したのはボクだ。自分よりも遠くへ石を飛ばしたのがくやしかったんだ。
生き返ってアランに謝らなくちゃ。
ジョージはその場にひざまずいてお祈りの格好をすると天使に答えた。
「命を懸けて…いえ、命に替えても地球を守ります。だから天使さま、ボクを地上にかえしてください。」

「よろしい・・」



「もう一度やってみよう、それでだめなら・・。」
南部は何度目かの電気ショックを小さな男の子の胸に与えようとしていた。
「ドットーレ・ナンブ…!」
その時、心電図のモニターを見つめていた看護師が声をあげた。
そこには小さいが確実に命のリズムを刻む波形が現れていた。

「助かったのか…奇跡としか言いようがない。」
南部は前髪の乱れも気にせずフッと息をつくと男の子が横たわるベッドのわきに両手をついた。
「きっと神の思し召しです。」
ずっとそばに付き添っていた神父はそうつぶやくと胸の前で十字を切った。

Fin

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聖夜の宴

総裁Xが、地球を去ってから早いものでもうすぐ2回目のクリスマスがやって来ようとしていた。
いつにも増して冷え込んだ日の朝、久々に健のブレスレットが鳴った。
「何ですか?博士。こんな朝早くから…。」
「忍者隊に朝も夜もない。…と、言いたいところだが。健、たぶん君たち忍者隊宛に手紙が届いているのだ。国際科学技術庁気付でね。差出人はスーザン。女性の名前だな。」
「スーザン?…知りませんねぇ。それに『たぶん』というのは?」
「来ればわかる。」
やや不機嫌そうに通信は切れてしまった。
「やれやれ。平和になって暇だしな。博士もマントル計画が一段落してほっとしているんだろう。ちょっと顔を見せに行ってくるか。」
健はそう独り言を言いながら愛機の隣りに停めてあるレース用の青い車に乗り込んだ。

あの日から半年ほどたった頃、クロスカラコルムからゴッドフェニックスを国連軍が運び出してくれた。そしてそのノーズ部分に収められていたジョーの愛車を健は引き取ったのだった。



『うたぐり忍者隊殿』…か…。

健は南部博士が差し出した手紙の宛名を見てひどく懐かしい感じがした。そして逝ってしまった友を思い出していた。
そうか。あのときのキリスト像を彫っていた石工の少女の名前はスーザンだったのか。

『科学忍者隊のみなさまへ
宛名の無礼をお許しください。
私の名前をご存じないと思いましたので、こう書けば差出人がわかると考えました。

さて、皆様のおかげで世界は平和を取り戻し、私の仕事も順調に進んでいます。
たまには休養も必要だと言われたのでクリスマスに休暇をとりました。
そこで、皆様の住んでいる街を一目みたいと思い、クリスマスはユートランドで過ごすことにしました。
お忙しいこととは思いますが、うたぐり忍者(笑)のジョー様をはじめ皆様にお会いできれば幸いです。
スーザン・オーガストより。』

「スーザンとジョーは何かあったのかね?」
南部博士は心配そうにたずねた。
「いえ、ジョーはスーザンのことをギャラクターではないかと疑って少々手荒に扱っただけです。」
「そうか。それでうたぐり…。」
そう言うと博士は珍しく声を出さずに肩を震わせて笑った。
「ジョーのやつ、死んでもモテているな。」


ところが、今年のクリスマスにユートランドへ行くので会いたいという手紙は彼女だけに留まらなかった。
次から次へと懐かしい人々から同じような内容で手紙が届いたのだった。

たとえば…
いまやルーマン王国の国王となったルーカー殿下。
同じくドリア王国の国王となったアリ王子。
相変わらず忍者隊のファンでISOを援助し続けているフレーク王妃。
破壊された海底牧場を見事に復活させたヘムラー。(※)
5人で働いて一人分の旅費を作ったスイムス団を代表してチンチロ。 などなど。

昨年から南部博士は忍者隊の素顔を少しずつ公開していた。
地球の復興には世界の人々の団結力が必要と判断した結果、そう決断したのだった。
だが、ジョーがあのような形で亡くなったことは伏せられていて今でも忍者隊は5人揃っているとみんな思っていた。


ついに南部博士の発案により「ユートランド第一ホテル・鳳凰の間」を貸切にしてクリスマス・パーティーが開かれることになった。
幹事はあのメッケルが南部博士より直々に任命された。
あのときから彼は南部博士に付き従い、この2年余りの間休むことなく地球の復興に力を尽くしてきた。
しかし最初、彼はこの話を断った。自分のようなものにはふさわしくないと言ってきたのだ。
そこで南部博士はジョーの死を打ち明けると、ギャラクターの子であったことも話して聞かせた。
そしてメッケルのこともジョーと同じようにギャラクターだったとはもう思っていないと説得したのだった。


パーティの当日、南部博士は意を決してゲストの皆にジョーのことを話した。
生演奏の陽気なクリスマスソングが流れる会場内は沈んだ空気になってしまった。
そして忍者隊の諸君もゲストの皆も思いはひとつだった。
「もう一度、ジョーに会いたい。」

その時、「わんわん!」という鳴き声がしたかと思うと大きな犬が一匹、どこからか会場に入ってきた。
「きゃ~!」
「うわぁ~!」
突然の出来事にゲストたちは会場内を逃げ回り、健と竜、メッケルの三人がその犬を遠巻きにしていた。

「タロウ!」
声をあげたのは南部博士だった。
「タロウ、タロウじゃないか!?おすわり。」
そう博士が落ち着いた声で言うとその犬は博士の足元に来ておすわりではなく「伏せ」をした。
その姿を見て健は確信した。
「タロウに間違いない。生きていたんだな。」
そして
「よく生きていたなぁ。死んだとばかり思っていたよ。」
健はそうタロウに話しかけながら頭を何度も撫ぜてやった。
そして同じこの言葉を別のもう一人の男に言うことができたらどんなに嬉しいだろうと考えるのだった。


会場の照明が一気に消えて目の前が真っ暗になったかと思うと、「赤鼻のトナカイ」が大きな音で演奏され始めた。
「あ、サンタクロースだ!」
チンチロが指差す先にどこから現れたのかスポットライトを浴びてサンタが立っていた。
今日のハイライト、サンタクロースのプレゼントタイムだ。
「ホーホーホーッ。皆さんこんばんは。さあ、良い子のみんなにクリスマスのプレゼントだよ。ホーホーホーッ。」
まるでクリスマスカードから抜け出てきたようなサンタクロースだ。
長く伸ばした真っ白い髭がライトを浴びて銀色に輝いていた。
クリスマスプレゼントでは苦労したチンチロもあの時のことは忘れたように甚平とはしゃいでいる。
「あのサンタ、本物みたいだな。」
そう健が小さくつぶやいた時、
「おい、健!」
懐かしい声で呼ばれたような気がして後ろを振り向いたが、誰もいなかった。
そこには暗闇がひろがっているだけだった。

「ミスター、ワシオケン!イマスカ~?」
サンタのアシスタントを務めていたメッケルに呼ばれた健は右手をあげてサンタの方へと歩み寄った。
「ホーホーホーッ。ケン・ワシオ、メリークリスマス。」
健はプレゼント受け取りながらサンタの目をじっと見つめた。
誰かに似てやしないかと思ったのだ。
「ホーホーホーッ。メリークリスマス。」
「メリークリスマス…。」
確かに彼の瞳はグレイだった。が、健が良く知っているあの鋭い目つきではなかった。
がっかりしている自分が少々おかしく思えた。

ゲストたちにプレゼントをすべて渡し終えたサンタが、「それでは皆さん、よいクリスマスを!ホーホーホーッ。」と言いながら手を振ると、スポットライトが消えて会場は再び真っ暗になった。
するとサンタはドアを開けてそこから外へと去っていってしまった。
サンタが開けたドアの向こう側は信じられないくらいに明るかった。
「ま、眩しいよ~」と、甚平。
「今まで暗かったからの~。余計に明るく感じるんじゃ。」と竜が言ったが、それだけではないような気がした。
そういえば、あんなところに出入り口があっただろうかと健は南部博士と顔を見合わせた。
すると、いままでおとなしく伏せをしていたタロウがむくりと立ち上がってドアの向こう側に向かって吠えたのだ。
「どうした?タロウ。外に何かあるのか?」
博士がそうタロウに問いかけた時、その光の中に誰かがすっと現れたのだ。
顔は逆光でわからないが立っているそのシルエットで背の高い男性ということがわかる。
それもまだ若い。

「ジョー!あれはジョーだわ!!」
ずっとフレーク王妃としゃべりっぱなしだったジュンが叫んだ。
会場はざわめいた。
ここにいる皆が会いたいと思っていたがもう会えないとあきらめていた男が今そこに現れたのだ。
「ジョー、もっとこっちへ来て。顔を見せて。」
だが、その男は踵を返すと光の中へと帰っていってしまった。

「ジョー…。」

夢のような一瞬だった。
でも誰も泣いたりしていなかった。
会いたかった人に会えた満足感でいっぱいだったのだ。


あの光の向こうはあちらの世界だったに違いない。
クリスマスの今日、サンタクロースに導かれて皆がいるここまで来てくれたんだ。
健は科学の忍者だ。しかしそう思うことにした。
だって彼がサンタからもらったプレゼントの箱の中にはアイツの羽根手裏剣がひとつ入っていたのだから。

THE END

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歯がゆいコンドル

「ジンペイ!」
めずらしく血相を変えてゴッドフェニックスにジョーが戻ってきた。
「なんだよー、ジョーのアニキ~。あれっ、兄貴は?」
「それが・・。」
ジョーは健とともに怪しい仏像を調べに行っていた。
甚平はジュンとともに山の周囲を探って、少し前にゴッドフェニックスへ戻って来たばかりだった。
「G-4号機にオレを乗せて一緒に来てくれねぇか?」
「一体どうしたっていうんだい?」
甚平はわざとゆっくり言ってみた。
ジョーが焦っているところなんてめったに見られるもんじゃない。
「いーから、早くしろっ!!」
ジョーの顔が仁王様のようになったのがバイザー越しでもわかる。
次は鉄拳が飛んでくること間違いなしだ。
「はいはい。」
忍者隊の身長差コンビはこうしてG-4号機に乗り込むとジョーが戻ってきた道をまた折り返していった。

「わ~、がれきの山じゃないか。なんだい、こりゃ?」
「仏像の残骸だ。恐い顔のな。」
「え~。ジョーの兄貴より怖い顔なのかい?」
甚平のヘルメットの後ろがガゴン!と鳴った。

G-4号機の先からドリルを出してがれきをかき回しながら進むとその前方に鉄格子が現れた。そしてその前で倒れている白い影が見えた。
「健っ!」
「あ、兄貴~。」
身長差コンビはG-4号機から滑り降りるとそっと健に近づいた。
「兄貴、死んじゃったのかな。」
甚平が健の顔を覗き込む。
「息、してるかな。」
「まさか。ガッチャマンは不死身だろ。」
そう言いながらジョーは甚平が思ったよりも健の顔の近くに顔を寄せたので少しいらついた。

「よし、オレがみる。」
甚平の身体をマントごと少し乱暴に健から引き離すと、ジョーは思い切り健の顔に近寄った。
しっかりと目を閉じたままの健は長いまつげも微動だにしていない。
「健・・。」
めったに見れない健の寝顔だ。
ジョーは生死を確かめるふりをしてその唇に自らの唇を近づけようとした。
いや、甚平がいるからそいつは無理だな。
だったら頬が触れるだけでも・・。

と、その時だった。
ジョーのバイザーがガチン!と鳴った。

(う。くそう、邪魔なバードスタイルだぜ。)

歯がゆい思いを残したままジョーは
「よし、ジンペイ。運ぶぞ。」
と、わざといつもよりもっと低い声で言った。
「え~、このままかい?起こせばいいのに。」
「こんなに気持ちよさそうに可愛い顔して眠っているんだぜ。起こしちゃもったいねぇよ。」
「え?」
「あ。いやいや、こういうときこそゆっくりと寝かしておいてやろうぜ。」
「なんかヘンだなぁ。」
こういう時の甚平は「歳不相応」にスルドイ。
「ジンペイ。余計なことを考えずにだな、脚の方を持てよ。」
ジョーは眉間にいつも以上にしわを寄せた。
「はいはい。イッショウノ、メ。」
「だめだ。そいつはイッセイノォ、セだ。」
「それじゃぁ、力が出ないよ。ジョー。」
甚平は健の足首をつかんだまま両手をだらりと下げた。
「くそう、なんでサブリーダーのオレがオマエに合わせなきゃならねぇんだよ。」
「じゃ、さっきのことお姉ちゃんに言ってもいいかい?」
しまった、やっぱり悟られていたか!?
「わ、わかったよ。ジンペイ。まったく子供だと思って油断してたぜ。それ、イッショウノ、メ!」
「意外と重いね、兄貴。」
「あぁ、いつも軽々と跳んでいるのにな。」

G-4号機でほら穴から出るとすでにゴッドフェニックスは仏像を追って飛び立っていた。
重量オーバー気味のG-4号機だったが何とかうまくオートクリッパーにキャッチされた。

健はまだ気絶したまま今度はジョーに背負われて操縦室まで戻ってきた。
「座席に座らせるかい?ジョーの兄貴。」
そう尋ねる甚平にジョーは先ほどとは態度を一変させて健を床に投げ出すように置くと言った。
「へ、面倒くせぇ。そこにこのまま寝かせておこうぜ。じきに目を覚ますだろうよ。」

(おわり)

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Trick or Treat?!

「・・っひっく、ぁあ・・。」
季節外れの台風が去った秋の夜。
ジョーはやっとトレーラーに帰って来た。
「おかえり、もう雨はやんだみたいね。半そでで寒くなかった?」
その声にジョーは酔いからいっぺんに醒めた。
「キ、キョーコ!おめぇいつの間に?」
「え?先に帰ってろって言ったじゃない。」
キョーコはベッドの真ん中に座って口をとがらせている。
(しまった。キョーコには場所を教えなくてもトレーラーがどこに置いてあるかわかっちまうんだった。)
と、その時だった。
トレーラーのドアがノックされた。
「だれだ?」
ジョーは眉間にしわを寄せ、するどい目つきをキョーコに向けた。
キョーコは黙って首を横に振った。
「見えているんだろ、教えろよ。」
ジョーはますます険しい目でキョーコを睨む。
しかし、「教えない。私を路頭に迷わせようとしたお返し。」
とキョーコに言われて
「それは・・」と、ジョーは返す言葉がない。
酔った勢いでキョーコのことを適当にあしらおうとしたのは事実だ。
親しき仲にも礼儀ありっていうことか。
「それは?」
今度はキョーコがジョーの瞳を覗きこむ。
ギャラクターの幹部でさえ震え上がるジョーの睨みも今夜のキョーコには通じない。

少し間があってまたドアがノックされる。
フッとキョーコの頬が緩んだ。
「子どもよ。小さな子が二人で・・。お菓子をもらいに来たんだわ。」
「はぁ?」
ジョーの頭の中に疑問符がたくさん浮かんだのが見えるようだった。
(これはさすがのキョーコにも見えないはずだが。)
キョーコは仕切りドアを開けて奥のキッチンからフライパンに乗ったクッキーを出してきた。
「ここはオーブンがないから、こんなのしか作れなかったけど。」
そういって、それをカボチャの絵が描いてある紙袋に入れるとジョーにウィンクしてドアを開けるようにいった。

「トリック、オア、トリート?!」

「うわっ!」
入って来たのはドラキュラとフランケンシュタインだった。
ジョーは思わず後ろへ跳び退くとベッドの上に乗って羽根手裏剣を出した。
「だめよ、ジョー!」
キョーコが叫んだので子どもたちはビクッとして入り口で固まってしまった。
「あ、あ、あ・・ごめんね。」
キョーコはハロウインの仮装をしてお菓子をもらいに来た子どもたちに謝ると、クッキーの入った袋を渡した。
「はい、ハッピー・ハロウィーン!」
「ハッピー・ハロウィーン!」
子どもたちは口々にそう答えるとクッキーを受け取って帰って行った。

「なんだ?ありゃ。」
ジョーはまだベッドの上にいた。
「だから、ハロウィンだってば。」

「へ、ハロウィンってのは今夜みてぇに飲んで騒いだ後に、そこで知り合った子と・・。」
「え?」
(いけねぇ。)
「誰がそんなことをしたのか・し・ら?」
ジョーはキョーコに詰め寄られて落ちるようにベッドから降りた。
だが、すかさずキョーコに抱きつかれてそのままベッドに倒れこんだ。
「トリック、オア、トリート?ジョー。」
「お、俺・・。お菓子は持っていないぜ。」
「じゃ、トリック~~~ッ!!」
キョーコは思い切りジョーの耳に息を吹きかけた。
「わ~っ。キョーコ、やめてくれ~!」
ジョーは長い脚をばたつかせたが、全身から力が抜けていき、首に絡みついたキョーコの腕を振り払うことはできなかった。
「やめな~い。私にジョーのスイート(お菓子)をたっぷりと食べさせてくれるまで、やめな~い。」
「う゛~~っ。」

こうして二人のハロウィンの夜は更けていった。

(おわり)

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があわいこ
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