忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ジョージ浅倉の息子

電話の呼び出し音にしばらく気付かずにいた南部博士は、あわてて受話器を取った。
電話の向こうから聞こえてきたのは女の声だった。

「パパッ…?」

間違い電話か?ジュンの声とはまったく違うし…。

「パパ?…孝三郎パパでしょ?」

「あぁ…。キョーコか?」

外部からの全ての連絡を断って別荘にこもり研究を続けているというのにどうやって電話がつながったのだろう?
そう思いながらも、南部博士は久々に聞くキョーコのちょっと舌足らずの甘えたような声に頬の筋肉がゆるんだ。

「久しぶりに休暇をとったの。ユートランドへ遊びに行ってもいいでしょう?」
「あぁ。だが、しかし…今は…。」

「パパ。カッツェの正体はわかったんでしょ?…あ、でも気をつけてね。パパのこと、誰かが見張っているような気がするから。じゃあね。」
「キョーコ!どうしてそれを?!」

だが、電話は切れてしまった。

仕方なくもう一度例の記録を読もうと書類を手にした博士は突然ひらめいた。
「そ、そうか、カッツェは…!」

と、その時だった。突然、博士の目の前にギャラクターのコノハムシメカが現れた。

「わぁーーー!!!」



10年前。学会の帰りに立ち寄ったBC島で南部博士は両親をギャラクターに殺され、自らも傷ついていた小さな男の子を助けた。

だが、博士がBC島から助け出した子供は彼だけではなかった。

こっそりとジョージを運んだ病院で応急処置をしている南部博士のところに神父がやってくると実はもう一人虫の息の女の子がいると耳打ちしてきた。

さっそくにいくとそこにはジョージよりも少し小さな女の子がぐったりと横たわっていた。
目立った外傷はなかったが調べてみると強い力で長い間押さえつけられていたことがわかった。
発見された時の状況を聞くとやはりギャラクターに殺されたと思われる両親の遺体の下から見つかったというのだ。

「よくこの子がそこにいるとわかりましたねえ。」
感心する博士に神父は妙な答えをした。

「現場を通りかかった時に呼ばれたような気がしたのです。」
「そんなはずはない。少なくともこの子は仮死状態だったはずだ。」

博士はきっぱりと否定したが、神父は「神のお導きです。」と祈りのポーズを繰り返した。


南部博士は悩んでいた。
子供とはいえ二人を連れて密かにこの島から出るのは難しいだろう。
一人ならば何とかごまかせるが…。

その時、博士の頭の中に声が聞こえた。いや、まるで聞こえたかのようにある考えがひらめいたのだ。

「二人を一人にすればいい。」

「子供二人ではなく、急病人の大人を一人母国の病院へ運ぶということにしよう。きっと上手くいく。」

博士は早速準備に取り掛かった。二人を一緒にして毛布でくるむと枕などで形をそれらしくしてストレッチャーに固定するとその夜の飛行機で島を発った。



ジョージは順調に回復し、しばらくして博士の家に身を寄せることになった。

だが、女の子の方は意識は戻ったものの何も話さず、表情にも喜怒哀楽はなかった。医学的にはどこも悪いところはない、という担当医師によると「心の問題でしょう」ということだった。

それならばと、今度は心理学専門の医者のところへ入院させると、まだ一言も発しないうちにそこに置いてあった本という本を読み出したのだ。
あっという間に絵本から医学専門書まで全ての蔵書を読んでしまったその子はついに言葉を発した。

「もっと読みたいの。」

「その前に、名前を教えてくれないかなあ?お嬢ちゃん。」
そう看護士がたずねると、「キャロライン・コスターよ。」と答えた。

医師の知らせに南部博士はジョージを伴い、キャロラインの病院を訪れた。
そして意外な言葉を聞くのだった。

「あ、南部博士。あの時は助けてくれてありがとう。浅倉さんちのジョージ君は、もうケガ治ってよかったね。」

「き、君。どうしてそれを…?!」
「上から見てたよ。知らなかった?」
「ゆ、幽体離脱…か?!」

「き、きゅ、きゃ…きょ?」ジョーは、キャロラインのベッドにくっついている名札を指差しながら名前を読もうとしていた。

すかさずキャロラインがこう言い放った。
「な~んだ、ジョー。まだ字が読めないの?いたずらばっかりしてるからだよね、博士?」

「読めら~い!!こんなの。キャコラッタって書いてあるよ。へん!キャコラッタ、キャコラッター!悔しかったら、バック転してみろ~っ!!」

そういってジョーは病室を飛び出していってしまった。

「おい!ジョー、待つんだ!」あわてる博士にキャロラインは冷静だった。
くすりと笑うと、「アサクラくん、明日から射撃の練習だけじゃなくて、勉強もがんばるようになるわね。」といった。

そしてそのとおりになったのだった。


それからあれは4年前のことだ。

健やジョーたちが、忍者隊としての訓練を本格的に始めて少したったころのことで、いまだに病気がちのキャロラインが療養している海辺の子供病院に博士が見舞いにいった時のことだった。

「南部博士、お話があるの。」
ベッドの上で日本式の正座をしたキャロラインがそこにいた。

「明日は私の12回目の誕生日でしょ?」
「ああ。プレゼントは何がいいか聞きに来たんだ。」
「私ね、科学者になる勉強がしたいの。」
「なんだって?科学者だって?」
「私は、ワシオくんやアサクラくんみたいに忍者隊にはなれないでしょ?でもこうしてベッドの中にいても本は読めるわ。」

「しかし、本だけじゃダメだぞ。」博士はキャロラインのやわらかい髪と頬を優しくなでながらさとすようにいった。

「ええ、わかってるわ。ドクターがね、今開発中の新薬が私に合うんじゃないか?っておっしゃってるの。それで病気が良くなったら学校へ通いたいのよ。私、博士みたいな科学者になりたいの。私を助けてくださった博士に恩返しがしたいの。」

「そうか。…わかったよキャロライン。そんなにいうのなら、アメリス国へ留学できるよう手続きをしてみよう。」
「ほんと!?うれしい。博士、ありがとう!」

南部博士はキャロラインの満面の笑みを始めて見た。そしてまたこのかわいらしい笑顔を見るためにはなんでもしてやろうという気になった。


キャロラインを留学させるために、まず南部博士が養父となり後見人として援助することになった。また、万が一ギャラクターが彼女の本名を知っていたらまずいと考え、「南部響子」と名乗らせることにした。これは博士の実の母親の名前でもある。

「母さん…。天国の母さん、見てるかい?ひょんなことから私に後継ぎができたよ。私が父さんの後をついで科学者になるといった時、母さんは泣いていたね。」

あの暗黒の時代に妻子を守るとはいえ心ならずも戦争の兵器開発に携わってしまった博士の父親は敗戦後、「戦犯」というレッテルを貼られ、戦勝国側の一方的な裁判にかけられて獄中で死亡した。
母の実家は大財閥だったが、父との結婚を反対され貧乏を覚悟でかけおちをした。

父親が投獄されてからも、お金はなかったが女手ひとつで博士と二人の兄の三兄弟を「上流階級式」にしつけ、育ててくれた。
しかし、長年の無理がたたり母が病に倒れたのは博士がオックスフォード大学を卒業した翌日だった。この日は、計らずも父親の名誉が回復した日でもあった。息子の卒業証書を抱きしめ、夫の名誉回復のニュースをテレビで見ながら静かに息を引き取った母…。

博士は、どんなことがあろうとも決して悪に利用されない科学者になろうと二人の墓前で心に誓ったのだった。

それにしても一体なぜ今頃キョーコは帰ってくるといってきたのだろうか?
留学先では飛び級を何度もしてついに去年15歳で大学の付属施設だった脳科学研究所に配属され、科学者としての一歩を歩みだしたという手紙をもらったが…。
脳科学?!…そうか、彼女は研究所でSVR波を浴びたに違いない。

彼女のように生まれつきESP(エスパー:超能力者)の素質がある者がSVR波を浴びることによってその能力を増大させるのでは?という研究報告がある。だとすると、何か忍者隊やギャラクターのことについての透視をしたに違いない。
うむ、ギャラクターか…?

「はっ!」

そこで南部博士は目が覚めた。目の前にカッツェがいる。

「ムファ、ハハハハァ!お目覚めかね?南部博士。とうとう私の手に落ちたな。」
「ベルクカッツェ…。」



ほどなく雨の中をジョーはトレーラーハウスに帰ってきた。そしてひどく後悔していた。
そのとき、誰かがドアをノックした。

「へ、泥棒がノックするわけねえか。」そう考えるととっさにズボンの脇から羽根手裏剣を出した自分がおかしく思えた。
「カギはあいてるぜ。」

入ってきたのはキョーコだった。
「どうしてここがわかった?」とジョー。

しかしキョーコはそれには答えずにまるで自分の部屋に帰ってきたかのようにぬれた上着を脱ぐと空いていたハンガーにかけ、近くにおいてあったタオルで髪を拭いた。

「あなたが呼んだからよ。」髪を手で整えながらキョーコは言った。
「なんだと?!」つじつまの合わないキョーコの答えにジョーはムッとした。

「健に『命を預けた』って言われて『一秒、いやその半分でいい』と願った時、むかし私が命をあげる話をしたのを思い出したでしょう?夢に見たのよ。あなたのことを。『オレの生きたあかしを残したい』って言っていたわ。」

「キ、キョーコ!てめえ何を知っているんだ?!」
ジョーはベッドから立ち上がってキョーコにつかみかかろうとした。
だがその時、忍者隊のサブリーダーとして数々の修羅場をくぐり抜けてきた「コンドルのジョー」は、キョーコが両手を首に回すようにして胸の中に飛び込んできたのをかわすことができなかった。

間近に見るキョーコの大きく開かれたエメラルド色の瞳には自分の姿が映っていた。
「ジョー、私の中にあなたの生きた証を残すのよ。いいわね?」

「…いいわね?」そう動いたキョーコの紅い唇が次の瞬間ジョーの下唇に触れた。
「う…。」ジョーの頭の中にしびれるような電気ショックが走った。が、それはいつものあのイヤな感じのものではなかった。

反射的にジョーはキョーコの華奢な身体を抱きしめると、その柔らかな口唇を吸った。と、同時に身体中がカッと熱くなり、急にズボンの中が窮屈になった。

「キョーコ…。」「…ジョー…。」

お互いの名前を呼び合うとそのままジョーは乱暴にキョーコをベッドに押し倒した。

「…いやっ。」

キョーコの口から小さな声が漏れた。と、同時に「カタン!」と音がして何かがベッドから落ちた。
キョーコは素早く身をひるがえすと床に落ちたジョーのブレスレッドを拾い上げた。

「ジョー。今日は他に行くところがあるのね。」そう言いながらキョーコはブレスレッドをジョーに手渡すと「また来るわね。」と言い残してトレーラーを出て行ってしまった。

「ちえっ!なんだぁ、アイツ…。」

ジョーはブレスレッドを手に持ったままトレーラーのドアを開けた。

「やっぱり診察は取り消してもらおう。いまさら病名を知ったところでどうしようもねぇ。」
ジョーは再びモグリの医者のところへ出かけていった。



「科学忍者隊、参上!」

健の声が聞こえたような気がしてジョーは意識を取り戻した。
まだ少し身体が痺れている。そうだ、オレはカッツェのメガザイナーに撃たれて素顔をさらしてしまったんだ。キョーコの夢なんか見てる場合じゃねぇ。
くそっ、このあたりにエアガンが…。あった!

「カッツェ!」ジョーはカッツェめがけてエアガンを撃った。が、それはメガザイナーの銃口に当たった。暴発するメガザイナー。

「うわーーーぁ!!」
「マスクが飛んだな、ベルクカッツェ!オレの正体もバレたがお前の素顔も見せてもらおうか。」

忍者隊の変身を解くメガザイナーはカッツェの仮面も剥ぎ取ったのだ。



「あ、パパ。お帰りなさい。」

その日の夜遅く、ゴッドフェニックスで送られてきた南部博士をキョーコが迎えた。
「ああ、キョーコ。来ていたのか。このガラス窓を直してくれたのは君か?」
「うふふ。パパ、直したのはガラス屋さん。私は電話をしただけよ。」

飛び去るゴッドフェニックスを見送ってキョーコはつぶやいた。
「ワシオくんも、アサクラくんもこの家にはいないのね。」
「ああ、もう大きくなったからね。独立したよ。」
「じゃ、2~3日泊まっていっても大丈夫ね。書斎の片づけを手伝うわ。」
「ユートランドの街へ遊びに行かないのかい?」
「行くわよ、もちろん。でも、今日はパパのところにいるわ。」
「キョーコ…」
「えっ?」
「その…パパというのは…。」
「あら、だって私のパパでしょ?……あ、鷲尾のオジさま…?」
「キョーコにパパと呼ばれるたびに健太郎に悪い気がしてね…。」
「ごめんなさい…。博士。」
「いや、いいんだ。キョーコ、今日は好きなだけここの本を読んでいきなさい。」
「ええ、ありがとう。そうするわ。まだ少し濡れてるけど。」
ギコチない父娘おやこは初めて笑いあった。

2日目の夜、キョーコはまた恐ろしい夢を見た。ジョーが私服のまま空から落ちてくるのだ。途中で変身して助かるのだが姿が見えない。
「ジョー、ジョーはどこ?」
そこで目が覚めた。
朝になって急にキョーコはユートランドへ遊びに行くといって博士の別荘をあとにした。
その日の午後、南部博士は、ある医者からの電話を受けることになる。


…あの日、野外ライブに出かけてジュンたち忍者隊のみんなで聞いた「デーモン5」の曲も耳に入らないジョーはユートランドの街中を彷徨さまよっていた。
ギャラクターが自分の両親を殺したところを目撃したジョーは自らもデブルスターの薔薇爆弾によって重傷を負った。瀕死のジョーを救ってくれた南部博士のあの日のぬくもりをジョーは覚えていた。いや、もう何年も忘れていたのに最近になって何故か思い出したのだ。
瀕死といえば、仔犬を助けた時もそうだった。モグラタンクのミサイルのかけらが頭の中から取れないまま死んでしまうと思っていたが、何とか助かった。ほとんど記憶がないが、オレがバードミサイルを撃ったらしい。
あのワンコはしばらく博士の別荘で飼われていたがいつの間にか首輪が抜けてどこかへ行ってしまった。まったく感謝知らずもいいところだぜ。
BC島での出来事は思い出したくもないが、オレがアランの婚約者をったなんて誰がアイツに教えたんだ?カッツェか?あのデブルスター2号との一騎打ちは誰も見ていないと思ったのだが…。
あの日、サーキットで約束をした子の写真がアランの部屋のベッドサイドにあったときはマジで驚いたぜ。
だからあの時オレはアランに撃たれて死んでもいいと思っていた。
だがその考えが180度変わったのは健がオレとアランの間に立ちふさがり、オレの名をかたった時だ。
「ヤツに健を、…オレの健を撃たせてたまるかっ!」
そう思った瞬間、オレは最後の銃弾たまをアランの心臓にぶち込んでいたんだ。
BC島にいた頃の旧友と忍者隊に入ってからの親友。オレにはどちらも大切な友人だった。だがあの時、そのどちらかを選ばなくちゃならねえ運命の瞬間が来ちまったわけさ。
アラン…、許してくれ。あのときオレは健を選ぶしかなかったんだ。
もうすぐまた会えるな、アラン。またサンドバッグを叩き合おうぜ。オレを許してくれていればの話だがな…。

夜の街を彷徨ったジョーは、街外れの工事現場に迷い込んだ。

ギャラクターが起こした地震によるものか、それとも他の“チカラ”が働いたのか、機材が揺れて何かが下に落ちると立てかけてあった鉄材がガラガラと音をたてて崩れた。
ジョーはふいにカッツェの言葉を思い出した。
「クロスカラコルムというとヒマラヤとの境だな。なにかある…。」

「そうよ、ジョー、クロスカラコルムだわ。」
ふいに背後から女の声がしてジョーは身をひるがえした。

「キ、キョーコ。いつのまに!?」

ジョーは恐い顔をさらに険しくさせるとキョーコの両肩をつかんで言った。
「このことは他の誰にも言うんじゃないぜ。オレ一人でカタを付けてやるんだからな!」
「わかってる、わかってるってば。ジョー。私も明日帰ることにしたのよ。…だからトレーラーハウスへ上着を取りに行ってもいいでしょう?」



朝日がジョーのトレーラーハウスを照らし出し、カーテンを閉めた部屋の中も薄明るくなってきた頃、ジョーは目を覚ますと、スイッチが切られたままのブレスレッドを落とさないようにしっかりと腕にはめ、隣りで小さな寝息をたてているキョーコの顔をじっと見つめた。

ふいに目を閉じたままのキョーコが口を開いた。
「ジョー…。」

「ん?なんだよ。」
自分の今の姿をキョーコの「心の目」で見られてしまったかな?と思うと少し照れてしまうジョーだった。

「私ね、あなたが死んだりなんかしないって感じるの。」
「へっ。よく言うぜ。お前はオレの生きたあかしを残してくれるためにわざわざこうして来てくれたんだろう?」
「うーん、それはそうなんだけど…。」
「で、どうなんだい?オレの生きた証はよー。」
「んー、どうかなぁ?」
そう言ってキョーコはやっと目を開けるとジョーの鼻に自分の鼻がくっつくくらい顔を近づけて、そのまま彼の身体を上向きにするとその上に自分の身体を重ねた。
もう、何年もの間二人はこうしてキスを交わしているように感じた。

そしてもう一度、キョーコの求めるままジョーは彼女を抱いた。
(しかしこれはキョーコの“チカラ”を考えるとジョーの求めるままだったのかも知れない)

そしてキョーコの中で絶頂を迎えたジョーだったが、そのあとすぐに頭痛の発作も起きた。

「ジョー、大丈夫?しっかりして。」
「あぁ…。くそぅ…。」

だが何かを感じたキョーコは非情にもブレスレッドのスイッチを入れた。
少し間があって南部博士からの召集がかかった。

「ちえっ、キョーコのパパは気がきかねぇなぁ…。はい、こちらG2号。ジョーです。」
「じゃあ、私は帰るね。」キョーコはトレーラーをあとにした。



「博士、みんな。元気でな。後は頼んだぜ…。」
南部博士がちょっと目を離した隙にジョーは窓から飛び出し空港へ向かった。

ジョーが空港に着くとキョーコが出国ロビーで待っていた。

「おや。南部さんちのお嬢さん、どうしてこんなところに?」
「帰るって言ったでしょ?私、飛行機に乗って帰るのよ。ほら、アメリス国行きのチケット。で、これ間違えて買ったヒマラヤ行きのチケット…。いる?」

搭乗手続きを済ませるとジョーは出発時間まで空港内の展望台へ行ってみることにした。見慣れたこの景色も見納めだ。

キョーコはジョーのベルトを持ってできるだけぴったりと身体を寄せてみた。
ジョーの鍛えられた筋肉のわずかな動きが感じられる。
(BC島を抜け出した時もこんな風にぴったりと身体を寄せ合っていたのよ。)受け取ってもらえるかどうかわからないが、キョーコはそうテレパシーをジョーに送ってみた。

「キョーコ。」
「ん?」
「オレのこと…。」
「うん。愛してる。」
「オレも愛してる…。」
「…ん…。」

二人は展望台のガラスに映っているお互いの姿を見つめ合っていた。

ヒマラヤ行きの搭乗を促すアナウンスが流れた。

「じゃ、行ってくるぜ。」
「うん。カッツェに会ったらあのヘンなマスクを羽根手裏剣だらけのインディアンマスクにしてやってね。」
キョーコが口を尖らせて羽根手裏剣を投げるマネをするとジョーは、
「へへっ。ああ、たっぷりとお見舞いしてやるさ。」と言って搭乗口へと消えていった。

キョーコが見たジョーの最後の顔はあのいつもの不敵な笑顔だった。

「パパ、バイバイ。」

最初の細胞分裂をした息子の声がキョーコには聞こえた。

THE END

拍手

PR

惜別のブーメラン

「ジョー、オレは来たぜ。再びこの地へ。」
健は荒れ果てた大地を前にしてそう一人つぶやいた。
半年前のあの日ジョーと別れた冷たい草の大地は、同じように霧に包まれていた。
地面がところどころ盛り上がっていて総裁Xが飛び立っていった時とほとんど変わっていなかった。

健は左腕のブレスレットをじっと見つめた。
そうしているといまにもジョーからのバードスクランブルが来そうな気がする。
「そういやアイツは一度も発信しなかったな。」
ジョーのブレスレットから健が最後に受けたのはモールス信号だった。

「ジョー~~~ッ!!」
思いっきり健は叫んだ。
しかし返ってくるのはやまびこだけだ。

あの時、健は甚平が差し出したブーメランを受け取ろうとしてやめた。
そして甚平は心残りだったようだが、あったところに置いてくるように言った。

ブーメランはジョー自身から返してもらう以外は受け取るまいと決めていたからだ。

再び頭上にゴッドフェニックスが戻って来た。
健は頬に伝わる熱いものをそっと拭うと抱えていた花束をそこに置き、トップドームめがけて思い切りその冷たい草地を蹴った。

おわり

拍手

「故郷遥かに」(ふるさとはるかに)

ドアを開けて中へ入るとまだ彼は眠っていた。
私は少しだけカーテンを開けてみた。

「キョーコか?」
「ごめん、起こしちゃった?」
「BC島へ行って来た…。」
傷ついた身体を少し持ち上げてジョーはつぶやいた。
「また、えらくムチャをしたものねぇ。」
「へっ。…ってて…。」
ジョーはまた病院のベッドに身体を横たえた。
キョーコはリモコンを「使わずに」そのベッドを少しだけリクライニングさせた。

「今度はオマエも連れていってやるからな。」
「えっ?」
「帰りたくねぇのか?BC島によ。」
「私は…。」
キョーコの脳裏に懐かしいBC島の美しい海と空が広がった。
「忘れちゃったわ。小さかったし。」
「うそつけ。帰りたいって顔に書いてあるぜ。」
キョーコはあわてて窓の方へ戻るとカーテンを大きく開けながらそっと涙をぬぐった。
そして外の景色を眺めるふりをしながらつぶやいた。
「ヘイワになったら…ね。」
「あぁ、そうだな。平和になったら一緒に帰ろうぜ。」
キョーコは明るくやわらかい日差しが差しこむ部屋でにっこりとほほ笑んだ。
そして、ミネラルを吸い飲みに注いでジョーにのませてやるとキョーコは小指を出した。
ジョーがゆっくりと腕を上げる。
二人の小指が絡み合った。
「約束よ、ジョー。」
「あぁ、約束だ。」

キョーコは時間よ止まれと強く念じたが、さすがにそれはかなわなかった。

(終)

拍手

猫娘

猫娘

何日も続いた大きな地震がその日はピタリと止んだ。
「今日しかない。」
そう私は決心して百万回生きたというオババからもらった「ニンゲン」になれるという苦い薬を一気に舐めた。
「うぅ…。」
全身の血が逆流するかと思うような激しい痛みが走る。
何度か地面を転げまわると、やがて私の身体はネコから人間の女の子に変わっていた。

そして、あの日あの人に送ってもらった古寺の縁の下から這い出ると、まっすぐにあの人の家が置いてあった場所へと走った。
あの人と一晩過ごした家はそこにはなかった。
でもすぐに見つかった。
地震のせいだったのでしょう、地面が盛り上がっているその向こう側にあの人の家はあった。
私は嬉しくてその家の周りをまわってみたの。

どういうわけか入り口が上を向いていたけど、そのドアは開いていたから、なんとか登っていって部屋の中に入ったわ。
でも、あの人はいなかった。
その辺を嗅ぎまわったけれど、部屋の中は散らかり放題。
割れた窓の上に乗っているベッドに腰をかけて
「これからどうしようか?」って考えているときだったわ。
遠くであの人の足音がしたの。
もうすぐここに入ってきて、人間になった私を見て
「どうしちゃったんだい?子猫ちゃん。」と言って灰青色の瞳を大きく見開くのよ。

「私ずっとここにいることにしたの。」

何度も練習した人間の言葉。
その言葉をもう一度心の中で呟いてみた。
でも、あの人は来なかった。

いえ、来たわ。
私は人間になっちゃったから見えなかったけれど、元ネコだから感じたの。
あの人はここに帰って来た。
でもいまはもう会えない。
遠いところへ行ってしまったから。

私は斜めに傾(かし)いだあの人のベッドの上に丸くなってうずくまる。
「私ずっとここにいることにしたの。」

                                                                      おわり



※このお話のもとになった廖化さんの「逢瀬の朝」は(→こちら)から読めます。
 また、みけこさんのイラストも見れます。
 ぜひご一読ください。

※※朝倉 淳さんが拙作の続きを書いてくださいました。「輪 廻」は(→こちら)からお読みください。

拍手

ジョージ浅倉の息子II

「ジョー、危ないわ。こっちへ戻りなさい。」
二歳くらいの小さな子供が、道に飛び出してきた。
母親なのか?まだ若そうな女性が、その後を追ってくる。


「やぁ、キョーコ。元気そうだな。」
「あらケン。パパのおつかい、ごくろうさま。」
キョーコは、小さなわが子を抱き上げると『国際科学技術庁・職員寮』とかかれたエントランスをくぐって、ケンを自室へ案内した。

「博士から預かって来たよ。」と言ってチェック柄の手提げ紙袋からケンが出したのは子ども用の小さなハンチングハットだった。
「これだわ。よく取ってあったわね。ありがとうと博士に伝えてね。」
古ぼけたブルーの帽子を抱きしめるキョーコをケンは不思議そうに見つめていた。
「それ、誰の帽子?ジョー…ジョー・ジュニアにはまだちょっと大きいみたいだし。」

「これ?これはジョーが被っていたの。BC島から脱出するときにね。」
「へえ。」

 ふいにキョーコのエメラルド色の瞳から大粒の涙があふれた。
「クロスカラコルムへ行かせるんじゃなかった…。」
「キョーちゃん?…」
「ダメねぇ。もう後悔はしないって決めていたんだけど。」
帽子を再び紙袋にしまい、涙をぬぐうとキョーコはポットカバーを外して紅茶をカップに注いだ。

「あの日、空港でジョーに会ったの。今までに見たこともないようなものすごく強くて美しいオーラに包まれていてそれはそれはカッコ良かったわ。ギャラクターへの復讐心ではなくて自分がなぜこの世に生れて来たのかを悟った輝きに満ちていたの。あの姿を見たら、ジョーの想いに反対することなんてできなかったわ。」
そう言うとキョーコはケンにシュークリームを勧めて紅茶を一口飲んだ。
「オレの好物、覚えていてくれたんだね。」
「えぇ。もちろんよ、ケン。」
キョーコに笑顔が戻った。

その時、それまで大人しく絵本を見ていたジョー・ジュニアが突然、
「ママ、ママ。パパ、パパ。」と言いながら紙袋を開けようとした。
キョーコは母親の顔になると、
「ジョ~くぅーん、それは私のパパの南部博士からのおみやでちゅよ。ジュニアのパパは…」
そう言いかけてはっとした。
(ジュニア。あなた、まさか…?)

「どうかしたか?」
「ううん。」
キョーコは隣りのチャイルドチェアーにジュニアを座らせると「ア~ン」といって自分のシュークリームを頬張らせた。
「キョーちゃん、南部博士なんだけど…」
「なあに?」
「せっかく平和になったのに、まだオレたち忍者隊を解散させるつもりはないらしいんだぜ。それどころか大がかりな海底移動基地を建設してるし。」
「それは…。それは万が一に備えているのよ。」
「だけどもうあれから3年がたつぜ。」
ケンはクロスカラコルムの冷たい草の上で別れた男のことを思い出していた。
「早いものね。この子が生まれてもう2年が過ぎたわ。…博士は、総裁Xが再び地球を狙って戻ってくるかもしれないって考えているようよ。」

「総裁Xか…」
ケンがそうつぶやいた時、彼のブレスレットが鳴った。
「はい。ケンです。」
南部博士からだった。
「豪華客船がナゾの沈没事故を起こしたらしい。すぐに調査開始だ。」
「わかりました。博士。」
ケンはブレスレットのスイッチを切るとキョーコに澄んだ青い瞳を向けた。
「まさか、総裁Xじゃないよな。」
「さすがはガッチャマン、するどいわね。」
だがその言葉をキョーコは呑み込んだ。
確信がなかったし、そんなことになった欲しくは無かったからだ。

ケンは風のようにキョーコのもとを去って行った。

 確信と言えばキョーコにはまだジョーが死んだことが信じられなかった。
傷ついたジョーを背の高い男性が抱いてどこかへ運ぶ姿が頭から離れない。
でもそれは、あのBC島での出来事のはずだ。
「ジョーと別れてから、いいえ、この子を産んでから私のチカラは弱くなったものだわ。」

キョーコは相変わらず脳科学研究所に勤めていたが、ジュニアを身籠ってからというもの危険なSVR波の照射実験はしていなかった。
出産後、彼女は自分の能力(ちから)が衰えているのに気付いたが、敢えてそのまま自然に任せることにした。
---見えないものは見えない方がよい---
普通の暮らしが一番良いと知っていたからだ。


 それから何ヶ月か過ぎたある日の夜、いつものようにジョーの古いハンチング帽を枕元に置いて眠りに就いたキョーコは不思議な夢を見た。

ギラギラと照りつける太陽と砂漠…。
そこにあの男は立っていた。
「ジョー、ジョーなの?」

 その姿は太陽の反射で良く見えなかった。
はっと目が覚めるとそこにジョー・ジュニアが立っていた。
「ジョー…。そうね、あなたを呼んでしまったわね。」
キョーコはジュニアを抱き上げるとやわらかいほほにチュッとキスをした。
横目でキョーコを見つめるジュニアの瞳はジョーそのものだった。
「ジョー…!」
キョーコは思わずジュニアを強く抱きしめた。

だが、フッとジュニアの姿が消えてしまったのだ。
キョーコはハッとした。
こ、これも夢…!!

「ジョー!」
今度は本当に目が覚めた。
玄関のドアが開いていた。
眠っていたはずのジュニアは自分の小さなベッドの上にはいなかった。
「ジョーーーーーッ!」




総裁Xの人間改造機によってカプセルの中で急成長したサミー、いやゲルサドラは総裁Xの前にかしこまっていた。

「総裁さま。お呼びでしょうか?」
「ゲルサドラよ、よく聞け。先のカッツェの時に、超能力者の女を一人殺りそこねたのは知っているな。」
「はい。総裁さま。愚か者のカッツェは小さな女一人を見つけだすこともできずに…。」
「その女はギャラクターにとって邪魔な存在だ。世界中から科学者や軍事武官を拉致し始めればいずれしゃしゃり出てくるであろうガッチャマンや南部がうるさくなる前に始末してしまうのだ。ゲルサドラ、オマエなら見つけられるな。」
「はい。その女のESP脳波パターンはとっくに分析済みでございます。もう時間の問題かと。」

だがギャラクターのESP脳波パターン解読装置にかかったのは小さな男の子だった。

理由はわからないが、とにかくその子を拉致して調べてみれば何かわかるに違いないとさっそく偽のテレパシーを送り、罠にかけたのだった。

 ゲルサドラは再び総裁Xに報告した。
「総裁Xさま。拉致して来た男の子のDNAを調べましたところ、興味深い結果が出ました。あの子の母親は99.9%の確率でキャロラインでございます。」
「ほほう。」
「そして…。」
「そして、どうした?」
「はい。その父親は。」
「父親は?」
「95パーセントの確率で科学忍者隊のコンドルのジョーだという結果が出ました。クロスカラコルムで薬を注射した時に取っておいたデータが残っていましたので先ほど照合させました。」
「たわけたことを申すでない。コンドルのジョーは死んだはずだ。」
「はい、しかし死ぬ前に忘れ形見を残した可能性はあります。」
「ええい。ならば確かめる方法が一つある。コンドルのジョーが使っていた羽根手裏剣と同じものを作るのだ。」
「羽根手裏剣?!とな。」
「ふふふっ。上手くいけば、キャロラインだけでなく忍者隊や南部もこの世から抹殺できるぞ。」
「なんと、なんと南部や忍者隊までも…?」
「そうだ。その子を始末したら、首にその羽根手裏剣をグサリと…。」
「ひえ~~っ。」
「驚いている暇があったらさっさと片付けてしまうのだ。ゲルサドラよ、やれるな?」
「ははっ。」

 ゲルサドラは総裁Xが示したデータをもとに羽根手裏剣を作るとそれを手に取り、かざして見た。
「はっ?なんとなんと、キャロラインの行方を捜していて科学忍者隊だったコンドルのジョーの息子が見つかるとは。キキカイカイ、リンネテンショウ、チミモウリョウ、…フォ~、ホッ、ホッ、ホッ。」

ゲルサドラは独りほくそ笑んだ。
「おろか、おろか。これで間違いなくこの子を殺したのはコンドルのジョーだと思うに違いない。フ、ファ、ハハハ!超能力か何か知らないが、このゲルサドラにかなうものなどいないのだ!」
そして命令を下した。
「この子を使ってキャロラインをおびき寄せるのだ。死んだはずのコンドルのジョーとやらにもご出演願ってな。ふぉ~、ほっ、ほっ、ほっ。面白くなってきたぞ。」


 キョーコ---本名キャロライン・コスターの両親は北の国スケッタランダの出身でBC島でパン屋をしていた。
天然酵母菌を使った独特の製法と味がジェラードにも合うと評判を呼び島中から注文を受けて繁盛していた。
しかしこの二人にはある特殊な能力があった。
それはスケッタランダ地方の一族に特有のもので昔から「神の声を聞くもの」と言われてきた。
コスター一家も代々「死者と話をする」というシャーマンだった。
長い歴史の中で世界中に散らばり、他の民族と同化することによってその能力も次第に失われていったが、時々先祖に還ったように強力な能力をもって生れてくる者もいる。
キョーコもその一人だった。
そこでキョーコの両親、ベンジャミン・コスターとセーラ・コスターは娘になるべく普通の生活をさせようと閉鎖的な北国から明るく開放的なこのBC島へ移民して来たのだった。
もちろんマフィアに関しての情報も知らないわけではなかった。だが、BC島はそれよりももっと恐ろしい悪魔が棲む島になっていった。
表向きは以前からこの島にいるマフィアと変わらないが何かもっと恐ろしいことを企てているように「感じた」コスター夫妻はパンの配達をしながらこっそりとその内情を「読みとろう」としていた。

ところがたまたまギャラクターが実験をしたいたESP脳波パターン解読装置が反応したのだ。

『近くにエスパーがいる。注意しないとギャラクターの秘密が漏れてしまうぞ。脳波をたどって見つけ次第抹殺しろ。』
カッツェの命令にギャラクターはコスター夫妻を割り出した。

「私たちはダメかもしれない。が、せめて、子供だけでも助ける方法はないものか?」
その夜、そう考えている二組の夫婦がBC島にいた。

コスター夫妻とアサクラ夫妻である。

 ジュゼッペ・アサクラは親がイタリア人ということは分かっているが、ほんの赤ん坊だったときに教会の前に捨てられていた孤児だった。
本名もわからぬまま孤児院で育つうちにBC島の女性と結婚した日本人の浅倉譲二と知り合い、やがて養子となった。
その後、ジュゼッペは浅倉夫妻とともに日本へ「帰る」と科学者を目指して勉強を始めたが、譲二と養母ロザンナが相次いで亡くなってしまい、失意のどん底で故郷BC島へ戻った。
そこで島の新興勢力ながら科学者を優遇してくれる組織があると聞いて島で再会した幼なじみで同じく孤児院育ちのカテリーナとともにその一員に加わることにした。やがて二人のあいだには一人息子が生まれた。

それから4~5年たったころだろうか、ジュゼッペはホントワール国でスパイ活動をしていた一人の男と出会い、関係を結ぶ。
そんな中、ジュゼッペ自身も二重スパイとなり組織を裏切って情報を漏らした。
自分のいる組織は間違っていると気づいたからである。

 すでにジュゼッペは幹部と呼ばれ部下も多数抱えていた。
自分が命令すればむごたらしい殺戮も簡単なことだろう。
後戻りはできないかも知れない。
しかし、養父浅倉と同じ名前をつけた息子だけは両親の本当の姿に気づく前に何としてもこの組織から抜け出させたい。
超能力人間を探し出すことに気をとられている、今しか抜け出すチャンスはないだろう。
スパイの男が言っていたISOの関係者という人物を何とかここBC島へ誘導することができた。だが、これがもう限界だ。
ジュゼッペは護身用の銃をジャケットの胸ポケットに忍ばせた。


 次の日の朝早く、ベンジャミンは最後のパンを焼きいつも通りに配達を終え、家に戻るとセーラとともにキャロラインをどこへ隠そうかと考えていた。
が、不意にどこからともなくギャラクターのブラックバードが押し入ってきた。
こうなったらもう自分たちの身体(からだ)で隠すしかない。
二人はキャロラインの上に覆いかぶさるようにしてブラックバードの銃弾を浴び絶命した。

仮死状態のキャロラインの脳波は読まれることはなく、彼女はそのまま幽体離脱して神父を呼んだ。


 ギャラクターの本部にいるカッツェは少しいらだっていた。
「キャロライン・コスターの行方は突き止められたのかね?」
側近の部下が応える。
「はっ。ギャラクターの秘密を知る両親の息の根は止めてやりましたが、娘の行方はつかめなかったようです。」
「バカモノ。もっとよく探せ。」
「ESP脳波パターン解読装置が反応しなくなったということですので、もう死んでいると思われますが…。」
「口答えをするな。裏切り者のジュゼッペ一家はどうなった?」
「はい。そちらはデブルスターがバラ爆弾での暗殺に成功したとのことです。」
「そうかそうか。これで邪魔者はいなくなったな。はははっ。」


その後、多くの犠牲を出しながらも忍者隊の活躍で地球は救われた。



---だが、しかし…。


 突然、響子から南部博士のところへ電話があった。
「パパッ。ジョーが…、ジュニアがいないの。」
「落ち着くんだ。キョーコ。君ならどこにいるかわかるだろう?」
「いいえ。ダメなの。あの子が生まれてから、見えないの。ダメなのよ…私。」
「キョーコ…」
「ケンは?」
「あぁ。諸君は皆、イーストン島へ向かった。」
「うっ…。」
「どうした?キョーコ!」
「………」

 南部博士は、急いで車を出させた。
職員寮の自室でキョーコは倒れていた。
「おい、キョーコ!しっかりするんだ。」
「パパ…。ジョーが…ジュニアが…。」
「ジュニアはどこにいるんだ?キョーコ!」
「テルモ岬に…。」
そう言うのが精いっぱいだった。
無理してありったけの能力(ちから)を振り絞ったのだろう、キョーコは南部博士の腕の中に崩れ落ちた。

博士はキョーコをISOの付属病院へ運ぶと、今度はテルモ岬へと向かった。
岬の海岸には人だかりができていた。

 そこには小さな男の子が横たわっていた。
すでに地元の警察が来ていて規制線が張られていた。
IDカードを示してその中へ入ると倒れているその子の顔を覗き込んだ。
その見覚えのある男の子の姿を見て、博士はこれまでに経験したことのない怒りと悲しみの感情が身体中に駆け巡るのを覚えた。
すでにこと切れているその子の細く小さな首には羽根が一本突き刺さっていたのだ。
なんということだ。
一体だれがこんな残酷なことを。
この子の父親がジョーと知っているような…。やはり、ギャラクター!?

変わり果てた姿のジョージュニアに対面した博士は遺体をISOで引き取ることにした。
「責任はすべて私がとる。この子をすぐにISOの付属病院へ運び、司法解剖する。あとの事務処理をよろしく。」

キョーコはもうわかっているだろうか。
しかしどう説明すればよいものか。

 南部博士は病院へ向かう車中でこれまでのことを思い出していた。
キョーコのESP脳波パターンはすでにギャラクターの知るところとなっていたに違いない。
小さな頃は病院にいたので察知されなかったのだろう。

あの頃、一度理由を尋ねた時には、『三人の子持ちじゃ、パパが大変だと思って…』と笑っていたが…。
あの子はそれで自ら病院暮らしを選んだのかもしれない。
成長してからは自分で調整していたのだろうか。

 ジョージュニアを身籠ってから危険なSVR波を浴びることも避けてきた。出産後も母性本能が勝(まさ)ったのか彼女の超能力は影をひそめていた。
ところがジュニアが彼女のESP脳波パターンを受け継いでいたのだ。
そしてギャラクターの罠にまんまとはまってしまった。

「私がうかつだった。総裁Xの再来(リベンジ)を予測して忍者隊を解散させずにおいたのはよかったがキョーコのことまで考えが及ばなかった。許してくれ。ジュニア…、キョーコ。」

 しかしどうしてジョーの羽根手裏剣をわざわざ…?
そうか。父親が誰なのか調べたのだな。
ギャラクターめ…ひどいことをする。

 検死をするために南部博士はジュニアの遺体をISOの付属病院にに運び入れたが、しばらくジュニアの前から立ち去れずにいた。
そのとき、確かに施錠したはずの検死解剖室のドアが音もなくスーっと開いた。
博士が顔を上げるとそこにキョーコが立っていた。

「キ、キョーコ…。」
キョーコは無言で無表情のままジュニアが横たわっているその硬くて冷たいベッドの傍らに立ち、ふっくらとした、だが青白く冷たくなったその頬に触れた。
そしてその首に突き立てられている残酷な羽根手裏剣に手をやった。
その瞬間、キョーコの身体が電気ショックに見舞われたかのようにビクンビクンと2度大きく震えた。

「あーっ。あ、あ、あっ。ジョーッ!ジョーッ!」
母親としての情愛とエスパーの能力がキョーコの頭の中で激しく交錯した。
キョーコはジョージュニアの変わり果てた姿に触れると半狂乱となりその能力(ちから)で自分自身を破壊しかねなかった。
ジュニアを産んで育てている間は影をひそめていたキョーコの「チカラ」が彼の死によって皮肉にも甦ったのだ。

南部博士はジュニアの遺体に取りすがり異常な力で抱きかかえるキョーコを力いっぱい引き離すと安定剤を注射してキョーコを眠らせようとした。

「キョーコ、落ち着くのだ。よく見なさい。ジョージュニアは羽根手裏剣で死んだのではない!すでに殺されてからわざわざ首に羽根手裏剣を…。」
「いやーーーーーっ!!」
キョーコが叫ぶと博士は壁際まで吹き飛ばされた。

「キョーコ、わかっているはずだ。ジュニアを殺したのはジョーではない。冷静になってちゃんと考えるのだ。これではギャラクターの思うつぼだ。」
「ジョー…。」
薬が効いてきたのか、キョーコはその場に力なく倒れこんでしまった。

検死を終えた博士は霊安室の隣りにある控室で仮眠をとっていた。
「ジュニアにはかわいそうなことをした。あんなにかわいい盛りだったのに。」

「ボク、何とも思っていないよ、グランパ。」
「誰だ?」
「ジョーだよ、おじいちゃま。」
「ジョー…ジュニアか?」
「ボクはパパジョーの生きてきた証しに生まれてきたの。パパが生き返って来たのだから僕がいなくなっても悲しまないで。」
「何だって?ジュニア。ジョーは生きているのか?」
「うん。だってここにはいないもの。」
「ここ?」
「そうだよ、ここだよ。」

はっと南部博士は目が覚めた。
私としたことが非科学的な夢に涙するとは…。

 同じ頃、病室に寝かされていたキョーコも夢を見ていた。
「ジュニアはこちらで私とともに楽しく暮らしているよ。安心しなさい。君はまだそちらでやることがあるはずだ。南部博士によろしく。」
姿は見えなかったが、声はあの懐かしいジョーの声だった。
「ジョー?あの羽根手裏剣は?」
「あれはギャラクターのワナさ。君を陥れるためのね。」
その声にキョーコの目からはとどめなく涙があふれた。
「泣かないで、ママ。パパがいるじゃないか。」
ジョージュニアの声にキョーコははっと目が覚めた。

ふとそこにジョーの姿があったように感じた。
(ジョー?変ねぇ。生きているならなぜ…。それにジュニアといたジョーにそっくりのあの人は…?)
そこまで考えて、キョーコは気がついた。
「ジュゼッペさん!ジュゼッペ・アサクラがジュニアを天国へ導いてくれて、今も一緒にいるのだわ。」

その時病室のドアをノックして南部博士が入ってきた。
「健たちが無事に帰ってきたよ…。」

 博士はベッドの横にあった椅子に腰かけて続けた。
「すまなかった、キョーコ。ジョーの代わりを探すことに夢中になっていて君もギャラクターに狙われている身だということに……。もう少し注意を払うべきだった。だが今またゲッツの代わりを探さなくては…。」

「パパ…。」
「…ん?どうした、キョーコ。」
そう言ってキョーコの顔を見た博士はギョッとした。
キョーコの美しいエメラルド色の瞳が金色に輝き三白眼となってギロリと博士を見つめていたのだ。
それはキョーコに「チカラ」が完全に戻ったことを意味していた。

「ジョーは…ジョーは生きて・い・るか・も・しれ・ない…」
「キョーコ、ジョーは死んだのだ。ジョーの代わりを探して…。」
「ダ・メよ、パパ。…ジョー・でな・ければ・乗・りこな・せ・ない・マシ・ンを・作って…。」
キョーコは久しぶりに戻った自分の「チカラ」のコントロールができていないようだった。
病室に置いてあるコップやタオル、テレビまでもが浮き上がってしまっている。

「わた・しが・ジョ・ーをひ・こう・きにの・せた…し・ぬとわ・かっ・ていた・のに……ジュニ・アは…わ・たしの・み・がわ・りになっ・てし・んだ…ガ…ガ、ゴ…ゲ・グ・グ…」
キョーコは自分で自分の首を絞めた。
「い、いかん。誰か、急いで安定剤を…!」
博士がナースコールを押すと、スタンドの電球がポンッと砕けた。

「ジ・ョー・は帰・って・来・るわ…。」
頑強な看護師二人に押さえつけられて安定剤をうたれたキョーコはそう言うとやっと眠った。

南部博士はすぐさまキョーコを冷凍睡眠装置に入れると外部との接触をすべて遮断した。
(キョーコ。ジュニアのカタキはきっとガッチャマンたちがとってくれる。ここでしばらく眠っているのだ。)

「ジョーがどんな姿になって還ってきても愛していると伝えてください。」

博士の頭の中にだけキョーコの声が響いた。

(おわり)

拍手

ブログ内検索

Author

があわいこ
詳しいプロフィールはINDEXのリンクからご覧ください

最新コメント

[06/25 があわいこ]
[12/22 があわいこ]
[10/22 があわいこ]
[09/30 があわいこ]
[09/30 朝倉 淳]
[07/24 があわいこ]
[07/23 朝倉 淳]
[06/24 があわいこ]
[06/24 朝倉 淳]
[06/22 があわいこ]

P R