庭の
草叢
by があわいこ
長い階段を這い上ると石像に偽装してある鋼鉄の扉が開いて冷たいが新鮮な空気が血に染まったジョーの身体を包んだ。
ここがギャラクター本部の入り口だ。
反射的に左手首に手をやってジョーは皮肉な笑みを浮かべた。そしてそこからのそりと這い出ると仰向けになって霧の向こうにかすかに見える懐かしい青空を見つめた。
(あいつらと大空を旋回しながら飛んだのはいつのことだったかな)
と・・その時、頭の上の方で何人かが走っていく足音がして声も聞こえた。
「ガッチャマンだ!」
ジョーは半身を起こした。
(ガッチャマン?健。どこにいるんだ、健。お前に本部を知らせなきゃ、俺は・・俺は・・)
まだ大きな声は出るだろうか?出せるだろうか?
受けた銃弾がいくつか埋まったままになっている腹に力を込めた。
「ケーン!ケーン!」
何とか声は出たが全身に言いようのない痛みが走ってジョーはその場に倒れた。
遠のく意識の中、草の匂いがジョーにBC島にいた幼いころを思い出させていた。
庭の草むらからピヨピヨと鳴き声がするのでそっと近づいてみると小さなスズメの雛が羽を震わせている。
そのいたいけな姿がかわいらしくてジョージは草の匂いを嗅ぎながら身を伏せたままじっとその様子を見つめていた。
「巣から落ちたのだろう。いまに親がやって来てエサをやるから大丈夫だよ」
いつの間にかそばにパパも来ていてそう教えてくれた。
ところがしばらく待っていても親スズメは現れなかった。
あの子スズメは・・
銃声が聞こえてジョーは我に返った。
その音がした方に目をやると雑魚ギャラの後ろ姿が見えた。
誰かが追い詰められたんだろうか?そう思ったのと同時にズボンの隠しポケットに手をやると一本だけ羽根手裏剣が残っている。
カッツェじゃないのが残念だったが、雑魚野郎の頸椎をめがけて最後の一本を撃ちこんでやった・・
つもりだったが当たったのか外れたのか?確認する前にジョーの全身に再び激しい痛みが走りその場に力なく倒れこんでしまった。
「ジョー!」
ジュンだとすぐにわかる声がして足音が近づいてきた。
狙われていたのはジュンだったのか?じゃぁあの羽根手裏剣は命中したんだな。よかった。
カッツェに投げた一本は外しちまったからなぁ。あれはとんだ無駄遣いだったぜ。
「ジョー、しっかりして」
目の前に心配そうなジュンの大きな瞳があった。
「ジュン、健を呼べ。本部の入り口はここだ」
「こちらG‐3号・・」
ブレスレットで健を呼ぶジュンの声を聞きながらジョーはまたあの日のジョージに戻っていた
「親スズメは蛇かカラスにでもやられたんだろう。もしかしたらこの子スズメを守ろうとしたのかも知れないな」
ジュゼッペはそう言いながらペットショップから調達してきたミルワームをピンセットでつまみあげて羽を震わせ大きな口を開ける子スズメに与えていた。
いつまで待っても親スズメが来ないのでとうとうジョージは子スズメを拾いあげて家で飼うことにしたのだ。
「この子、いつか親の仇をとれるかな」
そう言うジョージにピンセットを渡したジュゼッペは少しあいまいな答えを返した。
「そうだな・・。もう少し大きくなって立派な翼が生え揃えばもっと高くもっと速く飛ぶことができるようになる。そうすれば好きなところへ自由に行けるようになるさ」
その後しばらくするとその子スズメは本当にどこかへ飛んで行ってしまった。
ジョージは寂しかったがきっと親の仇を討ちに行ったんだと自分で自分を納得させた。
そして自分の両親が殺された後、ジョーも翼を与えられた。
あの時、ジョーはこれで親の仇が取れるとうれしかったものだ。
だが今は翼をもがれこうしてあの日の小さな子スズメのようにジョーは冷たい草むらの上に横たわっていた。
「ジョー、お前ってやつは」
聞き慣れた声に名前を呼ばれてうすら目を開けると見飽きてはいるが懐かしい青い瞳がそこにあった。
「わかってるよ。それ以上言うなって。これが俺の生き方だったのさ」
生死を共にしてきた四人の仲間がジョーの顔を覗き込んでいた。
ジョーにはその向こうにジュゼッペとカテリーナが立っているのも見えた。
ギャラクターだった二人が迎えに来たってことは俺が行くのは地獄だろうか?
まぁいいか。地獄へ行けば健のやつにはもう会わなくて済むからな。
これから健は俺の屍を踏み越えてあの階段をあっという間に駆け下りていくんだ。
そしてカッツェの野郎を地の底へ叩き落として地獄へ送り、父親の仇をとるのさ。
そんなことを考えていたらまた健に皮肉を言っていた。
ここに俺を置き去りにして行くことを悔やむんじゃねぇよ・・と言ってやりたかったのによ。
パパ、ママ。
みんなにお別れを言いたいんだ。
もう少し待っててくれ。
(おわり)

PR