あれは確か、小学生になった年のことだ。
パーパが珍しくボクを日帰り旅行に連れ出してくれたことがあったっけ。
2両連結の電車に乗って火山の周りをぐるっと一周するだけのことだったが、初めて見る景色にボクは次から次へとパーパを質問攻めにした。

(アーモンドの花盛り@シチリア)
春になったばかりだったけれど、うす曇りで夏のようにあたたかい日だった。
ママがこさえてくれたお昼のお弁当を途中下車して食べようとアーモンドの花が咲き乱れる公園に降り立った時だった。
突然、知らない女の子がボクの名前を呼んだ。
振り返ってみたけど、そのあとは聞いたこともない言葉を話している。
するとパーパがその子の父親らしい男と僕が知らない言葉で話し始めたんだ。
「サクーラ・・アサクラ・・サクラ・・」と言っているのが聞きとれたけれど。
するとパーパはボクの方に向き直ってこう言った。
「この人たちはニッポンという国から来た人だ。日本にはこのアーモンドの花とよく似た花があってね。『サクラ』というのだよ。あの子はこのアーモンドの花を見て『サクラ』だと思い、『あ、さくら!』と言ったんだ。わかるかい?」
「ふーん」
ボクはあいまいな答えをしてもう一度クマのぬいぐるみを抱きしめているその女の子を見た。
まっすぐに切りそろえられた前髪の奥からそれと同じように黒く輝く瞳がボクをじっと見つめていた。
なぜパーパはこの子と同じ国の言葉を話せるのかしら?
何か魔法でも使ったのかな。
でもボクはもうパーパを質問攻めにはしなかった。
いつかもう少しボクが大きくなったら話してくれるだろうって思ったからさ。
(おわり)
『こんなシチュはいかがったー』で診断したら・・
「があわいこのシチュは【季節:夏】【天候:曇り】【時間:昼】【状態:抱きしめる】です。アクセントには【アーモンド】と【魔法】をどうぞ。」http://shindanmaker.com/148681
というお題が出ました
●今年は曇る日が多くて昼間でも気温が上がらず夏が終わりかけるころになって、やっとアーモンドの収穫ができた。あれは春の初めのころだ。この木に咲いた花を見て俺の名前を呼んだ日本人の子がいた。魔法使いのような小さな人形を抱きしめていたっけ。桜の花と似ているんだと知ったのはそのあとだ。
「140文字ではこんな感じになってしまった。もっとお話しを広げたい・・」
ということで書いてみました

PR