花束の行方 by朝倉 淳
女性に花を贈るときは、真っ赤なバラが定番だって聞いた。
確かに華やかだし見栄えもいい。しかしおれはこの花が苦手なので、花屋を覗いた時に見つけた別の赤い花で、大きな花束を作ってもらった。
ヒラヒラして綺麗で、赤というよりピンク掛かっているがまあいいだろう。値段の割には豪華だ。が、これをあの店まで抱えていくかと思うと・・・。
だが仕方がない。今日はめでたい日だ。
おれは覚悟を決めて花屋を出た。
あのボクネンジンにはこんなマネは出来まい。おれもガラじゃないが、今日はいいさ。
気は強いが本当はやさしくて、時々女の子の貌を見せるおれ達の中の紅一点・・・。生意気になってきた弟分と2人で、あの店を切り盛りしてるんだもんな。大したものだぜ。
それにあそこは、おれ達の息抜きの場所でもあるしな。
おれは大きなガラスのドアの前に立ち、ちょっと息を吸った。そして
「一周年、おめでとう!」
勢い良くドアを開け、出来る限りの笑みを顔面に貼り付けたが
「・・え?」
「ジョーのアニキ・・。なに言ってんの?」
かえってきたのは、キョトンとした緑の大きな瞳と眉をひそめた弟分の顔─
「え・・?だから・・一周年記念で・・」
「やだなあ、アニキ。一周年なんてもうとうに過ぎちまったぜ」
「・・え」
「ジョーがレースでアルメニアに行っていたでしょ?あの時よ。その前にパーティの招待状を出したけど、ジョーは返事も寄越さなかったわよね」
「え・・・」
そんなのあったか・・?
いやそれより今のおれの状態をどうする。両手いっぱいに花を抱えて突っ立っているなんて、どう考えてもおれのキャラじゃない。
花より、おれの顔が赤くなってるんじゃないのか?
「あ、まあ・・その・・。とにかくこれやるよ。じゃあなっ!」
「あ、ジョー」
ジュンに花束を押し付け、ジョーは店を出て行った。
「おかしなジョーね」ジュンはちょっと小首を傾げたが「そういえば、あなたの所も一周年だったわよね。このお花持っていく?キョーコ」
店の奥のボックス席に向かって言った。
