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2008年7月13日にオンデン1970のブログが10万ヒットしたお祝いにいただいたものです。

Cool Sweets

Cool Sweets      by廖化


「よぉ!」
 健とともに顔を出した竜の姿に,、ジョーは怪訝な表情を浮かべた。
「おいおい、竜無しでどうやって車を運ぶつもりだったんだ?」
 からかうような健の口調に、ああそうかと、ぼんやりした頭でジョーは納得した。

 昨日任務終了後、三日月基地に帰還・任務内容の報告を済ませて解散という場で、常にないジョーの緩慢な動きを南部が見咎めた。原因は任務中にカッツェに打たれた痕からの発熱と疼痛によるもので、治療のため一晩基地の医務室に留め置かれた。朝になり症状の改善が見られ、本人の強い希望もあり帰宅の許可が出されたのだった。『一人で帰すのはまだ心もとない。健に声を掛けておく。』と南部から聞いてはいたが、G-2号機を海上にある基地からユートランドまで運ぶには確かに竜の手も借りる必要があった。 格納庫までの移動中もまだけだるそうなジョーを竜が覗き込んだ
「朝飯は食ったんか?」
「あんまり。食欲無くてな。」
「無理ないのぅ。ああ、今のお前の状態にぴったりの食い物がある。そいつを食いに行こう。」

 竜に連れて来られたユートランド市内のとある店で健とジョーは長躯を縮め、小さくかしこまっていた。
「おい竜、ここはちょっと俺達には・・。」
 あまりに場違いな雰囲気に健が声をひそめてた。周囲から浴びせられる視線も居心地が悪い。
「別に気にする事はないべ。ドレスコードがあるわけじゃなし。食べたい物を食べるだけじゃあ。ほれ、何にするかの?」
 竜が差し出したメニューの表紙には『パフェ・パラダイス』と大きく店名が記されていった。パフェの専門店ということで店内の女性占有率は90%、残り10%の男性も彼女と一緒で、野郎ばかりの3人組は完全に浮いた存在だった。しかしそんな空気も竜は全く気にしない。
「おらはもう決めてあるんじゃ。健は?注文は決まったか?」
 健とジョーの前に置かれたメニューには『これでもかっ!』というくらいの多種多彩なクールスイーツが並んでいた。
「・・俺は・・、パンケーキで。ジョーは?」
「アッフォガード。」
「あ・・、あっふぉ・・、なんじゃって?」
「アッフォガード。バニラのジェラートにエスプレッソをかけたやつ。」
「ああ?そんなんじゃなくてもっと・・、ああ、いいからここはおらにまかせろって。」

 注文した品が運ばれてくると3人は再び店内の注目を集めた。竜の前には直径20cm、高さ30cmはあろうかという巨大なパフェが置かれていた。
「『オールスター・パフェ』。こいつが食べたかったんじゃ。」
 ガラス器には何種類ものアイスクリームが何層にも重なり、一番上にもアイスクリームやフルーツ、ムース、クッキーなどが所狭しと飾り付けられた、まさにオールスターの名にふさわしい一品だった。
「お前、俺達をだしにこいつを食べに来たんじゃねぇのか?」
「機会を狙っていたのは確かじゃが。で、どうじゃ、ジョー、食べられそうか、プリンアラモード?」
 ジョーは目の前のプリンを中心に、アイスクリーム、ババロア、山ほどのフルーツが色とりどりのソースや生クリームとともに盛り付けられた器を見つめた。 
「目一杯、お子様メニューじゃねぇか。」
「んなこと言うもんじゃないぞ。冷たくて食べやすい上にカロリーも高い。それにこの店では果物はすべて缶詰ではなく生のものを使っているからビタミン類の補給もばっちしじゃ。熱っぽくて食欲がない時には最適じゃないかの?」
「まぁそういうことにしておくか。」
 ジョーの返事に満足して竜は今度は健の皿をのぞきこんだ。
「思っていた以上にカラフルじゃのぅ。」
 健が注文したパンケーキには三種類のソルベが共に盛り付けられており、飾りのミントの葉が涼しげだった。
「さぁ、溶けないうちに食べるぞ~。」
 竜はせっせと巨大パフェを片付けつつも、ゆっくりとしかし確実に冷菓を口に運ぶジョーの様子に時折視線を走らせていた。
『なぁ、おらが居留守をしないですぐに飛んでいけば、ジョーはあんな目に遭わずに済んだんじゃないのか?』
 昨日、ジョーの負傷を知った竜が健に問いかけてきた。
『そんなことは無い』
 と健は否定したが竜は気にしていたらしい。この誘いも竜なりにジョーを気遣ってのことだったのだろう。この二人は互いに相手の力量は認め合っているものの、それぞれの気持ちや心遣いを素直に表す事はほとんど無い。しかし二人の間にそのような感情と信頼関係さえあれば充分なのだ。

「ああ、うまかったぁ~」
 健やジョーとほとんど同時にパフェを食べ終えた竜が腹をさすった。
「アイスとアイスの間にカステラや白玉が挟まっていて、口の中が冷たくなりすぎないから、思ったより食べやすかったぞぃ。」
「そういえばパンケーキで思い出したんだけどさ。」
 セットで付いてきたコーヒーを飲みながら健がジョーに話しかけた。
「いつだったかな、南部博士がパンケーキを作ってくれたことがあったよな。」
「ああ、お前が屋敷に来たばかりの頃だな。」
「博士が? 博士が料理なんかしたんか?」
「料理、というより実験みたいだったけど。『小麦粉 100g、卵1個、砂糖10g、牛乳170cc、塩少々、これらを混合攪拌し、熱したフライパンで加熱する事何分』ってね。」
「うまかったのか?」
「そりゃぁ」
 健とジョーは顔を見合わせて笑った。
「朝食のはずが食ったのは既に昼だったんだぜ。その日初めて口にした食べ物だったんだ。最高にうまかったさ!」

「さぁ、鍵を返せよ。」
「だめだ。」
「なんだと!」
「今日は俺が運転する。」
「おい、ここに来るときはまだ自分でも自信がなかったからハンドルをお前に譲ったがな、冷たいもののおかげでだいぶ頭もはっきりしてきたからもう大丈夫だ。」
 駐車場で言い争いを始めた健とジョーに竜は苦笑した。どうやらジョーもいつものように健に突っかかっていけるくらいまでには回復したらしい。勿論それは冷菓のおかげではなく、治療や投薬が効いてきたからなのだろうが。
「どっちの運転でもかまわんが、先におらを送ってくれよな。」
 勝手にやっとれ、と竜はさっさと後部座席に乗り込んだ。
「相変わらず堅いことばかり言う奴だな。」
「無理をしない、という条件で解放してもらったんだろ? 今日はおとなしくしていろ。万が一事故でも起こしたらどうするんだ?」
 うっ、とジョーは詰まった。実は先日不可抗力とはいえ人身事故を起こしていた。知っているのは報告した南部だけだと思うが・・?  黙り込んだジョーに健は勝利の笑みを浮かべると、ドライバーズシートに収まった。まだ不満顔で立っていたジョーであったが
「いつまでそこにいるつもりだ?」
 と車内の二人に促され仕方なくナビシートに乱暴に腰を下ろした。常の如くの彼らしい様子にほっしたと笑顔の二人と仏頂面の一人を乗せたG-2号機は、街外れの竜のヨットハーバーへと走り出した。

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