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フランキーはハリウッドへ行った (ハードバージョン)

『フランキーはハリウッドへ行った (ハードバージョン)』
by があわいこ


「あら、ジョーじゃない。久しぶりね」

一瞬、部屋を間違えたかと思ったが、自分の名前を呼ぶその女性を見て思い出した。
「やぁ、マリー。どうして君がフランキーの家にいるんだい?」

マリーは軽く微笑んで答えた
「どうしてって・・フランキーに留守番してくれって頼まれたのよ。何か彼に用なの?」
ビー玉のようなエメラルド色の大きな瞳で上目遣いにジョーを見上げたマリーの小さな紅い口唇が少しとんがった。

「あぁ。サーキットに置きっぱなしになっているフランキーの車をちょいと貸してもらえねぇかと思って来てみたんだ。何時ごろ帰って来ると言ってたかい?」

「フランキーはハリウッドへ行ったの。しばらく帰ってこないわ」

マリーの意外な言葉にジョーの頭の中は一瞬真っ白になったがすぐにいつもの皮肉な笑みがその顔に戻った。
「ハリウッドだとぅ?へっ、あいつ映画スターにでもなったのかい?」
「ううん。コマーシャル・・ほら、フェニックス・エンジンオイルの。ジョーも知っているでしょう?」
ショートカットにした亜麻色のくせっ毛を手櫛でかき上げながらマリーは壁のポスターを顎で指した。

「あの大事故のあと見事によみがえったのがスポンサーの目に留まったらしくて。もうフランキーったらはしゃいじゃってさ」
マリーの言葉を聞きながらジョーは吸い寄せられるようにそのポスターの前へと歩み寄った。
そこにはハイレグの際どい水着に身を包んだ(いや、ほとんど包まれていない!)女性が7人ほどフェニックス・エンジンオイル缶とともにそれぞれ大胆なポーズをとっている。

「フランキーは?」
ジョーは一番最初に脳裏に浮かんだことを飲み込んで違うことを言葉にした。
「これは女の子だけのバージョン。この娘(こ)たちの真ん中に『選ばれし名高きレーサー』が加わるわけ」
マリーは『選ばれし名高きレーサー』というところをCMのナレーションのようにわざとらしく強調して言った。
「俺はエンジン。フェニックス・エンジンオイルの彼女たちに囲まれてバリバリさ。まるで不死鳥のようによみがえってきたぜっ!」
ジョーもCMのナレーターを真似して低い声をわざと大げさに響かせてみた。
「うまいわね、ジョー。いっそのことレーサーをやめて声優にでもなったら?」
「へへ、そしたらオレもハリウッドへ行って・・」

ポスターの前から動かないジョーの顔の前に、ジャラっと鍵束が現れた。
「おっと」
「フランキーが置いて行った鍵よ。この中にその車の鍵があるかしら?」
ジョーは鍵束を受け取るとやっとポスターの前から離れてソファの上端にちょっと腰をあずけると1つ1つ確かめた。
「あ、これだな」
言うが早いか1つの鍵をシュッと外した。
そしてそのカギをピッと投げ上げ、その手で握り直すとズボンのポケットにねじ込んだ。
それを見たマリーは目を細めた。
「よかった」
「いいのかい?」
「いいんじゃない?いないやつが悪いんだからさ」
そう言いながらマリーはうふふと小さく笑った。

そのマリーの笑顔が急に崩れた。いや、マリーだけじゃない。
目の前にあるものがすべて捻じ曲がるように崩れたかと思うと激しい痛みがジョーの頭を襲った。

「ふぅおっ・・!」
ジョーはその場に膝から崩れ落ちてしまった。

「ジョー!どうしたの?」
マリーはテーブルとソファの隙間の床に倒れたジョーを抱えると、なんとかソファに横にさせた。
「す、すまねぇ。ちょっと疲れちまって・・」

マリーはジョーの額に手をやった。
「う~ん・・ちょっと熱っぽいかな。お医者さんを呼ぼうか?救急車のほうが・・」
「救急車なんか呼ぶんじゃねぇ!」
ジョーは受話器をつかもうとしたマリーの手首を強く握ると鋭い目を向けた。
「ジョー・・痛いわ・・」
マリーはジョーの手を振りほどくとキッチンへ行きタオルを水でぬらして横になっているジョーの額にあてた。
「ふぅ・・」
ジョーの口からため息が漏れた。

しばらく黙ったままマリーはソファの横に座り込んでいたが、やがて静かに口を開いた。
「フランキーね、まだあの事故の怪我が完治したわけじゃないの。まだ何かの破片が頭の中に残っていてそれが原因で時々酷い発作を起こすのよ。だからもう一度入院して再手術しましょうと言われたのに、のんきに構えて・・わざとよ・・私のいうことはもちろんドクターのアドバイスもきかないでハリウッドに行っちゃったの。病院なんかより女の子たちに囲まれたほうがよっぽど身体にいいぜなんて言っちゃってさ。馬鹿よね」

ジョーは目の上のタオルをずらして灰青色の瞳でマリーの後ろ姿をじっと見つめた。
マリーはソファのフットボードを背もたれにしたままジョーとは目を合わせずに続けた。
「ジョー、間違っていたらごめんね。ジョーのこの発作はフランキーと同じだわ。私、これでも看護師の端くれよ。だからわかるの。このままでは命にかかわることになるわ。だから病院ですぐに検査をしてほしいの」

ジョーはまたタオルで目を隠した。
「わかったよ、マリー。だがな、俺にはやらなきゃならねぇ任務があるんだ。その用事をちょいと片付けちまったら、必ず検査をしに行くよ」

「任務?用事って何よ」
マリーはジョーの方に向き直った。
「いま地球に危機が迫っているんだ。オレが悪い奴らから地球を守るのさ」
しばらく間があってマリーは笑い出した。
「ジョーってばこんな時に冗談を言って・・ジョーも病院が嫌いなのね。まぁ、大好きという人はあまりいないと思うけれど」

そう言いながらマリーは立ち上がると冷蔵庫からちょっと大きめの密閉容器を取り出してきた。
それをテーブルに置くと中身を確認しながら意外な言葉を口にした。

「フランキーもね、ジョーと同じで病院へ行きたくないと言うから時々内緒で点滴をしているの。置いて行ったのがまだあるわ。これをジョーにあげる。任務が終わるまではこれで少しはしのげるわ」

ジョーは半身を起こして額のタオルをテーブルに置いた。
「なんだって?」
「彼、ハリウッドからはもう帰ってこないかも知れない。そう思うと私ずっと怖かったけれど、ジョーと話せてよかった」
マリーは容器を紙袋に入れるとジョーの膝の上に置いた。
「マリー・・」
「落ち着いたわね。さ、今のうちに帰った方がいいわ」
マリーに促されてジョーは紙袋を抱えて立ち上がると、Tシャツの裾をズボンに入れ直してポケットの中の鍵を確かめた。

「じゃぁな、マリー。いろいろありがとよ」
「うん。ジョーも死んじゃダメよ。また会いましょ、フランキーと3人で」
「あぁ、そうだな。フランキーの野郎がハリウッドから帰ってきたら連絡してくれよな」
「わかったわ、ジョー」

2人は玄関で別れの握手をするとジョーはフランキーの部屋を後にしたのだった。

(終わり)

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