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モーグラン邸を囲む警察車両とは別にちょっと離れたところへG-2号機を停めたジョーの脳裏にギャラクターに殺された両親の断末魔が甦った。
そうだ。
ジャッキーも目の前で母親をギャラクターの鉄獣ロボットに殺された。
その記憶は決して忘れられるものじゃねぇはずだ。
ひょっとしてあの伯爵一家はギャラクターと関係があるんだろうか。
あのモグラの化け物さえいなけりゃジャッキーだってママと一緒に幸せに暮らしていたはずだったのによ。
あのモグラさえ・・モグラ・・?!モー・・モーグラン!!
そうか。もしかしたら伯爵の名前を聞いて親の仇と思ったのかも知れない。
「ジャッキーめ。復讐の相手を間違えやがって」
そう独り言を言うとジョーは彫の深いその貌に皮肉な微笑を浮かべた。
その夜はモーグラン一家も警戒をして一歩も外へ出ずにいたためか、ジャッキーは現れなかった。
きっとどこかにひっそりと身を隠して様子をうかがっているのだろう。
夜が明けるのを待ってジョーはモーグラン家の屋敷の裏にある雑木林へ行ってみた。
もちろん警察の非常線は張ってあるがバードスタイルには無用だ。
ジョーは高く低く指笛を吹いてみた。
あたりはしんと静まり返っている。
「ジャッキー、俺だ。いるんだろ?出て来いよ」
少し間をおいてジョーの後ろの草むらからカサッと音がした。
振り向くとやつがいた。
「ジャッキー!」
「くぅん・・」
ジャッキーは以前と変わらない様子でジョーに近づいてきた。
尻尾も振っている。
「よしよし。腹は減っていねぇか?・・といっても何も持ってきちゃいねぇが」
ジョーはよく響く声でそう言いながらジャッキーの頭と頬の辺りをぐりぐりと撫で回した。
ジャッキーも尻尾を振ったままジョーのやりたいようにやらせている。
「へへっ」
どう見ても人を殺したりジェーンに大けがをさせたようには見えなかった。
ジョーは一計を案じてこう尋ねてみた。
「なぁ、ジャッキー。おめぇ盲導犬の訓練は辛くねぇか?だったら南部博士の別荘へ戻れるように俺が話しをつけてやってもいいぜ。あそこの庭を花畑にしようとしているんだが、モグラが出てくるんで手を焼いているんだ。おめぇがいてくれたらきっと・・」
その時、ジャッキーは低くうなるとその目が一瞬赤く光り様子が一変した。
そしてジョーの手を振り払うように身体を激しく揺り動かし後ろへ飛び退いた。
「グルル・・」
牙を剥き出しにして明らかに敵意を見せるジャッキーのその姿にジョーは確信した。
「ジャッキー、おめぇはやっぱり覚えていたんだな。母親がモグラの化け物にヤられたっていうことを!だがな、モーグラン伯爵は名前がモグラに似ているだけでおめぇの仇じゃねぇよ。おめぇの本当の仇はな、ギャラクターだぜ!」
そう言ってジョーははっとした。
親の復讐に狂う自分の姿をジャッキーに見たからだ。
「くっ」
ジョーの心を読んだようにジャッキーはジョーに飛びかかってきた。
が、ジョーが飛び上がる方が一瞬早く、ジャッキーは目標を失った。
木の枝の上でその様子を見ていたジョーは考えた。
ジャッキーを元の優しいワンコに戻してやることはできないものか?
こいつはひとつ南部博士に相談してみるか。いや、そんな暇はねぇか。
母親の亡骸にすがるジャッキーを抱え込んだ時に感じた彼の鼓動と体温がジョーの手によみがえっていた。
あの時、おめぇをママから引き離しちまって悪かったな。でも、あぁしなければおめぇもやられていたんだ。
10年前には俺も・・
ジョーはハッとして下を見たが、ジャッキーの姿はいつの間にか藪の中に消えていた。
次の日は夜になってもジャッキーは現れなかった。
「このままどこかへ行ってしまったのならそれでもいいのだが・・」
G-2号機の中でジョーはぼんやりとジャッキーが小さかった頃のことを思いだしていた。
その時、音量を小さくしておいた警察無線が異常にざわつき始めた。
ボリュームのつまみを回すとジョーは鋭い視線をカーラジオに向けた。
「・・病院に・・例の犬が・・おそいかかり・・」
「しまった!ジャッキーのやつ、ジェーンをまだ諦めちゃいなかったんだ」
ジョーはシフトレバーをバックに叩き入れると長い脚でアクセルを踏み込み思いきりハンドルを切った。
バードスタイルとなったジョーが病院に着いた時にはもうジャッキーは何台ものパトカーに囲まれてパドランプが交互にジャッキーの姿を赤く染めていた。
低くうなりながらそのパトカーを睨んでいるジャッキーの足元には誰かが横たわっていた。
その姿を見たジョーは大きな声を上げそうになった。
「デブルスター!!」
見間違いかと目を凝らして見直すジョーだったが特徴のある仮面は間違いなかった。
「君!やめなさい!」
警官の制止を振り切ってジョーはエアガンを構えるとジャッキーに近づいた。
「ジャッキー、その娘(こ)を渡すんだ」
ジョーの声にジャッキーは少し後ろへ下がった。
ジョーは片膝をつくとデブルスターの仮面を外した。
「ジェーン・・やはりそうだったか・・」
もう少し早く気付くべきだった。
「お、お前は科学忍者隊・・?」
ジェーンは虫の息だった。
「あぁ、そうさ。ジェーン。俺はコンドルのジョー。本名はジョージ浅倉」
「そ・・そうだったのか。もう少し早く気付くべきだった・・」
苦しい息の中、ジェーンは続けた。
「南部の・・飼い犬が盲導犬の訓練を・・受けるというので調教師にとって代わり・・南部に危害を加えるよう洗脳・・せよとカッツェさまに命令されたのだが・・なぜか・・ギャラクターという言葉に・・異常な反応を示すので・・お、おかしいと・・思っていたんだ・・」
そう言い遺すとジェーンはジョーの腕の中で息絶えた。
「ジェーン・・」
ジョーの頬を熱いものが流れていた。
「ジャッキー、おめぇの復讐は終わったぜ。さ、南部博士のところへ帰ろう」
ジョーはエアガンをくるりと一回転させるとホルスタに収納した。そしてジャッキーに手を差し伸べた。
だが、ジャッキーは唸り声を上げるとあっという間にパトカーを飛び越えて闇の中へ消えてしまった。
「くそう!今度はモーグラン邸かっ!」
ジョーもジャッキーの後を追うようにパトカーを飛び越えるとG-2号機で走り去った。
--ジャッキーはジェーンがギャラクターだったということにいつから気付いていたんだろうか?--
モーグラン邸はすでに火に包まれていた。その中から赤く目を光らせたジャッキーが現れた。
ジョーはエアガンの照準をジャッキーに合わせた。
「もうダメだ、ジャッキー。ギャラクターだとは知らずにジェーンをかばっただけの罪もねぇ人間を殺(や)っちまったんだからな。だが、俺は・・俺はおめぇを撃ちたくはねぇんだ!」
「わかるだろう?ジャッキー。ギャラクターに復讐しようとしてもキリがねぇんだ。カッツェの野郎を仕留めねぇ限りはな!」
「グルル・・」
牙を剥き出しにするジャッキー。復讐に狂ったジャッキーの暴走は止められそうになかった。
「どうしてもやるというのか・・仕方ない・・来い!ジャッキー!」
ジャッキーとジョーは同時に宙に飛んだ。
ガッシッ!
空中で激しくぶつかり合う音がして、両者はほぼ同時に地に着いた。
ジョーがガクリと片膝をつく。ブレスレットが落ちて変身が解けた。
「・・ジャ・・ッキー・・」
間を置いてジャッキーがどさりと倒れると、咥えていたジョーのエアガンをボトリと落とした。
「ジャッキー!」
ジョーが駆け寄ったジャッキーの喉元には羽根手裏剣が刺さっていた。
「ジャッキー・・お前・・」
うっすら目を開けたジャッキーは仔犬だったころのあどけない表情に戻っていた。
「くぅん・・」
ひと声そう悲しそうに鳴いてジャッキーは目を閉じた。
「お前、わざとやられたな。・・おめぇは俺が・・俺が助けた仔犬なのによぅ・・」
パトカーのサイレンが近づく中、ジョーはいつまでもジャッキーを抱いていた。
(おわり)
※参考文献
石ノ森章太郎 著「シャマイクル」 佐武と市捕物控外伝
石ノ森章太郎 著「まぼろしの犬」 サイボーグ009
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