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フランキーはハリウッドへ行った (ハードバージョン)

『フランキーはハリウッドへ行った (ハードバージョン)』
by があわいこ


「あら、ジョーじゃない。久しぶりね」

一瞬、部屋を間違えたかと思ったが、自分の名前を呼ぶその女性を見て思い出した。
「やぁ、マリー。どうして君がフランキーの家にいるんだい?」

マリーは軽く微笑んで答えた
「どうしてって・・フランキーに留守番してくれって頼まれたのよ。何か彼に用なの?」
ビー玉のようなエメラルド色の大きな瞳で上目遣いにジョーを見上げたマリーの小さな紅い口唇が少しとんがった。

「あぁ。サーキットに置きっぱなしになっているフランキーの車をちょいと貸してもらえねぇかと思って来てみたんだ。何時ごろ帰って来ると言ってたかい?」

「フランキーはハリウッドへ行ったの。しばらく帰ってこないわ」

マリーの意外な言葉にジョーの頭の中は一瞬真っ白になったがすぐにいつもの皮肉な笑みがその顔に戻った。
「ハリウッドだとぅ?へっ、あいつ映画スターにでもなったのかい?」
「ううん。コマーシャル・・ほら、フェニックス・エンジンオイルの。ジョーも知っているでしょう?」
ショートカットにした亜麻色のくせっ毛を手櫛でかき上げながらマリーは壁のポスターを顎で指した。

「あの大事故のあと見事によみがえったのがスポンサーの目に留まったらしくて。もうフランキーったらはしゃいじゃってさ」
マリーの言葉を聞きながらジョーは吸い寄せられるようにそのポスターの前へと歩み寄った。
そこにはハイレグの際どい水着に身を包んだ(いや、ほとんど包まれていない!)女性が7人ほどフェニックス・エンジンオイル缶とともにそれぞれ大胆なポーズをとっている。

「フランキーは?」
ジョーは一番最初に脳裏に浮かんだことを飲み込んで違うことを言葉にした。
「これは女の子だけのバージョン。この娘(こ)たちの真ん中に『選ばれし名高きレーサー』が加わるわけ」
マリーは『選ばれし名高きレーサー』というところをCMのナレーションのようにわざとらしく強調して言った。
「俺はエンジン。フェニックス・エンジンオイルの彼女たちに囲まれてバリバリさ。まるで不死鳥のようによみがえってきたぜっ!」
ジョーもCMのナレーターを真似して低い声をわざと大げさに響かせてみた。
「うまいわね、ジョー。いっそのことレーサーをやめて声優にでもなったら?」
「へへ、そしたらオレもハリウッドへ行って・・」

ポスターの前から動かないジョーの顔の前に、ジャラっと鍵束が現れた。
「おっと」
「フランキーが置いて行った鍵よ。この中にその車の鍵があるかしら?」
ジョーは鍵束を受け取るとやっとポスターの前から離れてソファの上端にちょっと腰をあずけると1つ1つ確かめた。
「あ、これだな」
言うが早いか1つの鍵をシュッと外した。
そしてそのカギをピッと投げ上げ、その手で握り直すとズボンのポケットにねじ込んだ。
それを見たマリーは目を細めた。
「よかった」
「いいのかい?」
「いいんじゃない?いないやつが悪いんだからさ」
そう言いながらマリーはうふふと小さく笑った。

そのマリーの笑顔が急に崩れた。いや、マリーだけじゃない。
目の前にあるものがすべて捻じ曲がるように崩れたかと思うと激しい痛みがジョーの頭を襲った。

「ふぅおっ・・!」
ジョーはその場に膝から崩れ落ちてしまった。

「ジョー!どうしたの?」
マリーはテーブルとソファの隙間の床に倒れたジョーを抱えると、なんとかソファに横にさせた。
「す、すまねぇ。ちょっと疲れちまって・・」

マリーはジョーの額に手をやった。
「う~ん・・ちょっと熱っぽいかな。お医者さんを呼ぼうか?救急車のほうが・・」
「救急車なんか呼ぶんじゃねぇ!」
ジョーは受話器をつかもうとしたマリーの手首を強く握ると鋭い目を向けた。
「ジョー・・痛いわ・・」
マリーはジョーの手を振りほどくとキッチンへ行きタオルを水でぬらして横になっているジョーの額にあてた。
「ふぅ・・」
ジョーの口からため息が漏れた。

しばらく黙ったままマリーはソファの横に座り込んでいたが、やがて静かに口を開いた。
「フランキーね、まだあの事故の怪我が完治したわけじゃないの。まだ何かの破片が頭の中に残っていてそれが原因で時々酷い発作を起こすのよ。だからもう一度入院して再手術しましょうと言われたのに、のんきに構えて・・わざとよ・・私のいうことはもちろんドクターのアドバイスもきかないでハリウッドに行っちゃったの。病院なんかより女の子たちに囲まれたほうがよっぽど身体にいいぜなんて言っちゃってさ。馬鹿よね」

ジョーは目の上のタオルをずらして灰青色の瞳でマリーの後ろ姿をじっと見つめた。
マリーはソファのフットボードを背もたれにしたままジョーとは目を合わせずに続けた。
「ジョー、間違っていたらごめんね。ジョーのこの発作はフランキーと同じだわ。私、これでも看護師の端くれよ。だからわかるの。このままでは命にかかわることになるわ。だから病院ですぐに検査をしてほしいの」

ジョーはまたタオルで目を隠した。
「わかったよ、マリー。だがな、俺にはやらなきゃならねぇ任務があるんだ。その用事をちょいと片付けちまったら、必ず検査をしに行くよ」

「任務?用事って何よ」
マリーはジョーの方に向き直った。
「いま地球に危機が迫っているんだ。オレが悪い奴らから地球を守るのさ」
しばらく間があってマリーは笑い出した。
「ジョーってばこんな時に冗談を言って・・ジョーも病院が嫌いなのね。まぁ、大好きという人はあまりいないと思うけれど」

そう言いながらマリーは立ち上がると冷蔵庫からちょっと大きめの密閉容器を取り出してきた。
それをテーブルに置くと中身を確認しながら意外な言葉を口にした。

「フランキーもね、ジョーと同じで病院へ行きたくないと言うから時々内緒で点滴をしているの。置いて行ったのがまだあるわ。これをジョーにあげる。任務が終わるまではこれで少しはしのげるわ」

ジョーは半身を起こして額のタオルをテーブルに置いた。
「なんだって?」
「彼、ハリウッドからはもう帰ってこないかも知れない。そう思うと私ずっと怖かったけれど、ジョーと話せてよかった」
マリーは容器を紙袋に入れるとジョーの膝の上に置いた。
「マリー・・」
「落ち着いたわね。さ、今のうちに帰った方がいいわ」
マリーに促されてジョーは紙袋を抱えて立ち上がると、Tシャツの裾をズボンに入れ直してポケットの中の鍵を確かめた。

「じゃぁな、マリー。いろいろありがとよ」
「うん。ジョーも死んじゃダメよ。また会いましょ、フランキーと3人で」
「あぁ、そうだな。フランキーの野郎がハリウッドから帰ってきたら連絡してくれよな」
「わかったわ、ジョー」

2人は玄関で別れの握手をするとジョーはフランキーの部屋を後にしたのだった。

(終わり)

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フランキーはハリウッドへ行った(ソフトバージョン)

『フランキーはハリウッドへ行った』
                                                                  by があわいこ



「あら、ジョーじゃない。久しぶりね」

一瞬、アパートの部屋を間違えたかと思ったが自分の名前を呼ぶその女性の人懐こい笑顔を見て思い出した。
「やぁ、マリー。どうして君がフランキーの家にいるんだい?」

今朝早くジョーはゴッドフェニックスのノーズコーンにG-2号機を格納すると、自身は普段着に戻り小さくため息をついた。
だが、随分と久しぶりに電車とバスを乗り継いで遠くの街についたころには気分は少し良くなっていた。
バス停がある広場から細い道を少し入ったところにそのアパートはあった。
「よかった。まだここにいるようだな」
1階の玄関横にあるネームプレートを確認して呼び鈴を押すと、まもなく玄関ドアが開いてジョーは廊下の突き当りにある階段を上がり202号室のドアをノックしたのだった。



「どうしてって・・フランキーに留守番してくれって頼まれたのよ。何か彼に用なの?」
ビー玉のようなエメラルド色の大きな瞳で上目遣いにジョーを見上げたマリーの小さな紅い口唇が少しとんがった。
「あぁ。サーキットに置きっぱなしになっているフランキーの車を貸してもらえねぇかと思って来てみたんだ。何時ごろ帰って来ると言ってたかい?」
ジョーはちょっと早口になっていた。

「フランキーはハリウッドへ行ったの。しばらく帰ってこないわ」

マリーの意外な言葉にジョーの頭の中は一瞬真っ白になったがすぐにいつもの皮肉な笑みがその顔に戻った。
「ハリウッドだとぅ?へっ、あいつ映画スターにでもなったのかい?」
「ううん。コマーシャル・・ほら、フェニックス・エンジンオイルの。ジョーも知っているでしょう?」
ショートカットにした亜麻色のくせっ毛を手櫛でかき上げながらマリーは壁のポスターを顎で指した。

そこにはハイレグの際どい水着に身を包んだ(いや、ほとんど包まれていない!)女性が7人ほどフェニックス・エンジンオイル缶をそれぞれ大胆なポーズをとって持っている。

「フランキーは?」
ジョーは一番最初に脳裏に浮かんだことを飲み込んで違うことを言葉にした。
「これは女の子だけのバージョン。この娘(こ)たちの真ん中に『選ばれし名高きレーサー』が加わるわけ」
マリーは『選ばれし名高きレーサー』というところをCMのナレーションのようにわざとらしく強調して言った。

ジョーも少し前にスナックジュンでそのテレビコマーシャルを見たことがある。出てくる男性はフランキーではなく確かテスト走行中にマシンが炎上して全身大やけどを負いながらも一命をとりとめ2年後にはレースに復帰したポール・ヤンセンというレーサーだったはずだ。

『俺はエンジン。こうやって全身をフェニックスのオイルに取り囲まれるといい気分で思いっ切り力を出せるんだぜ』みたいなベタな台詞で大勢の美女に取り囲まれるというCMだった。

これでオイルの売り上げはジャンプアップしたそうだし、ポールも出演料で借金していた治療費のほとんどを支払えたというから両方とも損はないというわけだ。

「ふん、『選ばれし名高きレーサー』ね。偉くなったもんだな、フランキーは。この前のクラッシュ事故から見事に復帰したのがスポンサーの目に留まったというわけだな(うらやましい・・)」
鼻で笑いながらもジョーは小さめのオイル缶を胸の谷間にうずめている子から目が離せなかった。
(かわいい子だ。美しい)

「ねぇ、ジョー。そんなところに突っ立っていないでコーヒー、淹れてくれないかな」
そう言うマリーはすでにキッチンでエスプレッソ用のカップを戸棚から出していた。
「なんだよ、お客に淹れさせるのか」
ジョーがキッチンの入り口に立つとマリーは空のマキネッタをジョーの胸に押し付けてきた。
「いま豆を挽くから、ねっ・・!」
「なんだよマリー。さてはシューシューいうのが怖いんだろ」
ニヤリとしたジョーはすぐにマキネッタを慣れた手つきでガス台の上にセットし始めた。

マリーはキッチンにジョーを残してさっさとリビングへ行くとテーブルにカップをセットして背もたれがちょっとだけ破れたラタン製のソファに座りこんだ。
「いつもはフランキーが淹れてくれていたの!」
「わかった、わかった。なんてことはねぇよ」
チリチリとガスコンロに火をつける音が聞こえた。

マリーはテーブルの上にフランキーが置いて行った車の鍵束を見つけると、ジョーを呼んだ。
「どうした?マリー」
「ほらこれ。ジョーなら鍵だけでもわかるわよね」
ジョーは鍵束を受け取るとダイニングテーブルにちょっと腰をあずけて1つ1つ確かめた。

「あ、これだな」
言うが早いか1つの鍵をシュッと外した。
それを見たマリーは目を細めた。
「よかった」
ジョーはそのカギをピッと投げ上げ、その手で握り直すとズボンのポケットにねじ込んだ。
やがてコーヒーのいい香りが部屋中に満ちて「カラカラ」と抽出が終わった。
「できたぜ、お嬢さん」
「あ~、いい香り!ありがとうね、ジョー」
そういってマリーはエスプレッソを一口飲んだが、すぐに顔を伏せてしまった。

「ん?どうしたんだい」
「ううん。なんでもない。大丈夫よ」そういったマリーの声は涙声だった。
「コーヒー、不味かったかな」
カップをのぞき込むジョーにマリーは首を振った。
「ううん、ジョーのせいじゃないわ。フランキーが・・」
再びカップに口をつけたマリーだったがその手がかすかにふるえている。
「フランキーのやつ、何かしやがったな!?あの野郎!」
ジョーの目つきがきつくなった。
マリーはじっとカップを見つめたままだった。
「違うの。彼ね・・ジョーだから言うけど彼、まだ頭の怪我が完治したわけじゃないのよ」
「なんだって?」
ジョーは一瞬どきりとした。

マリーはぽつりぽつりと話し始めた。
「馬鹿よ。頭の傷のせいでまだ時々発作が起きるの。だからもう一度入院して再手術しましょうと言われたのにのんきに構えて・・わざとよ・・私のいうことはもちろんドクターのアドバイスもきかないで『ハリウッドへ行って女の子たちに囲まれたほうがよっぽど身体にいいぜ』なんて言っちゃってさ」

フランキーらしいといえばらしいな・・ジョーはその言葉をコーヒーと一緒に飲み込んだ。
「そんなに悪いのかい?」
マリーは小さくうなづいた。
「詳しく検査してみないとわからないということだったけれど最悪の場合は命の保証はできないって」
マリーはそこにあったチューリップ柄の紙ナプキンで涙をぬぐった。鼻の頭が赤くなっている。
「ジョーは元気そうでよかったわ」
ナプキンを丸めてエプロンのポケットに入れると作り笑顔をジョーに向けた。
「まぁな。それに俺にはこんなに心配してくれるやつはいねぇし」
そう言いながらジョーの脳裏には仲間の顔が浮かんだ。(心配か・・だから今の俺の身体のことは絶対に知られたくねぇんだ)
それを振り払うように立ち上がったジョーは
「ごちになったな、マリー。元気を出すんだぜ。また来るからよ」と玄関へと向かった。
「ええ、また来てね。ジョー・・あ、そうだ。これもいるんじゃない?」
ジョーを追うように玄関に来たマリーはシューズボックスの上にかけてあったゴーグルを差し出した。
きれいなブルーのレンズがきらりと光った。
「いいのかい?」
「いいのいいの。いないやつが悪いんだからさ」
そう言いながらマリーはうふふと小さく笑った。

「あんまり心配するんじゃねぇよ、フランキーの野郎はきっと元気で帰って来るさ。何事もなかったようにな」
受け取ったゴーグルと交換するようにジョーが出した大きな右手をマリーは握った。
「うん、そうね。ありがとジョー。ジョーも命だけは大切にしてね」
「あぁ、わかったよ。じゃあまたな、マリー」

ポケットに手を突っ込み鍵を確かめるとジョーはフランキーのアパートを後にしてサーキットへと向かったのだった。


(おわり)

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バードスタイルのヒ・ミ・ツ♪

『バードスタイルのヒ・ミ・ツ♪』  2010/12/06(Mon) 16:18 南部響子




「どうした?ジョー。」

南部博士は待機ルームへ戻ろうとしないジョーに声をかけた。
「あの~、俺・・靴を片っぽう失くしちまって・・。」
「なに?!それでまだ見つからないのか?い、いかん。徹底的に探すんだ。どんなことがあっても回収するんだ!!」
「はぁ?」
「全員でだっ!」

しかし、ジョーの靴はいくら探しても見つかるはずはなかった。
マンモスーンと一緒にギャラクターの基地へと運ばれていたのだ。


(中略)


カッツェ「おぉおっ。これは、科学忍者隊の・・。」


(またまた中略)


総裁Xはカッツェにある作戦を指示した。
「名付けて・・チン出れら作戦!」


(再び中略)


そして、あらゆる角度から分析してその靴を履く人間の年齢、身長、体重、性格まで割り出そうというのであった。

そしてついに・・


じゃ、じゃ~~ん!!


「おぉ?う・・うぅ~~ん・・」
出来上がったイラストを見てばったりと倒れるカッツェ・・。


「カッツェさまが壊れたぞ~~!」

ジョーはついに宿敵カッツェを倒したのだった。


(おわり)←いいのか?

2012年02月05日00:30

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おとうと

「お兄ちゃん・・。ねぇ、ジョージお兄ちゃんってば」

肩を揺さぶられたような気がしてジョーはうっすらと目を開けた。
「どこだ?ここは」
そして俺の本名を呼ぶ奴は誰だ?

もっと目を開けようとしたが、まぶしくてまた目を閉じてしまった。
「僕だよ、お兄ちゃん。弟のジャックだよ」

ジョーは目を閉じたままふっと笑った。
「俺に弟はいないぜ。弟みたいな奴はいたがな」
そう言おうとしたが、声が出なかった。それに身体が思うように動かない

「そうか、お兄ちゃんは知らないよね。僕、10年前にママと一緒に死んじゃったんだ。あの時はまだママのお腹の中にいてさ」
「な、なにっ!?」

今度こそ目が開(あ)いてまわりの様子が少しわかった。
どうやら冷たくて硬い床の上に横たわっているようだ。
頭を少し持ち上げるとひどく痛んだが向こう側の壁に何か光るものが見える。
「痛ててっ・・」

灰青色の目を凝らしてみると数字が書いてあるシリンダーのようなものが壁いっぱいの装置に埋め込まれて光を放っている。

あ・れ・は・・?

「こっ・・ここは!・・ここはギャラクターの本部だ!!」

我に返ったジョーは思わず身体を起こそうとしたが激痛が全身をめぐり、反射的に身体をひねるとうつ伏せになった。
「うっ・・くそっ」
血だまりで身体がぬるりと滑った。

「おい、ジャック!どこにいる?出てきて兄貴の危機を救ってくれよ」
まわりはしんと静まり返っていた。

「ちぇ、あれは夢だったのか。ならここでゆっくりと眠らせてもらおうか」
ジョーが目を閉じようとするとまたジャックの声が聞こえた。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんはここの入り口を知らせに地上へ出なくちゃ」
「いや、もう身体が動かねぇんだ。お前が代わりに行ってくれねぇか?」

「ダメだよ。あの時、天国の入り口で、大天使様と約束したじゃない。地球が消えそうになった時に命に代えても地球を救うってさ。それでみんなで天国へ昇ろうとしていたけどお兄ちゃんだけ地上に還されたんじゃないか」
弟の凛とした声は耳ではなくジョーの頭の中に直接響いているようだった。その言葉に押されるようにジョーは重い身体を動かし始めた。

「わかったよ。俺はこれから地上へ行くぜ。だがな、ジャック。あの機械は止められないぜ」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。あの機械はそのうち止まるよ」
「そうかな?」
「そうだよ。さっきカッツェに投げた羽根手裏剣が外れて機械の中へ入っていったでしょ」
「あ?あぁ・・」
「あれがそのうち装置の中の歯車に挟まって機械を壊すんだ」

「そうかい。わかった、わかったよ」
「ホントに分かったかなぁ」
すでにジョーは外へ出ることだけを考えていてジャックの声は耳に入らなくなっていた。

「ここだ」
ジョーはゆっくりと階段の一段目に手をかけた

(おわり)

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さらば、ジャッキー (後編)

 モーグラン邸を囲む警察車両とは別にちょっと離れたところへG-2号機を停めたジョーの脳裏にギャラクターに殺された両親の断末魔が甦った。

そうだ。
ジャッキーも目の前で母親をギャラクターの鉄獣ロボットに殺された。
その記憶は決して忘れられるものじゃねぇはずだ。
ひょっとしてあの伯爵一家はギャラクターと関係があるんだろうか。
あのモグラの化け物さえいなけりゃジャッキーだってママと一緒に幸せに暮らしていたはずだったのによ。
あのモグラさえ・・モグラ・・?!モー・・モーグラン!!
そうか。もしかしたら伯爵の名前を聞いて親の仇と思ったのかも知れない。
「ジャッキーめ。復讐の相手を間違えやがって」
そう独り言を言うとジョーは彫の深いその貌に皮肉な微笑を浮かべた。

 その夜はモーグラン一家も警戒をして一歩も外へ出ずにいたためか、ジャッキーは現れなかった。
きっとどこかにひっそりと身を隠して様子をうかがっているのだろう。
夜が明けるのを待ってジョーはモーグラン家の屋敷の裏にある雑木林へ行ってみた。
もちろん警察の非常線は張ってあるがバードスタイルには無用だ。
ジョーは高く低く指笛を吹いてみた。
あたりはしんと静まり返っている。
「ジャッキー、俺だ。いるんだろ?出て来いよ」
少し間をおいてジョーの後ろの草むらからカサッと音がした。
振り向くとやつがいた。
「ジャッキー!」
「くぅん・・」
ジャッキーは以前と変わらない様子でジョーに近づいてきた。
尻尾も振っている。
「よしよし。腹は減っていねぇか?・・といっても何も持ってきちゃいねぇが」
ジョーはよく響く声でそう言いながらジャッキーの頭と頬の辺りをぐりぐりと撫で回した。
ジャッキーも尻尾を振ったままジョーのやりたいようにやらせている。
「へへっ」
どう見ても人を殺したりジェーンに大けがをさせたようには見えなかった。
 ジョーは一計を案じてこう尋ねてみた。
「なぁ、ジャッキー。おめぇ盲導犬の訓練は辛くねぇか?だったら南部博士の別荘へ戻れるように俺が話しをつけてやってもいいぜ。あそこの庭を花畑にしようとしているんだが、モグラが出てくるんで手を焼いているんだ。おめぇがいてくれたらきっと・・」
その時、ジャッキーは低くうなるとその目が一瞬赤く光り様子が一変した。
そしてジョーの手を振り払うように身体を激しく揺り動かし後ろへ飛び退いた。
「グルル・・」
牙を剥き出しにして明らかに敵意を見せるジャッキーのその姿にジョーは確信した。
「ジャッキー、おめぇはやっぱり覚えていたんだな。母親がモグラの化け物にヤられたっていうことを!だがな、モーグラン伯爵は名前がモグラに似ているだけでおめぇの仇じゃねぇよ。おめぇの本当の仇はな、ギャラクターだぜ!」
そう言ってジョーははっとした。
親の復讐に狂う自分の姿をジャッキーに見たからだ。
「くっ」
ジョーの心を読んだようにジャッキーはジョーに飛びかかってきた。
が、ジョーが飛び上がる方が一瞬早く、ジャッキーは目標を失った。
 木の枝の上でその様子を見ていたジョーは考えた。
ジャッキーを元の優しいワンコに戻してやることはできないものか?
こいつはひとつ南部博士に相談してみるか。いや、そんな暇はねぇか。
母親の亡骸にすがるジャッキーを抱え込んだ時に感じた彼の鼓動と体温がジョーの手によみがえっていた。
あの時、おめぇをママから引き離しちまって悪かったな。でも、あぁしなければおめぇもやられていたんだ。
10年前には俺も・・
ジョーはハッとして下を見たが、ジャッキーの姿はいつの間にか藪の中に消えていた。

 次の日は夜になってもジャッキーは現れなかった。
「このままどこかへ行ってしまったのならそれでもいいのだが・・」
G-2号機の中でジョーはぼんやりとジャッキーが小さかった頃のことを思いだしていた。
その時、音量を小さくしておいた警察無線が異常にざわつき始めた。
ボリュームのつまみを回すとジョーは鋭い視線をカーラジオに向けた。
「・・病院に・・例の犬が・・おそいかかり・・」
「しまった!ジャッキーのやつ、ジェーンをまだ諦めちゃいなかったんだ」
ジョーはシフトレバーをバックに叩き入れると長い脚でアクセルを踏み込み思いきりハンドルを切った。

 バードスタイルとなったジョーが病院に着いた時にはもうジャッキーは何台ものパトカーに囲まれてパドランプが交互にジャッキーの姿を赤く染めていた。
低くうなりながらそのパトカーを睨んでいるジャッキーの足元には誰かが横たわっていた。
その姿を見たジョーは大きな声を上げそうになった。
「デブルスター!!」
見間違いかと目を凝らして見直すジョーだったが特徴のある仮面は間違いなかった。

「君!やめなさい!」
警官の制止を振り切ってジョーはエアガンを構えるとジャッキーに近づいた。
「ジャッキー、その娘(こ)を渡すんだ」
ジョーの声にジャッキーは少し後ろへ下がった。
ジョーは片膝をつくとデブルスターの仮面を外した。
「ジェーン・・やはりそうだったか・・」
もう少し早く気付くべきだった。

「お、お前は科学忍者隊・・?」
ジェーンは虫の息だった。
「あぁ、そうさ。ジェーン。俺はコンドルのジョー。本名はジョージ浅倉」
「そ・・そうだったのか。もう少し早く気付くべきだった・・」
苦しい息の中、ジェーンは続けた。
「南部の・・飼い犬が盲導犬の訓練を・・受けるというので調教師にとって代わり・・南部に危害を加えるよう洗脳・・せよとカッツェさまに命令されたのだが・・なぜか・・ギャラクターという言葉に・・異常な反応を示すので・・お、おかしいと・・思っていたんだ・・」
そう言い遺すとジェーンはジョーの腕の中で息絶えた。
「ジェーン・・」
ジョーの頬を熱いものが流れていた。

 「ジャッキー、おめぇの復讐は終わったぜ。さ、南部博士のところへ帰ろう」
ジョーはエアガンをくるりと一回転させるとホルスタに収納した。そしてジャッキーに手を差し伸べた。
だが、ジャッキーは唸り声を上げるとあっという間にパトカーを飛び越えて闇の中へ消えてしまった。
「くそう!今度はモーグラン邸かっ!」
ジョーもジャッキーの後を追うようにパトカーを飛び越えるとG-2号機で走り去った。

--ジャッキーはジェーンがギャラクターだったということにいつから気付いていたんだろうか?--

 モーグラン邸はすでに火に包まれていた。その中から赤く目を光らせたジャッキーが現れた。
ジョーはエアガンの照準をジャッキーに合わせた。
「もうダメだ、ジャッキー。ギャラクターだとは知らずにジェーンをかばっただけの罪もねぇ人間を殺(や)っちまったんだからな。だが、俺は・・俺はおめぇを撃ちたくはねぇんだ!」

「わかるだろう?ジャッキー。ギャラクターに復讐しようとしてもキリがねぇんだ。カッツェの野郎を仕留めねぇ限りはな!」
「グルル・・」
牙を剥き出しにするジャッキー。復讐に狂ったジャッキーの暴走は止められそうになかった。

「どうしてもやるというのか・・仕方ない・・来い!ジャッキー!」
ジャッキーとジョーは同時に宙に飛んだ。

ガッシッ!

 空中で激しくぶつかり合う音がして、両者はほぼ同時に地に着いた。
ジョーがガクリと片膝をつく。ブレスレットが落ちて変身が解けた。
「・・ジャ・・ッキー・・」
間を置いてジャッキーがどさりと倒れると、咥えていたジョーのエアガンをボトリと落とした。
「ジャッキー!」
ジョーが駆け寄ったジャッキーの喉元には羽根手裏剣が刺さっていた。
「ジャッキー・・お前・・」
うっすら目を開けたジャッキーは仔犬だったころのあどけない表情に戻っていた。
「くぅん・・」
ひと声そう悲しそうに鳴いてジャッキーは目を閉じた。
「お前、わざとやられたな。・・おめぇは俺が・・俺が助けた仔犬なのによぅ・・」
パトカーのサイレンが近づく中、ジョーはいつまでもジャッキーを抱いていた。

(おわり)


※参考文献
石ノ森章太郎 著「シャマイクル」 佐武と市捕物控外伝
石ノ森章太郎 著「まぼろしの犬」 サイボーグ009


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