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私のアイドル

 一日のパトロールを終えた忍者隊の諸君が三日月基地に帰還した。
健が報告を済ませると諸君はそれぞれ待機ルームへと戻っていった。
だがジュンはそのまま博士のデスクの前に残っている。
「どうしたね?ジュン」
南部博士は椅子に座ったままうつむき加減で立っているジュンに声をかけた。
「あの・・明日のパトロールなんですけど・・」
なんでもはっきりとものを言うジュンにしては珍しくもじもじとしている。
まさか靴を片方失くしたとかいうのではないだろうな・・そう思いながらも
「言ってごらん」
博士は優しく声をかけた。
「あのぅ・・パトロールが無事に済んだらここに戻らないでそのまま行きたいところがあるんですが・・」
「ゴッドフェニックスで行きたいというのかね?」思わず博士の右眉が上がる。公私混同されては困るのだ。
「いえ、ゴッドフェニックスはちょっと離れたところに置いて行くところはYK894地点です」
やはり公私混同ではないかと思いつつも博士はジュンの言った地点の地図を手早くインプットするとスクリーンに出した。
「と、いうと・・ペイズリー農場かね?」
「はい」
曇っていたジュンの顔が上気してビリジアンの瞳が輝きだした。
「実はそこでデーモン5の野外フェスがあるんです」
「農場で!?」

 そういえば1969年にもアメリカのニューヨーク州にあった個人所有の酪農農場で大規模な野外フェスがあった。
あれは、ウッドストック・フェスティバル(Woodstock Music and Art Festival)といってのちに伝説のミュージシャンとなったジミヘンやジャニス・ジョプリンも出演していた。
愛と平和、そして自由を謳ったヒッピーたちの祭典でもあった。

 博士がそんな物思いにふけっていると、ジュンが嬉しそうに話を続けた。
「会場内は入場料がいるんですけど柵の外なら無料で聞き放題なんです!」

そうか、そういえばウッドストックの時も確か途中からなし崩し的にフリーコンサートになってしまった。若者はいつの時代にも自由に憧れるものなのだ。
博士ははっと気づいた。
「無料ということはそのナントカ5のライブへは五人とも行くのだな」
「まだみんなには都合を訊いていないんです。行かないって言われたら私一人で降ろしてもらうつもりなんです。あとの四人はデーモン5の音楽には興味がないみたいなので・・ダメでしょうか・・?」

ジュンの表情が再び曇った。
眉の両端が下がって上目づかいに博士を見ている。
その博士はコの字に曲げた右手の人差し指を顎に当てて目をつぶり何事かを考えている。
「ジュン、四人をちゃんと説得して必ず五人そろって行けるかね。それなら許可しよう」
意外な博士の言葉にジュンは一瞬ためらいを見せたがすぐに「はい、大丈夫です!」ときっぱり答えた。
そしてその笑顔には説得できるという自信が満ちていた。

その笑顔を見た博士はどんな方法で説得するのかは訊かないほうが良いだろうと判断し・・いや、恐ろしくて訊けないので「よろしい」とだけ応じた。
「わぁ、よかった!博士、ありがとうございます」
ジュンは組んだ手指を上気させた頬に擦るように当てた。嬉しい時の彼女のサインだ。
夢だと言っていた自分の店を持たせてやろうと言った時と同じだ。
「さっそくみんなに話して来ます!」
そう言うが早いか白鳥が水辺から飛び立つ時のように優雅に美しく、しかし大変な猛スピードで待機ルームへ消えていった。

 これで健のツケは少し減るだろう。甚平はスナック・ジュンでの仕事が少し楽になるだろう。
そして竜のカレーライスの盛りがよくなると思われる。
だが、ジョーは・・?

ま、ジョーは一応女の子のジュンのお願いを断りはしないだろう。

「ギャラクターと戦っている方がよっぽどましだぜ」
そういう男子諸君のボヤキが聞こえるような気がする博士だった。


(おわり)

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溶けないチョコ


「チョコレート?ふっ、俺はそういうの食わねぇんだ。すまねぇが持って帰ってくれ」
毎年この日は女の子たちからのプレゼントを断るのに苦労する。

 レースの後、そんな女の子たちをどうにかかわして一人トレーラーに戻るとベッドに身を預けた。
キッチンからかすかにカカオの匂いがする。
「キョーコ!いるのか?」
上半身を起して声をかけたが返事はなかった。
ふとテーブルを見ると見慣れない包みが置いてある。

「キョーコのやつまでチョコレートかよ」

いいかげんにしてくれよと思ったが、
「一応中味を確かめておかないと後が怖いからなー」と独り言を言いながら金色のリボンを外した。
ピンク色のハート型をした箱の中にはいかにも手作りといった感じのごつごつしたチョコが入っていた。
お世辞にもおいしそうには見えない。
「あいつ、意外と不器っちょだな」
ふん、と鼻で笑い、思わず小さめの欠片を一口頬張った。
ジャリっと音がする。
「こ、これは・・!」
間違いない。懐かしいBC島の名物チョコ、モディラ(※)だった。

「ここで作っていたなら、俺が帰ってくるまで待ってりゃいいのによ。あいつだって故郷のチョコは食いてぇだろうに」

もう一口。今度は大きな欠片を頬張る。
ジャリジャリジャリ・・

ガキのころ親子三人で街まで買い物に行った時にいつも寄ったお菓子屋を思い出す
ジャリジャリジャリ・・

島での出来事は辛く悲しいものしか覚えていなかったが、楽しいこともあったんだよな
ジャリジャリジャリ・・

いつの間にか灰青色の大きな瞳から溢れるものがあった
ジャリジャリジャリ・・

人目をはばからずに故郷のチョコを味わえるよう、キョーコは気を利かせたのだろうか?
ジャリジャリジャリ・・

いつか二人で島へ帰ろうな。
ジャリジャリジャリ・・

ピンクのハートの中は空っぽになった。
シャワーを浴びると涙の痕も消えた。

キョーコへのお返しは夕日が美しいキレー岬へのドライブでいいかな。あそこの景色は島にとてもよく似ているから・・そう思いながらジョーは眠りについた。

(おわり)


※シチリア島のモディカチョコレートを参考にしました

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パートナー

『パートナー』
             


 ジョーは砂漠の真ん中で巻き上がる風に吹かれるまま身をゆだねていた。

「何にも無くなっちまったな。あの時の賑わいがウソのようだ」
足元の黄色い砂をドライヴィンググローブをしたまますくってみたがあっという間に風に散ってしまった。
「フッ・・」
パンパンと手を打つようにして手袋に残った砂を払うと乗ってきたカスタムカーのシートに再び身を滑り込ませた。


 そのころ、スナックジュンにはジュンと甚平、そして健や竜が集まってクリスマスの飾りつけをしていた。

「もうすぐ開店時間だわ、健。ツリーをもう少し真ん中に出してちょうだい」
ジュンがカウンターの中から指示を出している。
「やれやれ、ここではガッチャマンも形無しじゃのう。ニヒヒヒ・・」
ムッとしている健をよそに竜はにっこり笑顔でリング折り紙を編んでいる。
「ジョーはどこへ行った?」
空色の瞳が甚平に向けられた。
甚平はジュンの隣りでサンドイッチを作っている。
「お墓参りだってさ」
「なんだと?またBC島へ行ったのか!」
健の声にみんなの手が止まる。
「違うよ、兄貴。アフリカだって言っていたよ、確か」
「アフリカ?」
「前に世界カスタムカー耐久ラリーがあっとところだわ」
ジュンがミラーボールの調整をしながら答えた。
「アフリカに知り合いなんかいたかなぁ」
健がそう言うとすかさず竜が突っ込んだ。
「女の子の確率が90パーセント以上じゃのう。ジョーも隅に置けんわ。グヒヒヒ・・」
「でもお墓参りということは亡くなっているのよね」
もっともなジュンの発言にしゅんとした竜は無言で出来上がったリング飾りをジュンに渡した。


 ジョーは思い切りエンジンをふかすと砂漠の真ん中で大きくハンドルを切った。
ギャラクターの動物メカに追われた時のことが鮮やかによみがえる。
二人で命がけの5日間を過ごした。このカスタムカーに乗って・・
灰青色の瞳でぐっと前方を睨むとジョーは手櫛で前髪をかき上げ、あのレースのゴール地点だったところを目指してアクセルを踏んだ。

レースの後、ルシィからギャラクター本部の場所を訊こうとしたホテル&レストランの建物はまだあったが街全体が寂れてしまっていて見る影もなく廃墟と化していた。
しかし、ジョーは躊躇なくその中へと入っていった。
ルシィが壁を突き破って外へ飛び出して行ったのはどのあたりだろう?
レストランだった場所へ行ってみるとすぐにわかった。ジョーはそこから下を覗いてみた。

「するってぇと、あの辺だな」
目星をつけたところへ下りていったジョーは背中のベルトに差していた折り畳み式のスコップを広げ、ザクザクっと砂を掘っていった。

ガチっとスコップの先が何か固いものに当たった。
「ルシィ!?」

金属性の何か部品のようなものだった。
ジョーは時間のたつのも忘れてそのあたりを掘り返し続けた。
そしてとうとう頭部を見つけ出した。
忘れもしない、ジョーが最後に見たルシィの顔だ。
「ルシィ、久しぶりだな。ふっ、ちっとも変っていねぇ・・」

ジョーは『ルシィ』をすべてかき集めると車のナビ席に乗せた。
「ルシィ、懐かしいだろ?おめぇの愛車だぜ。しばらく借りていたが返しに来たぜ。」

 チェックポイントのテントがあった地点へ来ると、まだ残っていた森の中へと進んでジョーは車を止めた。
「このあたりでいいか」
ジョーは『ルシィ』をそっと包み込むようにしてチェッカーフラッグを掛けた。
「メリークリスマス、ルシィ。ここでゆっくり休むんだな。あばよ」

ジョーはルシィのカスタムカーから降り、そのドアをバタンと閉めた。
「さて、ここから歩いて帰ってもいいんだが・・。やっぱり呼ぶとするか」
ジョーはニヤリとすると予め取り付けておいた発煙筒を車の屋根から外して点火した。

しばらくするとヘリの音が聞こえてきた。


 スナックジュンの看板照明は消えていたが、店内はドア越しにまだぼんやりと灯りが点いているのがわかる。
(甚平がいれば何か飯にあり付けるだろう。流石の俺もヘリをチャーターしたらオケラだぜ)
ジョーはそう思いながら入り口のドアを押し開けた。薄暗くて中の様子がわからない。
「誰もいねぇのかー?」

甚平がカウンターの向こうから首だけを出した。
「あれ?ジョーの兄貴。今ごろ来たってクリスマスパーティーはとっくに終わっちゃったよ」
「腹が減っているんだ。何か残り物はねぇか?」
「竜と兄貴がいて何か残っていると思う?」
ため息まじりに甚平が答えた。
「そりゃそうだな」
あきらめて店を出ようとしたその時だった。

「お帰りなさい、ジョー。メリークリスマス!」
店の明かりが全部点いたかと思うとジュンがクラッカーを鳴らした。
ジュンだけではない。健も竜もクラッカーを打ち上げた。

「な、なんだよ。おまえら!」
「そろそろ帰ってくるころだと思ってな」
健がいつものように冷静に答えた。
甚平がカウンターの下からケーキとチキンのから揚げを出すと、ジュンがコーラを注ぐ。
「さ、みんな揃ったところで始めましょう!」
「あれ?ジョーが泣いているぞい」
「ばかやろう、急に明るくするからまぶしいだけじゃねぇか。くそう」

目をこすりながらジョーは気づいた。
「何で帰って来るってわかった?健」
健が答える前にジュンが紙切れをつまんで出した。それにはこう印刷されていた。

『請求書/ヘリコプター・チャーターのことならアメリス・スカイフライト/ご利用時間・・』

そうだった。ジョーは住所不定なのでスナックジュンを住所の欄に記入したのだった。
「ちぇ、俺としたことが」

 笑いに包まれたスナックジュンで皆はつかの間の穏やかな時間を過ごした。
いつの日かギャラクターを殲滅させ、世界に平和が訪れることを祈って・・

メリークリスマス!


(おわり)

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 教会の裏口がノックされてアラン神父がその扉を開けると市長とSPが二人入ってきた。
「ギャラクターが何の用かね?」
市長の後ろにいる二人が申し合せたように「チッ」と舌打ちした。
市長は落ち着いた様子で冷たい微笑みを浮かべると口ひげが少し曲がった。
「ご挨拶だな、神父さん。ちょっと知らせとお願いがあってきたのだ」
「懺悔する気になったのかな?市長さん」
黒いスーツに黒いサングラスをした後ろの二人がアランに飛びかかろうとするのを市長が抑えた。
「今朝、墓地にこの土地のものではない怪しい男が来ましてね」
市長はアランを睨みつけて続けた
「カッツェさまがジュゼッペ浅倉の息子ではないかとお疑いなのだ」
「なに!?」
アランははっとした。
市長はニヤリ顔でアランに迫る
「君はジュゼッペの息子ジョージとは親しかったようだな。そこで会って欲しいのだその男にな」
「断ると言ったら?」

アランの言葉を待っていたように市長は顎でSPに合図をした。
SPが乗ってきたリムジンの窓を開けるとそこにはアランがよく知っている女性の顔があった。
白いタオルで猿轡をされ後ろ手に縛られている。
「彼女はお前に不審な男と会って話をして欲しいようだぞ」

アランには市長の銃が突き付けられていた。



「彼女は私の婚約者だった」

そういうアランの言葉を聞いてジョージは平静を装っていたが動揺は隠せなかった。

ジョージ浅倉はコンドルのジョーだ。

アランは確信した。
だが、そんなことを確かめたためにジョージを傷つけてしまった。

その写真の子はアランの婚約者でも何でもない。ギャラクター隊員の子だ。
ギャラクターを抜けてレーサーになりたいとは言っていたそうだが。
写真はジョージを罠にかけるために市長が用意したものだ。

アランの本当の婚約者はギャラクターに捕われている。

 アランは10年ぶりに再会した幼馴染みの前で一世一代の大芝居をした。
身体のどこからか違う人間が入り込んできたかのようだった。自分が自分でないような気がした。
もう後戻りはできない。
その思いがアランを駆り立てた。
難しいと思っていたのにセリフも態度もコンドルのジョーに婚約者を殺されたアランになりきっていた。

だがアランは心の片隅で決心していた。
これから市長が待っている「学校」へ行ったらあの男はジョージではなかったというつもりだ。

 廃校になって荒れ果てている教室には古い机と椅子がいくつか転がっているだけでざらついた床から砂煙が上がっている。
黒いスーツ姿のSPを従えた市長が懐から葉巻を取り出すとさっとSPがライターをを差し出す。
「どうだったね?神父さん」
紫色の煙を吐き出しながら市長は尋ねた。
「残念ながら彼はジョージ浅倉でもコンドルのジョーでもなかったよ、市長さん」
アランは真っ赤になっている葉巻の先を見つめながら答えた。

「そうかね?それは残念だった。カッツェさまにもそう報告しておこう。ところで・・」
「彼女は!?彼女は無事なんだろうな!?」
市長の言葉をさえぎってアランは詰め寄った。
SPがアランに銃口を向ける。
「もちろんだよ、神父さん。ついでといってななんだが、もう一つだけ仕事をしてもらおうと思ってね。」
「何?」
アランの顔が引きつる。
「幼馴染みのジョージではないとしてもあの男はギャラクターに何かしらの恨みを持っているようだからこの際、片づけてくれないかね?神父さん・・おい」
市長がSPに声をかけるとその一人がライフルを市長に渡した。
「ことが済めば神父さんは晴れてあのと結婚できるな」
そう言うと市長はアランにそれを手渡した。
アランの手には神父には似つかわしくないものがずっしりと握られていた。

 ライフルを隠し持って教会へ向かう道すがらアランは後悔の念に駆られていた。
「市長はもう墓参りに来た男がジョージ浅倉だとわかっていた。私を試したのだ。」
市長のあの様子から見て彼女はもうこの世にはいないだろう。
「婚約者の自分ではなく10年前に別れたきりの幼馴染みを庇った私のことを恨んで逝ってしまったに違いない・・」
そう考えると胸が張り裂けそうになる。
 アランはジョージが生きていると信じていた。そしてもう一度ジョージに会わせて欲しいと神に祈ったこともある。
願いは叶ったがその代償は大きすぎた。

 まっすぐ教会へ向かう気になれなかったアランは途中でオリーブ畑に入り込むと樹の根元に座り込んで空を見上げた。
白々と夜が明けようとしている。
ジョージに不吉なリュウゼツランの花のことを話したのが遠い昔のような気がする。
「こんな再会の仕方になってしまって悔しいが、ジョージが生きていて嬉しかったよ。私もギャラクターがどんな連中かはよく知っているつもりだ」

そう一人つぶやくとアランはライフルを取り出し銃口を自分に向けた。
だがトリガーに指がかからない。

「ふっ、ふっ、ふっ・・」
アランは皮肉な笑い声を上げた。
そして一発だけ装填されていた銃弾を取り出して遠くへ投げ捨てた。

 オリーブ畑を抜けると教会が昇る朝日に照らされていた。
教会の裏口に着くと科学忍者隊が礼拝堂でギャラクター相手に暴れまわっているのが見えた。
あの様子では市長らも責任を取らされるだろう。自業自得だ。

聖職の身でありながら嘘をつき続けてジョージを傷つけてしまった。婚約者も喪った。
だがその嘘ももうすぐ終わる。
「私を婚約者のもとへ連れていってくれるのはジョージ・・いやコンドルのジョーか?ガッチャマンか?」

アランはゆっくりと正面の入り口へ回るとジョージを囲んでいる忍者隊に声をかけた。


(おわり)

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異聞・死を賭けたG-2号

【注意】話の途中、少しだけ性的表現があります。苦手な方は読まずにご退場ください【注意】
 
 
 
 
 時折ジョーを襲った強烈なめまいと頭痛は最近その間隔を狭めていた。
だが、ジョーはこのことを誰にも知られたくなかった。憎むべきギャラクターをこの手で滅亡させるまで戦い抜くのだ。迫りくる死の恐怖を払いのけるかのようにジョーは飛ばした。

 ジョーはサーキットで軽快なエンジン音にしばらくは身をゆだねていたが、その耳にかすかに不快な雑音が紛れてきた。
ヘリの音だ。
それも一台や二台ではない。
それはあっという間にジョーのレーシングカーに追いついてきた。
ギャラクターの戦闘ヘリだった。
なぜ俺の居所がわかったのだろう?
「G-2号機でないのが残念だ。それに俺の身体ときたら・・」
ジョーはハンドルを握り返したがとても逃れられる相手ではない。
急ハンドルを切ってはみたもののついにガードレールをぶち破るとジョーは車外へ放り出されて気絶してしまった。

「なんでぇ、意外にもろかったじゃねぇか」

ついにジョーはギャラクターに捕えられ、非戦闘バージョンのメカドクガへと連れ去られてしまった。

 ジョーは奇妙なマスクをかぶった男の前に引き出された。
「サーキットでせっかくお遊びのところ、すまんかったのう。許してちょうよ」
だが男がそのベールを脱ぐとそこから金色の長い髪を耳元で束ねた女隊長が現れた。

「ちぇ、紫の君のお出ましかと思ったら女のカッツェ・・いや、女隊長さんか」
少し丸まった鼻の先を親指で掻き上げるジョーに女隊長は蛇のような冷たい視線を注いだ。

「お前がコンドルのジョーだっていうことはわかっているからねぇ。フフフ・・コンドルのジョー。お前とちょっとしたゲームをしようと思ってね。さぁ、こっちへ連れてくるんだよ」
女隊長は雑魚兵に命令した。
マシンガンを突き付けるチーフをジョーは睨みかえした。
「雑魚は引っ込んでな。俺は女性からの御誘いを断るような野暮天じゃねぇよ」
ジョーは自ら進んで女隊長の後に続いた。

 大きなギャラクターのマークがスライドするとその奥に白い部屋が現れた。
ジョーがその部屋に入ると入り口は再びぴったりと閉じられた。
そして女隊長が口を開いた。
「コンドルのジョー、お前はやはりあのジュゼッペ浅倉の息子だったんだね」
「なに!?」
ジョーの動きが止まった。

「ジュゼッペも女性には優しくてね。乱暴はできなかったよ。どうやらお前もそのようだね」
立ち止まって腕組みをしているジョーの周囲を値踏みするようにぐるりと歩きながら女隊長は薄ら笑みを浮かべていた。

「さぁ、もっとよく顔を見せてごらん」
顔を寄せて来る女隊長の目とジョーの目があった瞬間、みぞおちにちくりと痛みが走った。
思わず顔をゆがめるジョー。

「フフフ、これは特別な筋弛緩剤だよ。意識ははっきりしているのに身体には力が入らないのさ。これでもう私はおまえのことを自由にできるというわけさ」
「くそう・・」
ジョーはたまらず膝をついた。

 女隊長が壁の配電制御盤に並べられているスイッチを押すと天井から鎖が付いた手錠が下りてきた。
そしてそれは容赦なくジョーの両手首を捉えてジョーは宙吊りになった。
それと同時に床からは足かせが出現してジョーの両足首をつかんだ。

「な・に・を・しよう・と・いう・・んだ・・」
動かせない身体をなおも動かそうとするジョーだったが、もはや自由になるのは瞼と口唇くらいだ。

「今日、私がカッツェに代わってお前に会ってやるのにはわけがあるのさ」
そう言うと女隊長はジョーの顎からうなじにかけて右手を伸ばしてきた。
冷たい指先のせいか、ジョーの身体が凍り付いたようになり鳥肌が立った。
女隊長は構わずにジョーの耳たぶをその指先で弄んだ。

「ジュゼッペは私の申し出を冷たく断った。私が目をかけてやったから幹部になれたというのに」
「な、何のことだ!?」
「お前の弟を私が産んでやろうということだよ。それを・・!」

ジョーの頭の中はひどく混乱していた。
(俺の弟・・?この女隊長が俺の弟を産むだと!?)

「何も知らないようだね。無理もない。お前はまだほんの子供だったからね」
「オヤジと何かあったのか?」
「何もないさ。けど、この前変身を解かれたお前の姿を見て思い出したのさ。ジュゼッペにそっくりだったからねぇ」

 女隊長の指が耳からゆっくりとジョーのうなじを再びすべっていく。
赤く塗られた長い爪の先がほんの少しだけ触れるか触れないかという感覚が、かえってジョーの身体を熱くしていた。

「や・・めろ・・」
「感じやすいんだね。いいねぇ、若い子は・・」

 女隊長はジョーの身体から離れると配電制御盤の下に置かれたテーブルの上のボトルに入った紅い液体をグラスに注ぎ一気に飲み乾した。
そして再びジョーに近づくとわざわざ踏み台を一段登って首の後ろへと手を伸ばしてきた。

後ろ髪を掴まれてジョーの顎が上がる。
その口唇に女隊長の口唇が近づく

「この瞳も眉も、鼻筋も、顎も・・そっくりだ。ジュゼッペ・・いま気持ちよくしてあげる・・」

女隊長は薄紫色のぴっちりとした戦闘服を自らビリビリと破りながら脱ぎ捨てた
豊満な胸があらわになった。
女隊長はジョーがジュゼッペに見えてきたらしい。

「う、くそう・・」
女隊長の吐息が鼻にかかる。
甘いワインの香りがした。
それは彼女を恍惚とさせる秘薬だったのだ。

「私はおまえが欲しかった。だがお前はカテリーナを愛しているといって私を拒否した。邪魔者を消すのが私の流儀。こうなったらカテリーナをデブルスターに襲わせてジュゼッペを私のものにしてやる」

女隊長の赤い爪がジョーのジーンズに触れると腿の内側をカリカリと掻いた。
それがジョー自身を微妙に刺激した。

「ギャラクターを抜けたがっていたデブルスターに友人でもあったカテリーナをるように命じたのさ。成功すれば自由の身だといってね」
女隊長はジョーのベルトのバックルを緩めた。
「だがお前はカテリーナが撃たれるのを見て護身用の拳銃を自分に突き付けてしまった!裏切り者としてカテリーナを処刑してお前は私と一緒になるのではなかったのか!?」

「おめぇみたいなやつと一緒になってたまるかよ」
ジョーは女隊長の顔に向かってつばを吐いた。
「くそう、ジュゼッペ。おぼえてるがいい。息子は殺さずにおこうと思っていたが・・。まぁいいさ、これで”カッツェ”が一家の皆殺しを市長に命令するだろう。既に『こと』はほとんど終わっているがね」

ジョーは両親が殺された本当の理由を知った。

 男の本能で身体が熱くなっているが、ジョーの頭の片隅に冷めたところがあった。
左足にかかっている足かせが甘いのだ。
靴に半分かかっている。靴を脱げば足が抜けるだろう。

押し寄せる快感を懸命に振り払いながら、ジョーは機会をうかがっていた。筋弛緩剤の影響はもうほとんど消えている。
チャンスは一度だけだ。ジョーは冷静に「その時」が来るのを待っていた。
(もう少しだ)

 しかし再び女隊長はジョーの筋肉質の背中に腕を回すとぴったりと身体を寄せ、のど仏の下をねっちりとした口唇で強く吸った。
拒否する感情が強くなればなるほど甘美な快感が頭のてっぺんに押し寄せる。
皮膚感覚も敏感になっているのか?女隊長の露わになっている乳房の先が固くなっているのがTシャツ越しでもわかる。
「っふ・・くっ・・くそ・・う・・うっ!」

背中にちくりと痛みが走った。
「ふふふ・・コンドルのジョー、お遊びはここまでだよ。今、お前の身体に特別製の自白剤をたっぷりと入れてやったからねぇ。じきに科学忍者隊の秘密を全部私に話すことになるさ。クロスカラコルムに着いたらゆっくり聞いてあげるからね」

ニヤリと冷たい微笑みを浮かべた女隊長はカラになった注射器をジョーの目の前にかざして見せた

(今だ!)
ジョーは思い切り女隊長の腹を蹴った。
「カッツェ、死ねぇー!!」

「ぐぅえぇえぇっぇぇえっ・・!」

気味の悪い叫び声を発し、その口から泡を吐きながら女隊長は壁に向かって真っすぐ吹き飛んでいった。
そしてジョーの目論見どおりに配電制御盤に思い切りぶち当たったのだ。

バシッ!と閃光が走り大きく乾いた音がすると女隊長は配電制御盤もろとも花火に包まれてショートした。
「ぎゃぁああぁあぁああ!」
女隊長の悲鳴が合図のようになってジョーを縛り付けていた手かせ足かせが外れた。

女隊長は配電制御盤に貼り付いたままでシュウシュウと音を立てている。

「カッツェさま、どうしました!?」
チーフらが部屋へと入ってきた。
壊れた配電制御盤はジョーを自由の身にしたが、同時にこの部屋の鍵も外したのだ。
ジョーには女隊長の生死を確かめる余裕はなかった。
脱げた靴を履き直しズボンのベルトを締めなおすと一目散に出口と思われるハッチに向かって走り出した。
「コンドルのジョーが逃げたぞ~!」
運よくハッチのロックも解除されていた。

ジョーはその重い扉を開けると外へ飛び出した
「うわぁーーー!!」

「ああっ、飛び降りやがった。」
「あいつ、ここが空の上だって知らなかったんじゃないですかね。チーフ」
「どうかな。確実なのは俺の隊長昇格がパーになったのとあいつがあと数秒で死ぬことだ」

「バード・ゴー!」
ジョーは3,600フルメガヘルツの虹光に包まれ、コンドルの翼を広げ地上へ降り立った。
だが、まためまいに襲われてしまった。

そして女隊長に打たれたあの強力な自白剤が効き始めていた--------

(おわり)

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があわいこ
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