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ジェラード

 ジョーはまだ隣りで寝息を立てている
キョーコはそっとベッドを抜け出してトレーラーの奥にあるキッチンへ向かうとクーラーボックスを開けた。
昨夕、コンビニでいろいろ買い込んだ時に二人の故郷の名前が付いたジェラードを見つけてここにしまっておいたのだ。
 カップの蓋を取ると何とも言えないレモンの良い香りがしてキョーコは幼い頃を過ごした自宅の庭をふっと思い出した

その時だ。
思いがけず後ろから抱きつかれた。

「あ」

落としそうになったジェラードのカップと右手に持っていたスプーンを奪われた。
「抜けがけは許せねぇな」

そう言うとジョーはキョーコの頭の上でパクリとジェラードを口へ運んだ
「あーん、私にも・・」
腕を上に伸ばしたキョーコの身体からシーツが落ちた

「そんな格好でジェラードを食ったら風邪ひくぜ」
ジョーのふたくち目の言葉だ
「ジョーだって同じ格好じゃない!」
「俺は日ごろから鍛えているから大丈夫さ」
ジョーの口角が得意げに上がる。

だが次の瞬間
「はーっくしょん!」

ジョーはくしゃみをした。
「ほら、ごらんなさい」
シーツを巻き直したキョーコはジョーからカップを奪い返すとゆっくりとジェラードをほおばった。
「あー、酸っぱい。でも美味しい!」

(おかしいな。急に鼻がムズムズしたぞ)
「キョーコ、おめぇ、まさかまた何かしやがったか?」

 キョーコはそれには答えずにスプーンに乗せたジェラードをジョーの口元へ近づけた
「はい、あーん」
ジョーはスプーンに顔を近づけたがそれを咥えるべき口唇であっという間にキョーコの口唇を奪った

「ジョー・・」
「へんな小細工しやがって」

フフッとキョーコが微笑んだ
「なんだよ」
「レモンの味がした・・」
「おめぇもな」

それから二人は食べかけのジェラードが溶けるのも構わず再びベッドへ潜り込んだのだった


(おしまい)

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奇妙な落書き

南部博士は別荘のとある一室のドアの前にいた。
長年使っていなかったその部屋の整理をする決心をしたのだ。

 あれからもう何年になるのだろう。そう、忍者隊としての訓練が本格的に始まった頃だったか、彼はこの部屋を出て一人暮らしをしたいと言い出した。
健が父親の遺した飛行場へと引っ越したことも影響したのだろうか?ある日突然、庭で育てていた草花もそのままにして彼はこの部屋を出ていったのだ。

 その後、レース仲間から安く譲ってもらったというトレーラーハウスを住処にしたと事務的な口調で報告を受けた。
この部屋から独り立ちしていく決心が鈍ると思ったのだろうか、いつにも増してぶっきらぼうな物言いだったのを覚えている。

 あの日、BC島から病院へ直行して退院してからはこの部屋が自分の家だと言って育ってきた。
そういえば、学校へは行きたくないと言うのでISOの職員を家庭教師がわりにしてこの国の言葉を習得したのもこの部屋だった。
ここは彼の教室でもあったわけだ・・

 部屋のドアを開けると自動車用オイルの匂いがしたように感じたのは気のせいか?
カーテンを開けると柔らかい春の日差しが部屋いっぱいに差し込んだ。
そのとき古い衣類や机があるだけのガランとして殺風景なその部屋の壁に博士は奇妙な落書きを見つけた。


「え、り、・・(点々)、め、の、れ、アルファ、づ、イー、いち?」


何かの暗号だろうか?
「いや、これは・・!」

博士はそのたどたどしい「文字」を指でなぞった。
それはもう帰っては来ないあの子が書いたものに違いなかった。

「ジョー、こんなところに自分のコードネームを書く奴がいるか・・下手くそで間違いもある・・」
 博士はそう言いながらもう一度あの子が遺していった幼い文字の名前を慈しむようにそっと撫でると胸にこみ上げてくる熱いものを抑えることができずにひとり嗚咽を漏らすのだった。


(おしまい)



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ジョージ浅倉の息子F

ジョーはISOの特別研究室の診療台に横になっていた。
「もう、いいんです…。これでオレも親父やお袋のところへ逝(い)ける…。」
南部長官にジョーがそうボソリとつぶやいた時だった。
部屋のインターホンが鳴り、再三のギャラクター出現を告げた。

「!!」

 南部長官がちょっと目を離したすきにジョーは部屋を飛び出すとガッチャマン基地へと向かって行った。
「ジョー・・」
長官の脳裏には頭の精密検査をすると言ったのに一人クロスカラコルムへと向かったあの日のジョーの姿が甦っていた。
そしてジョーが残して行った金色のペンダントを拾い上げてハッとした。
表側はドッグタグになっていたが裏面を見るとそこには小さく”Love Forever J&K”と印されていた。
「いつの間に…」
長官はある一つのことを決心して地下3階にある関係者もほとんど知らない「実験室」へと降りて行った。
そのぶ厚い扉の向こうに冷凍睡眠装置がある。
そう。そこにはキョーコが眠っているのだ。

 「キョーコ、目を覚ましてくれ」
長官は心の中でそっとつぶやきながら冷凍睡眠装置のスイッチを解除へと切り替えた。
そして強化プラスチック製のカプセルのふたを開けるとその中で眠っているキョーコのまだ少し冷たい頬に手をあてた。

キョーコの長いまつげがわずかに動くとエメラルド色の瞳がかすかに開いた。

「パパ、おはよう。」
「おはよう、キョーコ。」
長官は何から言えばよいかと、言葉を探した。
「あ。待って、パパ。わたし読めると思うわ。」
「キョーコ・・。」
キョーコは透明カプセルから上半身を起こして目を閉じ、長官の意識の中へと入っていった。

 「パパ・・。」
閉じられたキョーコの目から涙があふれた。
「総裁Xは滅びたのね。」
「あぁ、だがしかし・・」
「そして・・ジョーが・・」
「キョーコ?」
キョーコは大きく息を吸ってそれをゆっくり吐き出しながら答えた
「でも、ジョーが生きていてくれて・・。私やっぱりうれしいわ。パパ。」
キョーコが両手をのばしてきた。
長官はそっとキョーコをハグした。
「ジョーにジュニアを会わせてやりたかったな、キョーコ。」
キョーコは長官の胸に顔をうずめたままうなずいた。
「あの人の照れた顔が見たかったわ。」
(あの人・・そうか、キョーコはジョーをそう呼ぶのか・・)
「ジョーが今・・」
「うん、また飛び出していっちゃったのね。変わってないんだから。」
そう言ってクスリとほほ笑むキョーコに長官は少しだけホッとしていた。

あの日・・そう、ジョーが南部博士の別荘の窓から飛び出して(今から思えば)クロスカラコルムへ向かったあの日。

 ジョーが去っていった後もしばらく窓辺で舞い上がったままの砂煙を見つめていた南部博士へキョーコから電話があった。
急にアメリス国へ帰ることになったのを詫びるものだったが、少しだけキョーコの話し方にぎこちなさを感じた博士はジョーがどこへ行ったか心当たりはないか尋ねた。
だが、彼女は何もわからないと答えた。

そしてこう言ってのけた
「パパ、ジョーのことは放っておいても大丈夫よ。私はジョーを信じている。パパもそうでしょう?彼は今まで何度もアブナイ目に遭いながらも何とか切り抜けて来たじゃない?」
そして電話の向こうで笑った。
今にして思えばアレはキョーコの芝居だったのだ。ジョーを一人でクロスカラコルムへ行かせるための。
キョーコには見えていたに違いない。
ジョーが一人でギャラクター本部へ向わなければ地球が救われないということが。
そしてそれはたった一人の愛する人を喪なうことになることも。
「パパ、今は全人類のことを考えなくては・・」
今から思うとあの時のキョーコの声はかすかに震えていた・・

キョーコはどんな気持ちであの日、ジョーをクロスカラコルムへ送りだしたのだろう?
南部長官はそれを考えるといまでも胸が張り裂けそうになるのだった。

 「パパ、私に何か用事があるんでしょう?」
キョーコの声に、ハッと我に帰った南部長官はカプセルからキョーコを抱き上げるとその反対側に置いてあるカウチに座らせた。
そして二人はすぐさまジョーのブラックボックスの解析にとりかかった。


 ガッチャ・スパルタンが機首をガッチャマン基地へと向けたという連絡が入り、南部長官はモニターのスイッチを入れた。
「諸君。たった今、ジョーの体内にあるブラックボックスの解明ができた。したがってエネルギーの注入方法もわかった。大至急ジョーを私のところへ連れてくるのだ。」

長官は諸君の「ラジャー」を聞き終わるか終らないうちにスイッチを切ると、急いでキョーコがいる実験室へ再び戻っていった。

「キョーコ、すまなかった。起きてすぐに無理をさせたね。」
キョーコは少し疲れた様子でカウチに横になっていた。
「いいのよ、パパ。パンドラ博士は素敵な人ね。」
「そうかい?キョーコには姿も見えたのだね。」

「あの時から…」
南部長官は言葉をつなげようとしてやめた。
だがすでにそれはキョーコに読まれていた。
「えぇ、パパ。ジョーとはあの日以来会っていないわ。」
「今度ガッチャマン基地に来るといい。」

「でも…」
「何をためらっているんだね?キョーコらしくないぞ。」
「…。」
キョーコはカウチから起きあがったが、目を伏せてうつむている。
長官はやれやれという顔でキョーコから少し離れて立つと、息を少し吸って事務的な口調でこういった。

「では、君の上司として命令する。国際科学技術庁付属脳科学研究所職員南部響子くんは私が次回ガッチャマン基地を訪れる6月30日・・来週の水曜日だ・・15時ちょうどに同基地へ赴くように。いいね。」

「パパ・・。」
キョーコが長官を見上げる
「不満かね?」
「いいえ、わかりました。南部長官。」
キョーコは立ち上がった。
二人は揃って地下3階から地上へと上がっていった。



そしてその日は来た。

「諸君、今日集まってもらったのは他でもない。響子のことは皆もよく知っていたな。」
南部長官が諸君に向かってキョーコを紹介した。

 キョーコは忍者隊の素顔を知っている数少ない存在だ。
彼女には隠してもわかってしまうだろうが・・

「キョーちゃん!」
「キョ~コ~・・」
「久しぶりじゃのう」
「キョー姉ちゃん・・」
と、それぞれに挨拶をかわすのだったが、南部長官はあわてていた。
「ジョーはどうしたね?姿が見えないようだが。」

キョーコは恥ずかしそうに微笑むと小さな声で
「そのドアの向こうに・・。」と囁いた。

「何をやってるんだ?ジョーのヤツ…。」
健は自動ドアのスイッチを強制解放へと入れ替えた。

「ジョー…」
健がため息と一緒に言葉を吐いたその先にバードスーツに身を包んだジョーがいた。

「なんじゃ?ジョーのやつ、年甲斐もなく照れおって」と、リュウが誰よりも素早くジョーの後ろへ回り込むとその背中を押した。
「い、いや・・オレは・・」
ジョーは固くなったまま力自慢のリュウに部屋の中へと押し込まれた
「あれ?今度はキョー姉ちゃんがいないぞ」と、甚平。
「長官の後ろだわ」ジュンが気づいた。
「なんじゃろかい?この二人は」
「久しぶりのご対面なんだ。二人きりにしてやろうぜ」
珍しくケンが気を利かせる。
「お、おい。みんなここにいてくれよ~」
これまた珍しくジョーが気の弱い声を出した。
「さ~、行こう行こう」
「ジンペイ、インベーダーゲームでもやろうかの?」
「へへんだ。リュウには負けないぞ。」
「あ、南部長官は?」と、ジュン。
「コホン、ここは私の執務室だ。が、まぁいいか。キョーコ、ゆっくりしていきたまえ。」

とうとう南部長官の広々とした執務室にはジョーとキョーコの二人だけが残されてしまった。

「ちぇ、みんないなくなりやがって」
そう言いながらもジョーはキョーコの前でバードスタイルを解いた。

「ジョー・・」
「へへっ」
南部長官の大きなデスクを挟んで二人は久々に顔を合わせた。

「変わらねえな。おめぇも。まさかサイボーグになっちまったんじゃねぇだろうな」
「ジョーってばもう・・」
「それだ、そのふくっれ面(つら)・・変わらねえな」

空港で別れた時と同じジョーの不敵な笑みがそこにあった。

 「ジョー、わたし・・」
そう言いかけたキョーコをジョーは片手をあげて制した。
「いや、オレから言わせてくれ、キョーコ」
ジョーの灰青色の瞳が大きく開いてキョーコを見つめていた。
強い意志が現れたジョーの顔だ。
変わっていない。ジョーは何も変わってはいない。
キョーコはそう自分に言い聞かせた。

「あの日・・おめぇと空港で別れてから、乗り込んだ飛行機の中でもう一度チケットを確認したんだ。そしたらよ・・」
ジョーは長官のデスクに腰をちょっとのせるとフッと息を吐いた。
「あれ、往復航空券だったな」

「見たんだ・・」
なぜかちょっと困ったような顔をしてキョーコはそういうと長官のデスクに腰かけて足をぶらぶらさせながら続けた。
「帰って来るのがわかっていたわけじゃないの。アレは私の透視ではなくてただの願いだったのよ」
「あぁ。だが、どちらにしてもアレを見た時に何か勇気がわいてきたんだ。もしかしたら生きて帰れるんじゃねえか?って思ってよ」
ジョーはデスクにもたれるように腰を預けたまま腕組をすると脚を組み替えた。

「ジョー・・」
意を決したかのようにキョーコが口を開いた。
「ホントは、本当はね・・ジョーをクロスカラコルムへやらせたくなかったの。でも・・」
キョーコのエメラルド色の瞳から涙があふれた。
「でも、ジョーのことを引き止めたら地球は消滅する運命にある・・そう感じたの。」

 ジョーの顔がフッと和らいだ。
そしてキョーコのすぐ隣りまで来るとそこに腰を下ろした。
キョーコはうつむいたままだった。
「ジョーを喪うくらいなら地球が滅びたって構わないって本気で思った・・でもやっぱり送り出さなくちゃならないって・・」
「いいんだ、もう。わかってるさ・・わかっているさ、そんなことくれぇ。」

 ジョーは落ちた涙でぬれているキョーコの小さな膝を見つめながらそう言うと、右手でキョーコの髪に触れた。
「泣くなよ、キョーコ。オレは自分で選んだんだぜ。オレの運命をよ。たとえあの時おめぇが止めてもオレはクロスカラコルムへ行っていたぜ。どんな手段を使ってもな」
そして小さくうなづくキョーコの頭をくしゃっと撫でた。
「だからもう泣くな。」

「ジョー・・。私を許して、許してください・・」
キョーコは一日として忘れたことが無かったジョーの腕にしがみつくようにして嗚咽を漏らした。
「しょうがねぇなぁ」
ジョーはキョーコの小さな肩を抱いた。
キョーコはジョーの胸にほほを押し当てた。
(変わっていない。ジョーは何も変わってはいない・・)

「変わっちまったろ?オレ・・」
キョーコは自分の心が読まれたのかと思ってハッとして顔を上げた。
すぐ目の前に灰青色の瞳が自分をじっと見つめていた
その瞳をみつめながらキョーコは小さく首を振った。

「フッ・・」
ジョーの瞳の奥に深い悲しみが見えた。
その目がキョーコをじっと見つめていた。
「許してくれと言ったな。これが俺の答えだぜ」
ジョーは少し乱暴にキョーコの顔を両手で包み込むと涙でぬれたその小さなほほを親指で拭った。
キョーコはエメラルドグリーンの瞳を閉じる。
ジョーの懐かしい唇がほんの少しキョーコの唇に触れた・・その時、

「あ・・」

キョーコの閉じられた目が再び開いた。
「パパに内線電話・・じさまからだわ」
「え?」
次の瞬間、南部長官のデスクの上にある電話が鳴った。

「ジョー、電話に出て。私パパを呼んで来るわ。」
二人の距離があっという間に離れてしまう。
「あ、あぁ・・」
「また来るわね」
そう言ってキョーコは長官の執務室から去っていった。

 電話がかかって来ることも南部長官がどこにいるのかもわかるのか?
超能力っていうのは便利なのか不便なのかわからねぇな。
そう独り言を言いながら電話に出るジョーだった。


 キョーコがガッチャマン基地を訪ねた日から随分長い時が過ぎていた。
すぐ帰ると言っていたキョーコだったが、その後再び冷凍睡眠装置の中に入ってしまっていた。



 「くそう!・・くそうっ!」
ジョーの全身から怒りのオーラがあふれていた。
「キョーコ!どこへ行きやがった!出て来い!」

 ジョーはISOの地下3階へ向かって階段を駆け降りた。
「ここだな」
分厚い扉に付いている2つのドアノブを両手で握りしめると思い切り力を入れてそれを回した。

ガ・・ギリギリッ・・

 金属が擦れ合う酷い音がして扉の一部が飴細工のようにグニャリと曲がり隙間があいた。
そして今度はその扉を思い切り蹴った。
一度、二度、三度・・

グゥワ~ン!
ついにその扉が開いた。

「ジョー、やめろ!」
健がジョーのあとを追ってきた。
だが、コンドルが獲物を狙う時のようにジョーの目にはキョーコが眠っている冷凍睡眠装置しか映っていない。

「キョーコ!今日という今日は許さねぇぞ!」
ジョーは強化プラスチック製の睡眠カプセルに掴みかかった。

「やめろ、ジョー。キョーちゃんは長官が死ぬことを知っていたはずだ。・・うわっ!」
ジョーをはがいじめにして止めようとする健だったがだが造作なく振り切られてしまった。

 ジョーはカッと目を見開いたまま、再びカプセルに手を掛けた。
「知っていたなら、余計に許せねぇ。こんなところでスヤスヤ眠りやがって!!」
バリバリッ・・!!と大きな音がしてカプセルのふたがこじ開けられた。

シュウシュウと音を立てて白い煙が上がる。
「だめだ、ジョー!急に温度が上がってしまう!」
健が叫んだ時だった。
キョーコの目があいた。

「ジョー、乱暴はやめて・・」
「なんだとぅー!」

 ジョーはまだ横になっているキョーコの胸ぐらをつかむと、一気にカプセルから引き出した。
「いや・・」
キョーコの顔が苦悶に歪む。

「てめぇ、南部長官が死ぬのがわかっていながら・・!バカヤロウ!」
ジョーは平手ではあったが、キョーコのその頬を思い切りはたいた。
「あ・・」

 キョーコの身体が部屋の隅まで飛んだ。
「う・・」
「キョーちゃん!」
健がキョーコを助け起こした。
が、赤くほほを腫らしたキョーコは気を失っていた。

「ジョー!貴様、自分がサイボーグだっていうことを忘れたのか!?」
健が青く澄んだ、だが怒りのこもった瞳でジョーをにらみ返した。
「く、くそう・・」
ジョーは歯ぎしりをする。

 健はキョーコの口元にうっすら付いている血をそっとぬぐいながら落ち着いた口調でつぶやくように言った。
「ジョー、オマエは知らんだろうが、キョーちゃんは悲しみが深くなると能力(ちから)が暴走してしまうんだ。」
「なに?!」
ジョーの顔色が変わる。
「だからきっと長官が死ぬとわかった時に自らこの装置に入ったんだろう。」
「うっ」
静かな健の物言いにジョーは言葉に詰まる。
「オマエが生死不明な上にジュニアがキョーちゃんの身代わりになって死んだ時もそうだった。あの時は長官がここに入れたんだ。」

 冷凍睡眠装置からはまだパチパチと火花が散っていた。
そのショートした黒い煙とカプセルから立ち昇る白い煙が部屋中に広がってきた。

「キ、キョーコ・・。すまなかった。」
ジョーは部屋の隅に横たわっているキョーコに近づこうとした。
が、その前に健が立ちふさがった。

「くっ・・」
「オレが運ぶ」
「なんだと・・?」
健は軽々とキョーコを抱き上げるとジョーをいなしてめちゃくちゃに破壊された出入り口のドアに向かった。
「医務室だ。行くぞ、ジョー。」
煙の向こうにすっくと立つ健はお姫様を抱いた王子のようなシルエットだった。
その姿を見てジョーの胸には嫉妬と後悔の念が強くこみあげてきた。

「くそう!」
空になったカプセルをジョーは思い切り殴りつけた。

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夜の坂道

「絶対に離さないでね」
中古のママチャリにまたがった淳はまっすぐ前を見据えてはいたが思いっきり肩に力が入っているのが薄暗い街灯の下でも見てとれる。
18回目の誕生日までに自転車に乗れるようになるんだと1週間前から特訓してきたのだが、もうすぐその誕生日も終わる。
一緒に誕生日を祝おうと淳の家に来たジョーだったが、一緒に映画を見に行くという約束も振られてとうとうこうして一日中自転車の後ろを持たされていた。
「わかってるって、淳。行くぜ!」
そう言うとジョーは夜の坂道の上から淳が乗っている自転車を思い切り押した。

「きゃぁあああぁぁあああ~~~~!!!」

淳の雄叫びとともにママチャリが夜の闇の中に消えて行った。
「じゅ~~~~~ん!!」
さすがのジョーも心配になったのかものすごいスピードでジュンの後を追った。
「ど、何処だ?淳?!」
坂を下りきったT字路のつきあたりでジョーはあたりを見回した。
「ここよ、ジョー」
淳は突きあたりの生け垣の中にママチャリとともに「埋まって」いた。
「やったな、淳。」
右手を差し出すジョー。
「ええ、やったわ。ジョー」
その手をとる淳。

淳はその腕の中で灰青色の瞳が自分だけを見つめているのに気づいた。
そして次の瞬間、二人の唇が重なったのだった。

「お誕生日おめでとう、淳・・」

(おわり)

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一日遅れのバレンタインデー

「ちぇ。何だってあんなに楽しそうなんだ?ジュンのやつ。」
臨時休業の貼り紙がしてあるスナックジュンの店内には先ほどからチョコレートのいい香りが立ち込めていた。
カウンターの中ではジュンが甚平にアドバイスされながらチョコレートを湯煎にかけているのだ。

「おねえちゃん、もう少し手早くかき混ぜないと熱くなりすぎるぜ。」
「うるさいわね、甚平。早くしたら回りに飛び散ってしまうじゃない?!」
「不器用だな、へったくそ!」
「なんですって!?」
「あー、もういいから。こんどは型に流し込もうぜ。」
「んっ、もう~っ。」
いつもながらの姉弟ゲンカをカウンターに座って見ている健だったがちょっと不機嫌なのにはわけがあった。

「墓参りにチョコレートなんて聞いた覚えが無いぜ。」

ジョーが去ってから甚平はあのブーメランをお守り代わりにずっと持っていた。
だが、久々に南部博士がBC島での学会に出席し、その後ジョーの両親のお墓参りをすることを知るとこのブーメランを一緒に埋葬できないかと聞いてきたのだった。
それでいいのかと尋ねる博士に甚平はこう答えた。
「オレ、もう子供じゃないよ。」

「なら、どうだ甚平。一緒にBC島へ行かないかね?」
「あ~、でもスナックジュンは・・?」
「ジュンも一緒に、店は臨時休業にすればいい。」
「わ~い、博士。さっそくおねえちゃんに言ってみるよ。」

こうして話はトントン拍子に進んだ。
学会の終わる日が2月13日ということだったのでチョコを持っていき、14日のバレンタインデーにお墓参りをしようということになったのだった。

「ケン、ケンってば。」
考え事をしていた健はジュンが話しかけているのにやっと気がついた。
「ああ・・。」
「『ああ』じゃないでしょ?ケン。ケンは行かないの?BC島。」

(おまえがジョーの墓にチョコをお供えしてるとこなんか見たくないぜ。)
そう、健は心の中でつぶやいた。だが、
「あぁ、オレちょっと用事を思い出した。またな。」
そう言って健はスナックジュンを後にした。

「変なケン・・・。」
その後姿を見送ると、指にくっついたチョコを味見しながらジュンはつぶやいた。


とうとう健はBC島へ行かなかった。
臨時のエアメールを届ける用事ができたとみえみえのウソをついて見送りにも来なかったのだ。
父親と遠洋漁業に出かけている竜からさえみんなによろしくとの電報が届いたというのに。


15日の夜になってようやく健は自分の飛行場へ帰ってきた。
愛機のそばに誰かが立っているような気がして、目を凝らして見たが誰もいなかった。
「オヤジ?・・今、お参りしてきたところじゃないか・・。」

そう独り言をいいながら、いつものようにドアが開けっ放しになっている部屋へ入っていった。
すると薄明かりの中、テーブルの上に何かが置いてあるのがわかった。
急いで明かりをつけてみると、それはピンク色のリボンがかかった小さな箱だった。
添えてある手紙を開くとこう書いてあった。

『ケン、おかえりなさい。
BC島は暖かくて本当にいいところだったわ。
あの教会もアラン神父の教え子たちがりっぱに建て直して美しく生まれ変わっていました。
あの忌まわしい出来事がウソのようです。

この包みはジョーのお墓参りの時にケンに渡そうと思っていたけれど、できなくて残念でした。
2つともジョーにあげてこようかと思ったけど、甚平が「ど~せアニキのとこはカギなんかかけちゃいないだろうから置いてきちゃいなよ。」
というのでそうすることにしました。
ジュンより』

健がフフンと鼻先で笑い、その包みを開けようとしたときだった。
どこからともなく飛んできたアメリカンクラッカーが健の手首に絡みついた。
そして次の瞬間今度はヨーヨーがその包みを健の手から奪っていった。

「へへんだ。アニキ、油断したね。」
開いたままだったドアのところにいつ来たのか甚平とジュンがニッコリ笑って立っていた。
「おねえちゃん、なにやってんだよ。もう一回ちゃ~んと渡すんだろ。」
「え?も、もういいわよ。一日過ぎちゃったし・・。」
甚平が今度は健に向かって言った。
「アニキもアニキだぜ。なんでこういう大事な時にヘソを曲げるかねぇ?」
「オ、オレは・・。」
(オレの分のチョコもあるなら何でそう言ってくれなかった?)
そう言おうとしたが健は言葉を飲み込んだ。

甚平はズボンの脇のジッパーをあけるとクラッカーを丁寧にしまいながら言った。
「オ、オレはさ、帰るよ。しばらく店を休んじまったろ。明日の仕込みをしなくちゃ。」
そしてさらに続けた。
「じゃ、アニキ。おねえちゃんをよろしくな。おねえちゃん、かえって邪魔になるから店には帰ってこなくていいぜ。」
「まっ、生意気言って。甚平ったら・・。」
ジュンはそう言って去っていく甚平の後姿を見送ったが、追いかけていくことはせずに健のほうへ向きなおると包みをヨーヨーの吸盤からはずした。
そして、それをまっすぐに健に差し出したのだ。

しばらくして、健の部屋の明かりは消えた。

その様子を物かげから見ていた甚平はジョーの遺言を思い出していた。
『・・・ジュン、健と仲良くな。』

「まったく人騒がせだよ。あの二人は。」そうつぶやくと甚平はスナックジュンへと帰っていったのだった。

(終わり)

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