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があわいこの文字置場

ジョージ浅倉の息子F

ジョーはISOの特別研究室の診療台に横になっていた。
「もう、いいんです…。これでオレも親父やお袋のところへ逝(い)ける…。」
南部長官にジョーがそうボソリとつぶやいた時だった。
部屋のインターホンが鳴り、再三のギャラクター出現を告げた。

「!!」

 南部長官がちょっと目を離したすきにジョーは部屋を飛び出すとガッチャマン基地へと向かって行った。
「ジョー・・」
長官の脳裏には頭の精密検査をすると言ったのに一人クロスカラコルムへと向かったあの日のジョーの姿が甦っていた。
そしてジョーが残して行った金色のペンダントを拾い上げてハッとした。
表側はドッグタグになっていたが裏面を見るとそこには小さく”Love Forever J&K”と印されていた。
「いつの間に…」
長官はある一つのことを決心して地下3階にある関係者もほとんど知らない「実験室」へと降りて行った。
そのぶ厚い扉の向こうに冷凍睡眠装置がある。
そう。そこにはキョーコが眠っているのだ。

 「キョーコ、目を覚ましてくれ」
長官は心の中でそっとつぶやきながら冷凍睡眠装置のスイッチを解除へと切り替えた。
そして強化プラスチック製のカプセルのふたを開けるとその中で眠っているキョーコのまだ少し冷たい頬に手をあてた。

キョーコの長いまつげがわずかに動くとエメラルド色の瞳がかすかに開いた。

「パパ、おはよう。」
「おはよう、キョーコ。」
長官は何から言えばよいかと、言葉を探した。
「あ。待って、パパ。わたし読めると思うわ。」
「キョーコ・・。」
キョーコは透明カプセルから上半身を起こして目を閉じ、長官の意識の中へと入っていった。

 「パパ・・。」
閉じられたキョーコの目から涙があふれた。
「総裁Xは滅びたのね。」
「あぁ、だがしかし・・」
「そして・・ジョーが・・」
「キョーコ?」
キョーコは大きく息を吸ってそれをゆっくり吐き出しながら答えた
「でも、ジョーが生きていてくれて・・。私やっぱりうれしいわ。パパ。」
キョーコが両手をのばしてきた。
長官はそっとキョーコをハグした。
「ジョーにジュニアを会わせてやりたかったな、キョーコ。」
キョーコは長官の胸に顔をうずめたままうなずいた。
「あの人の照れた顔が見たかったわ。」
(あの人・・そうか、キョーコはジョーをそう呼ぶのか・・)
「ジョーが今・・」
「うん、また飛び出していっちゃったのね。変わってないんだから。」
そう言ってクスリとほほ笑むキョーコに長官は少しだけホッとしていた。

あの日・・そう、ジョーが南部博士の別荘の窓から飛び出して(今から思えば)クロスカラコルムへ向かったあの日。

 ジョーが去っていった後もしばらく窓辺で舞い上がったままの砂煙を見つめていた南部博士へキョーコから電話があった。
急にアメリス国へ帰ることになったのを詫びるものだったが、少しだけキョーコの話し方にぎこちなさを感じた博士はジョーがどこへ行ったか心当たりはないか尋ねた。
だが、彼女は何もわからないと答えた。

そしてこう言ってのけた
「パパ、ジョーのことは放っておいても大丈夫よ。私はジョーを信じている。パパもそうでしょう?彼は今まで何度もアブナイ目に遭いながらも何とか切り抜けて来たじゃない?」
そして電話の向こうで笑った。
今にして思えばアレはキョーコの芝居だったのだ。ジョーを一人でクロスカラコルムへ行かせるための。
キョーコには見えていたに違いない。
ジョーが一人でギャラクター本部へ向わなければ地球が救われないということが。
そしてそれはたった一人の愛する人を喪なうことになることも。
「パパ、今は全人類のことを考えなくては・・」
今から思うとあの時のキョーコの声はかすかに震えていた・・

キョーコはどんな気持ちであの日、ジョーをクロスカラコルムへ送りだしたのだろう?
南部長官はそれを考えるといまでも胸が張り裂けそうになるのだった。

 「パパ、私に何か用事があるんでしょう?」
キョーコの声に、ハッと我に帰った南部長官はカプセルからキョーコを抱き上げるとその反対側に置いてあるカウチに座らせた。
そして二人はすぐさまジョーのブラックボックスの解析にとりかかった。


 ガッチャ・スパルタンが機首をガッチャマン基地へと向けたという連絡が入り、南部長官はモニターのスイッチを入れた。
「諸君。たった今、ジョーの体内にあるブラックボックスの解明ができた。したがってエネルギーの注入方法もわかった。大至急ジョーを私のところへ連れてくるのだ。」

長官は諸君の「ラジャー」を聞き終わるか終らないうちにスイッチを切ると、急いでキョーコがいる実験室へ再び戻っていった。

「キョーコ、すまなかった。起きてすぐに無理をさせたね。」
キョーコは少し疲れた様子でカウチに横になっていた。
「いいのよ、パパ。パンドラ博士は素敵な人ね。」
「そうかい?キョーコには姿も見えたのだね。」

「あの時から…」
南部長官は言葉をつなげようとしてやめた。
だがすでにそれはキョーコに読まれていた。
「えぇ、パパ。ジョーとはあの日以来会っていないわ。」
「今度ガッチャマン基地に来るといい。」

「でも…」
「何をためらっているんだね?キョーコらしくないぞ。」
「…。」
キョーコはカウチから起きあがったが、目を伏せてうつむている。
長官はやれやれという顔でキョーコから少し離れて立つと、息を少し吸って事務的な口調でこういった。

「では、君の上司として命令する。国際科学技術庁付属脳科学研究所職員南部響子くんは私が次回ガッチャマン基地を訪れる6月30日・・来週の水曜日だ・・15時ちょうどに同基地へ赴くように。いいね。」

「パパ・・。」
キョーコが長官を見上げる
「不満かね?」
「いいえ、わかりました。南部長官。」
キョーコは立ち上がった。
二人は揃って地下3階から地上へと上がっていった。



そしてその日は来た。

「諸君、今日集まってもらったのは他でもない。響子のことは皆もよく知っていたな。」
南部長官が諸君に向かってキョーコを紹介した。

 キョーコは忍者隊の素顔を知っている数少ない存在だ。
彼女には隠してもわかってしまうだろうが・・

「キョーちゃん!」
「キョ~コ~・・」
「久しぶりじゃのう」
「キョー姉ちゃん・・」
と、それぞれに挨拶をかわすのだったが、南部長官はあわてていた。
「ジョーはどうしたね?姿が見えないようだが。」

キョーコは恥ずかしそうに微笑むと小さな声で
「そのドアの向こうに・・。」と囁いた。

「何をやってるんだ?ジョーのヤツ…。」
健は自動ドアのスイッチを強制解放へと入れ替えた。

「ジョー…」
健がため息と一緒に言葉を吐いたその先にバードスーツに身を包んだジョーがいた。

「なんじゃ?ジョーのやつ、年甲斐もなく照れおって」と、リュウが誰よりも素早くジョーの後ろへ回り込むとその背中を押した。
「い、いや・・オレは・・」
ジョーは固くなったまま力自慢のリュウに部屋の中へと押し込まれた
「あれ?今度はキョー姉ちゃんがいないぞ」と、甚平。
「長官の後ろだわ」ジュンが気づいた。
「なんじゃろかい?この二人は」
「久しぶりのご対面なんだ。二人きりにしてやろうぜ」
珍しくケンが気を利かせる。
「お、おい。みんなここにいてくれよ~」
これまた珍しくジョーが気の弱い声を出した。
「さ~、行こう行こう」
「ジンペイ、インベーダーゲームでもやろうかの?」
「へへんだ。リュウには負けないぞ。」
「あ、南部長官は?」と、ジュン。
「コホン、ここは私の執務室だ。が、まぁいいか。キョーコ、ゆっくりしていきたまえ。」

とうとう南部長官の広々とした執務室にはジョーとキョーコの二人だけが残されてしまった。

「ちぇ、みんないなくなりやがって」
そう言いながらもジョーはキョーコの前でバードスタイルを解いた。

「ジョー・・」
「へへっ」
南部長官の大きなデスクを挟んで二人は久々に顔を合わせた。

「変わらねえな。おめぇも。まさかサイボーグになっちまったんじゃねぇだろうな」
「ジョーってばもう・・」
「それだ、そのふくっれ面(つら)・・変わらねえな」

空港で別れた時と同じジョーの不敵な笑みがそこにあった。

 「ジョー、わたし・・」
そう言いかけたキョーコをジョーは片手をあげて制した。
「いや、オレから言わせてくれ、キョーコ」
ジョーの灰青色の瞳が大きく開いてキョーコを見つめていた。
強い意志が現れたジョーの顔だ。
変わっていない。ジョーは何も変わってはいない。
キョーコはそう自分に言い聞かせた。

「あの日・・おめぇと空港で別れてから、乗り込んだ飛行機の中でもう一度チケットを確認したんだ。そしたらよ・・」
ジョーは長官のデスクに腰をちょっとのせるとフッと息を吐いた。
「あれ、往復航空券だったな」

「見たんだ・・」
なぜかちょっと困ったような顔をしてキョーコはそういうと長官のデスクに腰かけて足をぶらぶらさせながら続けた。
「帰って来るのがわかっていたわけじゃないの。アレは私の透視ではなくてただの願いだったのよ」
「あぁ。だが、どちらにしてもアレを見た時に何か勇気がわいてきたんだ。もしかしたら生きて帰れるんじゃねえか?って思ってよ」
ジョーはデスクにもたれるように腰を預けたまま腕組をすると脚を組み替えた。

「ジョー・・」
意を決したかのようにキョーコが口を開いた。
「ホントは、本当はね・・ジョーをクロスカラコルムへやらせたくなかったの。でも・・」
キョーコのエメラルド色の瞳から涙があふれた。
「でも、ジョーのことを引き止めたら地球は消滅する運命にある・・そう感じたの。」

 ジョーの顔がフッと和らいだ。
そしてキョーコのすぐ隣りまで来るとそこに腰を下ろした。
キョーコはうつむいたままだった。
「ジョーを喪うくらいなら地球が滅びたって構わないって本気で思った・・でもやっぱり送り出さなくちゃならないって・・」
「いいんだ、もう。わかってるさ・・わかっているさ、そんなことくれぇ。」

 ジョーは落ちた涙でぬれているキョーコの小さな膝を見つめながらそう言うと、右手でキョーコの髪に触れた。
「泣くなよ、キョーコ。オレは自分で選んだんだぜ。オレの運命をよ。たとえあの時おめぇが止めてもオレはクロスカラコルムへ行っていたぜ。どんな手段を使ってもな」
そして小さくうなづくキョーコの頭をくしゃっと撫でた。
「だからもう泣くな。」

「ジョー・・。私を許して、許してください・・」
キョーコは一日として忘れたことが無かったジョーの腕にしがみつくようにして嗚咽を漏らした。
「しょうがねぇなぁ」
ジョーはキョーコの小さな肩を抱いた。
キョーコはジョーの胸にほほを押し当てた。
(変わっていない。ジョーは何も変わってはいない・・)

「変わっちまったろ?オレ・・」
キョーコは自分の心が読まれたのかと思ってハッとして顔を上げた。
すぐ目の前に灰青色の瞳が自分をじっと見つめていた
その瞳をみつめながらキョーコは小さく首を振った。

「フッ・・」
ジョーの瞳の奥に深い悲しみが見えた。
その目がキョーコをじっと見つめていた。
「許してくれと言ったな。これが俺の答えだぜ」
ジョーは少し乱暴にキョーコの顔を両手で包み込むと涙でぬれたその小さなほほを親指で拭った。
キョーコはエメラルドグリーンの瞳を閉じる。
ジョーの懐かしい唇がほんの少しキョーコの唇に触れた・・その時、

「あ・・」

キョーコの閉じられた目が再び開いた。
「パパに内線電話・・じさまからだわ」
「え?」
次の瞬間、南部長官のデスクの上にある電話が鳴った。

「ジョー、電話に出て。私パパを呼んで来るわ。」
二人の距離があっという間に離れてしまう。
「あ、あぁ・・」
「また来るわね」
そう言ってキョーコは長官の執務室から去っていった。

 電話がかかって来ることも南部長官がどこにいるのかもわかるのか?
超能力っていうのは便利なのか不便なのかわからねぇな。
そう独り言を言いながら電話に出るジョーだった。


 キョーコがガッチャマン基地を訪ねた日から随分長い時が過ぎていた。
すぐ帰ると言っていたキョーコだったが、その後再び冷凍睡眠装置の中に入ってしまっていた。



 「くそう!・・くそうっ!」
ジョーの全身から怒りのオーラがあふれていた。
「キョーコ!どこへ行きやがった!出て来い!」

 ジョーはISOの地下3階へ向かって階段を駆け降りた。
「ここだな」
分厚い扉に付いている2つのドアノブを両手で握りしめると思い切り力を入れてそれを回した。

ガ・・ギリギリッ・・

 金属が擦れ合う酷い音がして扉の一部が飴細工のようにグニャリと曲がり隙間があいた。
そして今度はその扉を思い切り蹴った。
一度、二度、三度・・

グゥワ~ン!
ついにその扉が開いた。

「ジョー、やめろ!」
健がジョーのあとを追ってきた。
だが、コンドルが獲物を狙う時のようにジョーの目にはキョーコが眠っている冷凍睡眠装置しか映っていない。

「キョーコ!今日という今日は許さねぇぞ!」
ジョーは強化プラスチック製の睡眠カプセルに掴みかかった。

「やめろ、ジョー。キョーちゃんは長官が死ぬことを知っていたはずだ。・・うわっ!」
ジョーをはがいじめにして止めようとする健だったがだが造作なく振り切られてしまった。

 ジョーはカッと目を見開いたまま、再びカプセルに手を掛けた。
「知っていたなら、余計に許せねぇ。こんなところでスヤスヤ眠りやがって!!」
バリバリッ・・!!と大きな音がしてカプセルのふたがこじ開けられた。

シュウシュウと音を立てて白い煙が上がる。
「だめだ、ジョー!急に温度が上がってしまう!」
健が叫んだ時だった。
キョーコの目があいた。

「ジョー、乱暴はやめて・・」
「なんだとぅー!」

 ジョーはまだ横になっているキョーコの胸ぐらをつかむと、一気にカプセルから引き出した。
「いや・・」
キョーコの顔が苦悶に歪む。

「てめぇ、南部長官が死ぬのがわかっていながら・・!バカヤロウ!」
ジョーは平手ではあったが、キョーコのその頬を思い切りはたいた。
「あ・・」

 キョーコの身体が部屋の隅まで飛んだ。
「う・・」
「キョーちゃん!」
健がキョーコを助け起こした。
が、赤くほほを腫らしたキョーコは気を失っていた。

「ジョー!貴様、自分がサイボーグだっていうことを忘れたのか!?」
健が青く澄んだ、だが怒りのこもった瞳でジョーをにらみ返した。
「く、くそう・・」
ジョーは歯ぎしりをする。

 健はキョーコの口元にうっすら付いている血をそっとぬぐいながら落ち着いた口調でつぶやくように言った。
「ジョー、オマエは知らんだろうが、キョーちゃんは悲しみが深くなると能力(ちから)が暴走してしまうんだ。」
「なに?!」
ジョーの顔色が変わる。
「だからきっと長官が死ぬとわかった時に自らこの装置に入ったんだろう。」
「うっ」
静かな健の物言いにジョーは言葉に詰まる。
「オマエが生死不明な上にジュニアがキョーちゃんの身代わりになって死んだ時もそうだった。あの時は長官がここに入れたんだ。」

 冷凍睡眠装置からはまだパチパチと火花が散っていた。
そのショートした黒い煙とカプセルから立ち昇る白い煙が部屋中に広がってきた。

「キ、キョーコ・・。すまなかった。」
ジョーは部屋の隅に横たわっているキョーコに近づこうとした。
が、その前に健が立ちふさがった。

「くっ・・」
「オレが運ぶ」
「なんだと・・?」
健は軽々とキョーコを抱き上げるとジョーをいなしてめちゃくちゃに破壊された出入り口のドアに向かった。
「医務室だ。行くぞ、ジョー。」
煙の向こうにすっくと立つ健はお姫様を抱いた王子のようなシルエットだった。
その姿を見てジョーの胸には嫉妬と後悔の念が強くこみあげてきた。

「くそう!」
空になったカプセルをジョーは思い切り殴りつけた。

 その日の夜、ISO付属病院の廊下を忍び足で歩く影があった。
と、その影はある病室の前で止まり、しばらくそこにとどまっていたが、やがてそのドアをそっと開けた。

「ジョー・・?そろそろ来るころだと思っていたわ。」
独り言のようにキョーコは言うと小さなパイロットランプが点いた。

 ジョーはキョーコが横になっているベッドのわきにある丸椅子に腰かけた。
キョーコは顔の上に乗っていた氷嚢を脇へ寄せるとリモコンを"使わずに"ベッドをリクライニングさせて身体を起こした。

「パパと話していたの・・」
「え?南部長官とか?」
キョーコは軽くうなずいて枕の下に手を入れるとそこから小さなロケットペンダントを出した。
「ジョーのお母さまのペンダントよ。ジョーに返すように言っていたわ」
「オレのおふくろの・・?」
「そうよ。忘れちゃった?あの日、波打ち際へ走って行こうとするあなたを一瞬呼び止めて首から外したこのペンダントをあなたの小さなズボンのポケットに入れたのよ。その後パパが見つけて大切にしまっておいたの」

 ジョーはキョーコからロケットを受け取ったが握りしめたままだった。
「中を見ないの?」
「知っているさ。思いだしたぜ。中には親父とお袋の写真が入っている。結婚式の時のな」
「お母さま、ご自分の運命をわかっていらしたのね」
ジョーはロケットを握っているこぶしをキョーコの前に突き出した。
「おめぇが持っていてくれ。」
「ジョー・・」
「いま顔を思い出しちまったら戦えねえような気がするんだ」
ジョーはキョーコから顔をそむけるようにして低い声でつぶやいた。

「でも、パパ・・いえ南部長官が・・」
なおも食い下がるキョーコに
「いらねぇといったらいらねぇんだ!」
ジョーはロケットを床にたたきつけた。

 それは乾いた音を残して部屋の隅へ転がっていった。
「なにをするの!?」
キョーコはベッドから降りるとロケットを拾い上げた。
「そいつら、ギャラクターだぜ」
ジョーの感情を押し殺したような言葉にキョーコははっとした。
「そう、確かにここに写っている二人はギャラクターだったわ」
「フッ」
キョーコの冷たい言い方にジョーは溜息をもらした。

「でもジュゼッペおじさまは最初ギャラクターとは知らずにこの組織の一員になってしまったのよ」
「なんだって?」
初めて聞く話にジョーはキョーコの横顔をじっと見つめた

「久しぶりに故郷のBC島へ戻って幼なじみのカテリーナおばさまと再会して結婚したの。でも貧乏だったわ。ジュゼッペおじさまは科学者になろうと勉強していたのだけれど、それも上手くいかなかった。カテリーナおばさまのお腹に子供ができたってわかった時に科学者として研究をさせてやるという組織に誘われたの。」
「それがギャラクターだったというわけか」
リクライニングしたベッドに戻ったキョーコは目の前の暗闇をじっと見つめながら話を続ける。

「えぇ。親子三人、何不自由なく暮らせるようにしてやる。だから不老不死の薬を作る研究をするように・・と言われたのよ」
ジョーが投げ捨てたペンダントを今度はキョーコが握りしめていた。キョーコにはペンダントが語りかけているように思えたのだ。

 「その不老不死の試薬が3年くらいしてできたわ。それでテストをしたの。瀕死の状態だった人に注射をして元気にしようとするものだったわ。でも・・」
キョーコは顔を両手で覆うと泣き声で続けた
「それは本当に残酷な実験になってしまった・・」
「残酷な?実験!?」
ジョーは眉間にしわを寄せて声をあげた。

 「それは注射によって一時的には元気になるのだけれど、薬が切れたら前より症状が悪化して苦しみながら死んでいくという薬になっていたの。どこで配合を間違えたのか予想もしなかった結果におじさまは腰が抜けるほど驚いていたわ。・・もしかしたら不老不死の薬なんて最初から作らせるつもりもなくておじさまをワナにはめるつもりだったのかも知れない。どちらにしても、ついにギャラクターはその本性を現したわ。『実験だったとはいえ、お前はすでにもう人を殺していることを忘れるな。一生この組織から抜け出すことはできない。しかしこれからスパイとして極秘の仕事をしてくれるのなら、こんな素晴らしい薬を作ったお前だ。大幹部として抜擢してやろうじゃないか。』そう言っておじさまのことを意のままに操ろうとしたのよ」

 ジョーはずっとキョーコの横顔を見つめていた。
キョーコの瞳が金色に光って見える。

「しばらくの間、それに甘んじていたおじさまだったけれど、ある日ホントワール国でスパイ活動中に偶然知り合った鷲尾のおじさまとお互いの息子の話をしているうちにこのままではいけないと思うようになったの。そこで機会をうかがって薬の製造方法が入っているマイクロフィルムを国際科学技術庁の関係者に・・これはたぶんパパだわ・・渡そうと持ち出したのよ。裏切り者は殺される運命とわかっていながらね・・」

「俺、その薬を知っているぜ」

「ええっ!?」
キョーコはジョーの方を振り向くとその顔をじっと見た。
「まさか・・あのクロスカラコルムで・・」
「あぁ、たぶんな。・・そうか。オレ、親父の薬で一時的だったが元気になったのか。」
ジョーは肩をすくめて腕を組んだ。
あの日の痛みがジョーの脳裏をかすめた。

「そして、カッツェに羽根手裏剣を投げることができたのよね。私、あの日・・ジョーと空港で別れた時に言ったでしょう?カッツェに会ったら羽根手裏剣をお見舞いしてやるようにってね」
「だが、アレははずれたんだ。情けねぇ・・」
「それでよかったのよ、ジョー」
「なんだてぇ?」
「あのあと、あの羽根手裏剣は機械の中へ吸い込まれていって歯車に挟まったわ。そのせいで歯車が外れて装置の中で分子爆弾が爆発したの。装置はメチャクチャに破壊されたわ。そして悪魔のブラックホール作戦は水泡と化したの。カウンターゲージは0002、危機一髪だったわ」

「へ、へ、へ、へっ」
ジョーの顔に不敵な笑みが浮かんでいた。
「キョーコ、俺がおめぇのそんな作り話を信じるとでも思うのかい?」

 キョーコは涙をためたエメラルド色の瞳でジョーのその顔を見た。
「作り話なんかじゃないわ。私には見えたんだもの。ジョーが放った羽根手裏剣が地球を救ったのよ。」

 キョーコの真剣なまなざしにジョーはもしかしたらそれは本当のことかも知れないと思ったが、にわかに信じられる話しではなかった。
その前の父親の話にしたってでき過ぎているような気がしていたのだ。
そしてキョーコにもジョーの気持ちが伝わっていた。

「信じられないというのなら、それでもいいわ。でも最後にこのことをジョーに話せてよかった。」
キョーコはそう言いながらベッドから降りるとその下から靴を出してはいた。

「私、これから脳科学研究所へ戻りたいの。ガッチャ2号で送ってくれない?」
ペンダントをポケットにしまい、さっさと上着を着るキョーコをぼんやり見ていたジョーだったが、ふと気がついた。
「あぁ、お安いご用さ。だが、明日は長官の葬式だぜ。」
「私行かない」
キョーコはあっさりとそう言った。
「はぁ?」
南部長官が死んで人一倍悲しんでいると思ったキョーコの言葉にジョーは合点がいかなかった。

「パパはあそこには・・お墓にはいないもの。ただ・・」
「ただ?」
キョーコはドアを開けると病室から出て行く。
「エゴボスラーが現れるかも知れない・・」
「あの野郎・・」
右手で作った拳こぶしで左の掌をバチン!と打つと、キョーコの後を追ってジョーも廊下へ出て行った。


 ジョーたちが南部長官の葬式に参列している頃、脳科学研究所の一室でキョーコは南部長官の霊魂と対話していた。

 
「パパ?」
「キョーコかよく来てくれたね」
「あぁ、パパ・・。もう苦しくはない?痛みは?」

「大丈夫だよ。もうすべての苦しみから解放された」
「パパは頑張ったわ。長官に就任した時にすでに覚悟を決めていたわね。私が透視をする前から・・将来きっと命をかけて大きな敵と戦うことになるだろうと予見して相当な戦闘訓練を受けていたんだもの」

「そう。キョーコには何もかもお見通しだったね。だが、私も途中で気づいたよ」
「え?」
「BC島から脱出して来たあと、君はしばらく口をきかなかった。アレはわざとだっただろう?」
「パパ・・」
「確かにジョー一人を預かり育てるだけで私は手一杯だった。キョーコは病院にいるから助かったと思ったことが何回かあった。そしてお前の能力ちからを知ってからもしかしたらと思っていたのだよ。私に負担をかけまいとしてわざと病気を装ったね、キョーコ」

 キョーコは小さくうなずいた。
そしてこう続けた。
「パパ。パパはもう鷲尾のおじさまと小百合さんのことにわだかまりはないの?」
「キョーコ?」

「私、気づいていたのよ。ううん。わからなかったの。しばらくの間。ときどき、パパが頭の中でつぶやいていた言葉の意味が。鷲尾のおじさまの言葉でしょう?『君が小百合を置いてケンブリッジへ行かなければ健は君の息子として生まれていただろうな。わはは・・』パパ、もしかしてそれはパパが健のママのことを・・?」

「いや。いいんだ。もう昔のことさ。あの二人にももうすぐ会えるだろうからね」
南部長官は独り言のように語り出した。

 「健太郎は学生でもないのに航空力学の講義の時間になるとどこからともなく現れた。私が教授の娘さんの小百合さんにひそかに思いを寄せているのに気づいた健太郎はまず自分が親しくなって私を紹介してくれた。そして三人でよくいろいろなところへ出かけたものだよ。だが、翌年になって私のところにケンブリッジ大学への留学の話が来てね。健太郎は小百合さんを一緒に連れていくべきだと主張したが、まだ学生の身でそれも教授の娘さんと結婚するなんて考えられないと独りで旅だったのだ。その後、小百合さんは病気になり、健太郎はそれこそ親身になって闘病生活を支えたのだ。『孝三郎が帰って来るまでに元気になるんだ』と言ってね。だが、運命は不思議なものだ。小百合さんは健太郎のおかげで子供が産めるまでに健康が回復したのだから。私ではダメだったろう。だが、そんなことで男同士の友情は壊れやしないよ、キョーコ・・」

「でもパパは結局誰とも結婚しなかった」
「それは健太郎や小百合さんのせいではないよ、わかるだろう?」

 キョーコは慈愛に満ちた美しいオーラに包まれている南部長官をいつくしむようにじっと見つめていた。
「わかったわ、パパ。鷲尾のおじさまとそちらで会ったら・・」
「あぁ。傷つき苦しんでいる健を励ましてやろう、二人でね」

南部長官は生前とほとんど変わりない姿で、口髭に手をやり、話を続けた。

 「キョーコにはわかるね。私の親父のペンダントだ」
「ええ、パパ。アレは『マーカスター』と言って見かけはあまりぱっとしないけれど死者の遺志を注入できるというペンダントです」
「そうか。わたしはあれには何か言葉では言い表せない不思議なものを感じていたのだ」
「パパのお父様も科学者ではあったけれど超常現象にも興味を持たれていてあのペンダントが持つ不思議な力を科学的に分析されようとしていたの。そして詳しいことはわからなかったけれど、このペンダントが世界征服をしようとする者の手に渡ってはならないと感じていらしたようです」
「そうだったのか、あのペンダントは私の父の形見だとばかり思っていたのだが・・」

「私の本当の父、ベンジャミンも先祖の時代からこれを探していたのです。地球征服を狙う邪悪な組織がペンダントを狙っているかも知れないと心配していました。そしてついにこのペンダントを持っているものがいつか必ずBC島へやってくると透視して私が生まれるとすぐに移民して来たのです。病弱な子供のためといえば怪しまれませんからね」

「できるかね?キョーコ。その・・」
「えぇ。パパの遺志をペンダントに注ぎ込むわ。私の命に替えても」
「い、命・・?危険なのかね?」

 キョーコは首を振ると微笑んで答えた。
「パパも健が総裁Zを倒す時に最後のハイパーシュートを使うと思っているのね。私もそう思うわ。宇宙パルスが消滅したその時に彼らがどこにいようとも地上に(かえ)そうというパパの念を込めるわ」
「そうか、ありがとう。キョーコ。あれは私が鴨技師長に預けておいた」
「わかっているわ、パパ。じさまがどこにペンダントを隠してあるかわかります。知られないようにこっそり持ち出してそしてまたこっそりと元に戻しておきます。その時が来たら、じさまがパパの形見として健に渡すでしょう」

「キョーコ、頼んだぞ」
「はい、パパ」



 ISO本部が破壊され、地球滅亡の危機が近づきつつある中、脳科学研究所の職員は皆シェルターへと避難していた。
その後、略奪に遭ったのだろうか研究所の内部は酷く荒らされていて廃屋のようになっていた。
だが、その一室にキョーコはいた。

 鴨技師長のところへこっそりとマーカスターを戻しに行き、たった今帰って来たのだった。
これまでに経験したことのない疲労感がキョーコを襲っていた。
「SVR波除去装置を使えば少しは楽になるかしら?」
そう思ったキョーコは重たい身体を引きずるようにして装置の前にたどり着いた。
 だが、そこでキョーコは愕然とした。
SVR波除去装置はみごとに破壊されていたのだった。

キョーコはその前に座り込むと目を閉じて何か小さくつぶやいた。

 と、その時だ。
研究所の中へと入って来た者がいた。背の高い男だ。
その男は座り込んでいるキョーコの前で立ち止まると、片膝をついてキョーコの頬にそっと手を当てた。

「ジョー、どうしてここへ?」
灰青色の瞳が一瞬フッと和らいだ。
「へっ、命令違反をしたんでね。宇宙へ飛び出す準備をしている間、頭を冷やして来いと言われたのさ。地球が滅亡するまであと何時間もねえって言うのによ。それに・・」
「それに・・?」
「この前別れるときに『最後に』とか言ってたろ?それが気になっていたんでね」

キョーコは淋しそうに微笑むと
「なんだ。私の声が聞こえたのかと思った」と力無く応えた。

ジョーがキョーコの顔を覗き込んだ。
「ふっ・・聞こえたぜ。アレは懐かしいBC島のアクセントだった・・『もう一度ジョーに逢わせてください』って言っただろ?」
だが、キョーコからの返事はなかった。そしてよく見るとキョーコはうっすらと青白い光に包まれていた。
「キョーコ、お前一体どうしちまったんだ?」

「・・うっ・・」
キョーコは小さく首を振りながら座り込んだまま後ずさりしてジョーから離れようとした。
「ん?キョーコ。どうした?苦しいのか!?」

「SVR波をね、許容量の100倍以上浴びたの・・」
「な、なんだとぅ?!」
ジョーの眉間に深いしわができる

「・・お、お別れだわ、ジョー・・」
「キョーコ・・?」
「ダメ!近づかないで。私に・・」

 だが、ジョーはキョーコを力強く抱きしめた
「ジョー・・」
「へ、へ、へ、へ・・キョーコ、オレはサイボーグだ。忘れちまったのかい?」
キョーコはジョーの腕の中で小さく吐息を漏らした。

「キョーコ・・どうしてそんな無茶なことを・・」
「パパと約束した最後の仕事をしたの」
「え?」
「健が・・ガッチャマンが最後のハイパーシュートを使う時に宇宙パルスも消え去るということが見えたの。そうしたら南部長官が宇宙パルスが消えた時に科学忍者隊の諸君を地球に戻すことはできないものかというので、パパの念をあるものに込めることにしたのよ・・SVR波をたくさん浴びればできると思った・・成功したわ・・たぶんね・・わ、私がこの世に生まれてきたわけが・・わか・・った・・」
キョーコの言葉はとぎれとぎれになった

「キョーコ、逝くな。逝っちゃいけねぇ・・」
「ジョー・・もっと・・よく顔を・・見せて」
ジョーはキョーコを抱き上げた。
すぐそこにキョーコのエメラルド色の瞳がある。

「おめぇが死んだら、オレも・・」
ジョーのその言葉にキョーコの目が険しくなった。
「ジョー、あなたは生きて・・これから必要になる・・あなたのその胸の中にあるものが・・それに・・」
「それに?」
キョーコは白く細い指先でジョーの顎のラインをそっとなぞった。
「ガッチャ2号・・にみんなで・・乗っている・・のが・・見える・・総裁Zをやっつける・・ために・・ね」

 ジョーのブレスレットが鳴った。
「準備ができたぞ、ジョー。どこにいるんだ?早く来い」
「ちぇ、どこかへ行けと言っていたやつが、今度は早く来いか・・じゃ、南部のお嬢さん、行ってくるぜ」
ジョーはもう一度確かめるようにキョーコの身体を抱きしめた。
「痩せちまったな・・」
そして粗末な簡易ベッドにそっと寝かせた。

「ありがと・・」
キョーコの口唇がそう動いたように思えた。
その口唇にジョーは自分の口唇を重ねた。
「オレが戻ってくるまで、死ぬなよ・・キョーコ・・」

ジョーは低い声でキョーコの耳元にそう囁くと、荒れ果てた研究所を後にした。


 ジョーと入れ替わるようにキョーコの前に小さな男の子の影が現れた。
その子は横たわっているキョーコの顔を覗き込むとそっと声をかけた

「ママ」

キョーコはうっすらと目をあけるとジョージュニアの姿を見て微笑んだ。
「迎えに来てくれたのね」
ジョージ浅倉の息子は黙ったままうなずくとその小さな手でキョーコの手をとった。

(おわり)
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コメント

1. No title

正直ちょっとしんどかったですが、ジョージ浅倉の息子の謎解きとして2とFを書きました。
ガッチャマンもそうしてほしかったです。
ガッチャマン本編は素晴らしい作品ではありますが、謎も多いです。
二次創作を書いて自分なりにその謎に挑戦するのも楽しいですが、せっかく続編があるのですから謎解きや説明をしてほしかったですね。
甚平は本当にジュピター忍者の末裔だったのか?とか、ジュンの亡くなった両親はどんな人だったのか?とか。(ジュンはヒロインなのに本名さえわからずじまいでした)

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