昼の遊園地 by 朝倉 淳
平日とはいえ昼の遊園地がこんなに静かだとは思わなかった。
混んでいるのもいやだけど、あまり静かなのもテンションが下がる。遊ぶ所は多少賑やかな方がいい。
「いいじゃないか、空いてる方が」
遊園地なんてめったに来ないというジョーが珍しそうに辺りを見回しながら言った。
「そうね」
彼の腕に自分の手を添えて響子が言った。
目の前にある遊具は確か南部博士がメカニカから〝転身〝させたものだ。あの恐ろしいメカもここでは子どもたちに愛され、長く使われている。
「ジェットコースターに乗りましょうよ。ここのは最新型で急降下から上昇するスピードが今までで最速ですって。Gがかかって体が飛ばされそうになるって」
「ヘン、なんだよそんなもの。GPで火の鳥に─」ふと口を噤む。が、声を落として、「アレに比べりゃ大抵のものはペンギンの散歩さ」
それはそうだろう。GPの火の鳥並みの遊具なんて誰も乗れない。
「じゃあ、行きましょ。ほら、空いてるわよ」
「うん・・・」
口調とは裏腹にジョーの足は重い。しきりに腹部を撫でている。
「どうしたの?お腹が痛いの?まさか私が作ったお弁当で痛くなった、とか言うんじゃないでしょうね」
ジョーとの待ち合わせは10時だった。だが響子は5時に起きてお弁当を作ったのだ。
サンドイッチに鳥のから揚げ、ゆで卵にサラダ・・・定番だが我れながらいい出来で、ジョーも、“けっこううまいじゃないか”なんて言いながら全部平らげてくれた。
「そうじゃないけど・・・おれ、ゆで卵食ったし」
「?」
「知らないか?ゆで卵を食べてから乗り物に乗ると酔いやすいって。ジェットコースターだって乗り物だし」
「知らないわ、そんなの。誰が言ったの?」
「子どもの頃に聞いたような・・・」確証はないのか、ジョー自身もしきりに首を傾げている。「でも聞いた。確かにそう言われた」
「だって、ゆで卵をリクエストしたのはあなたじゃない。私は卵焼きにしようと思ってたけど・・・。それじゃあジェットコースターどころか全部の乗り物に乗れないってこと?」
乗り物はお昼を食べてから、と彼が言うのでまだひとつも乗っていないのだ。
「うーん・・・それは残念だなぁ」
なにか変だ。まさか、
「ジョー、あなたわざとゆで卵を─」
「乗れないんじゃこんな所にいてもしょーがないよな。─行こう」
「え?どこに?」
「もっといい所」
ニッと口元を歪めるジョーに響子はなぜか真っ赤になった。
おわり
