「チョコレート?ふっ、俺はそういうの食わねぇんだ。すまねぇが持って帰ってくれ」
毎年この日は女の子たちからのプレゼントを断るのに苦労する。
レースの後、そんな女の子たちをどうにかかわして一人トレーラーに戻るとベッドに身を預けた。
キッチンからかすかにカカオの匂いがする。
「キョーコ!いるのか?」
上半身を起して声をかけたが返事はなかった。
ふとテーブルを見ると見慣れない包みが置いてある。
「キョーコのやつまでチョコレートかよ」
いいかげんにしてくれよと思ったが、
「一応中味を確かめておかないと後が怖いからなー」と独り言を言いながら金色のリボンを外した。
ピンク色のハート型をした箱の中にはいかにも手作りといった感じのごつごつしたチョコが入っていた。
お世辞にもおいしそうには見えない。
「あいつ、意外と不器っちょだな」
ふん、と鼻で笑い、思わず小さめの欠片を一口頬張った。
ジャリっと音がする。
「こ、これは・・!」
間違いない。懐かしいBC島の名物チョコ、モディラ(※)だった。
「ここで作っていたなら、俺が帰ってくるまで待ってりゃいいのによ。あいつだって故郷のチョコは食いてぇだろうに」
もう一口。今度は大きな欠片を頬張る。
ジャリジャリジャリ・・
ガキのころ親子三人で街まで買い物に行った時にいつも寄ったお菓子屋を思い出す
ジャリジャリジャリ・・
島での出来事は辛く悲しいものしか覚えていなかったが、楽しいこともあったんだよな
ジャリジャリジャリ・・
いつの間にか灰青色の大きな瞳から溢れるものがあった
ジャリジャリジャリ・・
人目をはばからずに故郷のチョコを味わえるよう、キョーコは気を利かせたのだろうか?
ジャリジャリジャリ・・
いつか二人で島へ帰ろうな。
ジャリジャリジャリ・・
ピンクのハートの中は空っぽになった。
シャワーを浴びると涙の痕も消えた。
キョーコへのお返しは夕日が美しいキレー岬へのドライブでいいかな。あそこの景色は島にとてもよく似ているから・・そう思いながらジョーは眠りについた。
(おわり)
※シチリア島のモディカチョコレートを参考にしました

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