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初掲載 2009年12月23日 
GATCHAMAN Fan Fictions' 
小説家になろう
(同時掲載)

題名は本編第69話
「この世の中でたった一つ憩いの場があるとすれば、それは母さんの膝の上である・・か」
という健のセリフから

お母さんの膝の上

ふと目が覚めるとカーテンの隙間から陽がさしていた。
朝になったようだ。
晴れたか…。
今年のクリスマスイヴもホワイトクリスマスとはいかないな。

「それにしても、寒い…。」
そう小さくつぶやくと素っ裸のケンはもう一度布団の中にもぐりこんだ。

「なんだまた寝ちまうのか?」
ケンの隣りで裸の胸の上に灰皿を乗せたいつものスタイルでジョーがベッドに横になったまま紫色の煙を吐き出していた。

「メリークリスマス、ジョー。」
「メリークリスマス、ケン。夕べは世話になっちまったな。」
ジョーの呼吸に合わせて耐熱ガラス製の黒い灰皿がわずかに上下している。

「あぁ、ちょっと飲み過ぎた…。」
「任務とはいえ随分と不条理な結末だったからな。」

ギャラクターに運命をもてあそばれた美しい少女の顔が二人の脳裏から離れなかった。
しばらく沈黙が続いた後、胸の上で煙草を消したジョーが口を開いた。

「おい、ケン。今日はどうする?これから…。」
「オレは行くところがある。」

「ふっ、女のところとか言うんじゃねぇだろうな。(オレと寝た次の日に女のところへ行くとは思えねぇが…。)」
「…男か女かというのなら、女だな。」

「う、このやろう!」
ジョーはケンが枕にしていた腕を勢いよく引き抜いた。
「おいおい、灰皿が落ちるぜ。ジョー。」

「くそう。」
ジョーは灰皿をベッドサイドテーブルに戻した。

「お前も一緒に来るか?ジョー。」
ケンは今度は自分の腕を枕にしてジョーの方へ寝返りをうつと碧い瞳を輝かせ、ニヤリと笑った。
「な、なにぃ?!」
ケンの意外な言葉にジョーは返事に詰まった。
そして
「俺は出かける支度をするからお前先にシャワーを浴びて来いよ。」
というケンの言葉に素直に従うのだった。
だが、ジョーはシャワーから出て来ると
「オレは…帰ることにした。お前には付き合いきれねぇからな。」
そう言い残すと飛行場をあとにした。

「やれやれ。」
シャワーを浴びたケンは濡れてますますウェーヴが大きくなった栗毛色の髪を薄いブルーのバスタオルで無造作に拭きながらベッドの下を覗き込んだ。
そこには用意してあったショルダーバッグがある。中にはサンタクロースの衣装が入っているのだ。
ケンはそれを確認するとバイクにまたがりエンジンをふかした。

懐かしいが悲しい思い出のある湖の前でバイクから降りたケンはじっと湖面を見つめていた。
そして独り言のように口を開いた。
「ジョー、隠れていないで出て来いよ。後をつけられているのに気づかないとでも思ったのか?」
ジョーが街路樹の陰から腕組みをして出てきた。
「へっ、流石だぜケン。だが行き先はここであっているのかい?」
「あぁ。この先の…。ほら、あれだ。」
ケンが指差したのは作りこそしっかりしているがかなり古いアパートのような建物だった。

「ここは老人ホームじゃねぇか?」

ケンは持っている小さなメモ用紙を確かめた。
「ホントワール国立養老院309号室。シャルロッテ・ケリー。」
「シャ、シャルロッテ??」

「ジョー、オマエに話しただろ?死の谷での出来事を…。」
「あ、あぁ。ギャラクターを裏切り、おめぇと二人で井戸につるされたっていう男の話だろ?(…うらやましい。)」
「あの時、ケリーに頼まれたことをさ…」
「うん…。」
ジョーはメモを覗き込んでケンの顔と見比べた。どうやら本気らしい。
「おふくろさんにはとても本当のことは言えないだろう?」
ジョーは右手を顎の下に当ててケンの言葉を聞いている。
「本人を差し置いてアカの他人が面会に来るというのもおかしな話だ。で、考えたんだ。…クリスマスにサンタが息子に代わって来るならいいんじゃないかってな。」
ケンの話にジョーは思わずニヤリとした。
「それもおかしな話かもしれないが、見ず知らずの男が突然来るよりはマシかも知れねぇな。」
「あぁ。クリスマスの奇跡って言うやつさ。どうだ。ジョーも来るか?」
「フッ。お手並み拝見と行くか。」

二人はひんやりとした養老院の階段を上がっていった。
「ここだ。」
サンタの衣装に着替えたケンはドアをノックした。
「失礼します、シャルロッテさん。」
「メリークリスマス!…っだろ、ケン。」
「ん、あぁ。そうだったな。メリークリスマス!ほー、ほ、ほ、ほ!」

「おや、サンタさんかい?ドアは開いているよ。お入り。」
殺風景な部屋の真ん中にある上半身をわずかに起こした介護用ベッドの上に彼女は横になっていた。

ケンはシャルロッテの顔を見てギョッとした。なにもかもあのアーサー・ケリーに生き写しだ。いや、順序からいったらアーサーがシャルロッテに似ているのだが…。

「おや、サンタさん。メリークリスマス。今日は冷え込んだというのに、ご苦労さんでしたね。ささ、もっと近くに来て顔をようく見せておくれ。」
流石にこの歳になると何が起きても動じなくなるのか、シャルロッテは普通の面会人と同じようにサンタを迎え入れた。

「で、こちらの方は?」
し、しまった!
ジョーは素顔で、それもこの寒空に半袖のTシャツのままじゃないか?!

「お…あ…う…」
ジョーは言葉に詰まった。
いけない。
「いや~、こいつは…。」
そう言いながらケンは考えた。こういう時にとっさの判断ができなければガッチャマンとは言えない。

「こいつはトナカイなんです。」

「なっ…!?」
言うに事欠いてトナカイとは!鳴き真似でもしようかと思ったがなんて鳴くんだ?トナカイ…。
ジョーは頭の中は真っ白、目の前は真っ暗になった。

「お~っほ、ほ、ほ、ほっ。」
突然シャルロッテはしわだらけの顔をさらにくしゃくしゃにして笑い出した。
「そうじゃないかと思っていました。」
「はぁ?」
ケンとジョーは顔を見合わせた。

「サンタさんにトナカイさんは付き物ですからね。仲がよろしくっていいじゃありませんか?」
シャルロッテは続けた。
「で、サンタさん。プレゼントは何かね?」
シャルロッテは分厚いメガネの上から白い眉毛とひげのあいだに見えるサンタにしては若すぎる碧く澄んだ瞳に話しかけた。
「息子さんに会ったんですよ。アーサー・ケリーさんに。」

「息子」という言葉を聞いてシャルロッテの顔が曇った。
「ふん。どこで何をしてるかちっとも便りをよこさないと思ったらよりによってクリスマスにサンタをよこすなんて。お天道様に顔向けができないことをしていなけりゃいいが…。」
そういうとシャルロッテは布団をかぶりなおしてむこう側を向いてしまった。

母親ってこういうものなのか…?
こんなに年老いても、自分の子供のことを心配している…。
ケンもジョーも幼いころに死に別れた母親のことを思い出していた。
自分もこんな風に母親に似ているんだろうか?
いま生きていたらやはりこんな風に自分のことより息子のことを心配してくれるのだろうか?

「ねぇ、サンタさん。」
シャルロッテは向こうを向いたまま話し始めた。
「今度アーサーに会ったら伝えてくれませんか?母さんはお前を生んで本当によかったと思っているとね。アーサーのおかげで私は母親になれたんだからね。どこで何をしているか知らないけど…。あぁ、でもサンタさんが友達なら悪いことはしていないね。」

ケンは言わなくてはならないことがあったが、胸に込み上げてくるものがあってなかなか言葉が出なかった。
プレゼントが入っている白い袋をグッと握りしめると口を開いた。

「アーサーさんから伝言を頼まれてきました、シャルロッテさん。今まで親不幸をして申し訳なかった。いまは遠い国へ働きに行っているから会えないがまとまった金ができたら必ず会いに行くから待っていてくれ…とね。」

シャルロッテは相変わらず向こうを向いたままだった。そしてため息まじりにつぶやくように言った。

「お金なんかいらないから元気でいるようにって言っておくれ。サンタさん…。」
その声は涙に震えていた。
「…わかりました。シャルロッテさん。」
ケンはそう言うのが精一杯だった。

そしてジョーにも顔を見られないように壁の方を向いてそっと涙をぬぐうと、いつもの口調で命令した。
「さぁ。次の人のところへ行く時間だ、トナカイくん。ソリの用意はできているな。」
「あぁ。いつでも出掛けられるぜ、ケ…いや、サンタさま。」

するとシャルロッテがこちらに向きなおって言った。
「サンタさん、今日はありがとう。来年のクリスマスにも来ておくれよ。死なずに待っているからさぁ。ねっ、トナカイさんも。」

トナカイはにっこり笑ってシャルロッテに言った。
「あぁ、来年も必ず来ますよ、シャルロッテさん。今度来るときはこいつがトナカイでオレがサンタでね…。」
「おいっ!」

サンタはトナカイの腕をがっちり掴んで引きずるように309号室をあとにしたのだった。


おしまい

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