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があわいこの文字置場

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キリストさまにそっくりだ

1.
トレーラーハウスのカーテンを開けると朝日がまぶしく輝いていた。
「ちぇ。今年のクリスマスイヴもホワイトクリスマスはお預けか…。」
ジョーは小さくつぶやくともう一度暖かいベッドの中にもぐりこんだ。
「…冷たいぞ。ジョー。」
まだ半分眠っているケンが眉をひそめた。
「へへ。ケンはあったかいぜ。」
ジョーは背中を丸めてケンの胸に額を押し当てた。
「今回は任務といえ厳しかったな。ジョー。」
「あぁ。今度こそ完全にお陀仏かと思ったぜ。」

ケンは再びジョーの脚に自分の脚を絡めてきた。
「今日はこれからどうする?ジョー?」
「あぁ。ちょっと出かける。用事があるんだ。」
灰青色の瞳を今度は天井に向けてジョーは答えた。
「女のところか?」
「まぁ、男か女かと言われれば女のところかな。」

「そうか…。」
殴られると思って身を固くしたジョーだったが、ケンは絡めた脚をほどくと長いまつげを伏せたままジョーのベッドから降りた。
「シャワーを借りるぜ。」
元気のない声だった。
やはり昨日の任務が堪えたのだろうか?それとも…。

ジョーはシャワー用のタンクに水を足しながら、ドアの向こうのケンに話しかけた。
「おい、ケン。おめえも来るか?一緒によ。」

トイレ兼シャワー室のドアがガチャリと開いた。
「何だってぇ?」
「おめえが来れば俺より歓迎されるぜ、たぶんな。悔しいけどよ。」
ケンの青い瞳に光が戻った。

「シャワー、交代しろよ。ケン。オレが出たらすぐに出発だからな。」

2.
ジョーはそそり立つある岩山のふもとで車を停めた。
そこはケンにも見覚えのある場所だった。

キーンと冷え込んだ空気と真っ青な空にその「顔」がくっきりと映えていた。

「ジョー、ここは…。」
濃い青色に鈍く光るドアを開けながらケンはその「顔」に目が釘付けになった。
ジョーも車外に出て腰を伸ばした。
「あぁ、あのでっかいキリストさまの顔。クリスマスにはふさわしい場所だろ?ケン。」
ジョーは得意げに鼻をふくらませた。
「ってことは…おい、ジョー。まさか…あの子と…そんな仲になったんだ?(俺の知らないところで…)」
「へへ。ま、ひょんなことから再会しちまったわけさ。スーザンによ。」
「ス、スーザン?!」
「スーザン・オーガスト。彼女の名前さ。」
「オマエ、正体をバラしたのか?」
「おめえだってナオミちゃんにバラしちまったろ。おアイコさ。」
「まぁな。そんなこともあったっけ。」

再び車に戻ったジョーはナビシートのケンにこれまでのことを話し始めた。
「こ
の前参戦した耐久ラリーでたまたまここを通ったのさ。オレ、今回はちょっとへまをやらかしちまってよ、勝てる見込みがなかったんでここでリタイヤしたの
さ。で、あのキリストさまを彫っていた女の子に会いたいと言ったら近くの孤児院を紹介されてな。彼女今そこの玄関に飾るマリアさまを彫っているんだ。」
愛車のハンドルを片手で握り、もう一方の手で鼻の横をこすりながらジョーはいつになく饒舌だった。

「彼女お前のことがよくわかったな。」
「あぁ、俺の声を聞いてピンと来たって言ってたぜ。
「ふぅん。」

「で、クリスマスイブの日に孤児院でページェントをやることになってな。」
「ページェント?」
「キリストさま誕生の寸劇さ。」
「で、彼女がマリヤ様を、オレが…」
「神様ってツラかよ。」
「いや、オレはマリヤ様のご亭主役でヨセフさ。」
「フン…。」

なおもジョーの話は続く。
「で、『主役のキリストさまを誰かやってくれないかしら~?』って彼女が言うもんでよ。」
ジョーはスーザンの口真似まで始めた。
「…。」

3.
「ここだ。」
ジョーは住宅街を抜けて小さな林の中にあるお城のような形の建物の前で車を停めた。
円錐形の赤い屋根の上には十字架がかけられていた。
玄関のドアが開くと小さな子供がパラパラと飛び出してきた。
それを追うように見覚えのある少女が現れた。
「ジョー!本当に来てくれたのね。待っていたのよ。」
「へへっ。(最初にこういう出会いをしていりゃよ~。)」
「え?何か言った?」
「いや、なんでもねえ。えっと、こちらが俺のトモダチのケン。」
スーザンの目がキラリと光ったのをジョーは見逃さなかった。
「お会いできてうれしいです。ケン…。」

4.
「劇の練習を始める前にクリスマスツリーの飾り付けをしたいのだけど、手伝ってくださる?」
スーザンの申し出にケンは大きな星の飾りをツリーのてっぺんに乗せた。
だがジョーは
「いや、オレはこういうコマイのはだめなんだ。園庭で子供たちとサッカーをしてくるよ。」
そう言ってさっさと外へ出ていってしまった。
だがどうやらそれで墓穴を掘ってしまったようだ。
少ししてから
「みんなぁ~。ツリーができたから見にいらっしゃ~い!」
「わ~い!」
スーザンの声に子供たちは一斉に園舎に戻った。

ジョーがボールをまとめて少し遅れて帰って来ると、スーザンとケンはすでにページェントの衣装に着替えていた。
「な、何っ?!」
よく見るとケンはヨセフの衣装を着ているじゃないか?!
「おい、ジョー。どうだ?似合うか。」
「なんでオマエがヨセフなんだ?しゅ、しゅ…。」
「あぁ、主役は謹んでオマエに譲るぜ、ジョー。」
「オレ、カミサマっていう顔じゃないぜ。」
「そんなもの、演技力でカバーしろよ。大丈夫、オマエならできるさ。」
「はぁ?!」
なんでそこでオレが励まされているんだ?
「彼女と話し合って決めたんだ。文句はあるまい。」
(くそう、ケンのやつ。斜め45度からのメヂカラを使いやがったな。)

だがもう遅かった。
誕生劇の幕は切って落とされた。

ヨセフ(ケン)「このような粗末な馬小屋で良く頑張ったね、マリア。」
マリア(スーザン)「何もかも天使のお告げの通りですわ。ヨセフ。この子は本当に私たちの救い主なのですね。」
二人は『かいばおけ』に寝かされているイエスの前でかたく抱擁し合う…。
イエス(ジョー)「バブーッ(く、くそう。)」

おわり
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