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平成22(2010)年2月22日を記念したフィク。
当日ILoveGeorgeAsakuraに初出

13歳のジョーが初めてルシーに会ったエピソードとトレーラーを住み家にしたいきさつを混ぜてみました~

マックの分まで長生きすると行っていたジョーなのにねぇ・・

俺の住処(すみか)はトレーラー

「いや。止めるなよ、ケン。俺が出て行く。お前はここにいてやってくれ。博士も俺なんかよりお前の方がいいと思ってるだろうし。」
「ジョー…」

 もう言い合いになった理由(わけ)も忘れてしまった。
だがここを出て行くしかないとジョーは決めたのだ。
ケンがここに来てからジョーは言葉ではうまく言い表せないが何となく疎外感を感じていた。
しかし、ケンにも博士にも悪いところは一つもない。
きっと自分が悪い奴だからなんだろう。思えば小さな頃からワルサばかりしてきた。
本当は俺なんかいない方がいいんだ。
いつの頃からかジョーはそう考えるようになっていた。
そして、この日ちょっとしたことからケンと口げんかになったのをきっかけにジョーはここ南部博士の別荘から出ていく決心をしたのだった。

 出て行く先にあてがなかったわけではない。
レーサーの先輩マックのところだ。
だが彼は世界を渡り歩く賞金稼ぎの一匹狼のレーサーだ。今どこにいるのかすぐにはわからない。(彼のそんなところもジョーは気に入っているのだが。)
どうやって連絡をとればよいものか悩んだ末、ジョーはレーサー仲間がよく集まるスポーツバー「ピットイン」へと足を運んだ。

 「よう、アサクラくんじゃないか?!めずらしいな。」
カウンターの中から声をかけてきたのは、元レーサーでこの店のオーナー店長、フィリップ・ミラー。愛称フィルだ。
「ちょっと人を探しているんだ。」
「まぁ、こっちへ来て一杯飲め。おごるぜ。」
「へぇ、いいのか?」とジョーは目を輝かせた。
「おっと、いけね。つい他の連中と一緒にしちゃったよ。ジョー、お前いくつになったんだっけ?」
フィルはテキーラを注いだ小さなグラスをカウンターの下にさげながら苦笑いをした。
「14だよ。」
「本当かぁ?」
「13と5カ月。来月には13歳半になるぜ。もう14だ。」
「ほぅ!たった13年でよくもまあ、こんなに育ったもんだな。」
大げさに目を丸くして見せたフィルは後ろの冷蔵庫からコーラを取り出しながら
「で、誰を探しているって?」と訊いた。
「俺、ジンジャーエールがいいなぁ。」ジョーはカウンターに身を乗り出した。
「ダメダメ。おごれるのはこれだけだ。」フィルはジョーの頭をコーラの瓶で押し戻した。

「マック…マクスウェル・シュトラーゼンは今どこにいるか知らねぇか?」
コーラをラッパ飲みしたジョーはゲフッと一息つくとそう尋ねた。
「マックだとう…?」
急に口ごもるフィルにジョーはたたみかけた。
「マスター、知っているんだね。教えてくれよ~!」
「…う…い、いいや。知らないぜ…」
そういいながらもフィルの薄茶色の瞳がちらりと店の奥にあるVIPルームのドアを見た。
それをジョーは見逃さなかった。

「おい、ジョー!そっちはダメだ。」
フィルの制止を難なく降りきってジョーはVIPルームのドアを開けた。
と、そこには…。

 皮張りの広々としたソファにゆったりと腰をかけたマックがキャビアをたっぷりとのせたクラッカーを口に運んでいるところだった。
しかも後ろ向きだったが裸の女性を膝の上に乗せていた。
「ジョー!ジョーじゃねぇか?よくここがわかったな。」
マックがそういうと背中をひねって女性が振り向いた。
空色の瞳に金色のショートヘアがよく似合う美しい人だ。
「紹介しよう。こいつはルシー。俺のハニーさ。」
マックはルシーを見上げると顎でジョーを指した。
「あいつはジョー。俺のテクニックをあいつにだけは教えているんだ。…フッ。いまのところドライビングの方だけだがな、まだ。」
口の端を少し上げてニヤリとしたマックは、そういいながらルシーにキスをした。

 ルシーはソファの端にかかっていた薄いピンク色のバスローブを取るとマックの上に乗ったままそれを着た。そしてマックから降りるとジョーの方へ歩み寄って白い手を差し出した。
「ハイ、ジョー。はじめまして。」
「はじめまして、ルシーさん。」ジョーはその手を握った。
ルシーからは何かとても良い香りがした。
「んふふ。ルシーでいいわよ、ジョー。ねぇ、マック。この子顔が赤いわ。」
ルシーが煙草に火をつけたマックにそう言うと彼は煙にむせたふりをした。
「ちょっと失礼するわね。」
そう言ってルシーはシャワールームへ消えた。
 マックが灰皿に煙草を押しつけながらジョーに訊いた。
「どうした?ジョー。俺に用があったんだろ?」
「……。」
ジョーはうつむいたまま口をへの字に曲げていた。
「あててみようか?」
ミネラルウォーターをコップに注ぎながらマックはまた右の口角を少しだけ上げた。
「おおかた『新しい兄弟』とケンカして家を飛び出して来ちまったんだろう?」
「兄弟じゃねぇ!」
ビップルームにジョーの大きな声が響いた。
だが変声期のためか途中で声が裏返ってしまった。なにもかもジョーは悔しかった。
グッと奥歯をかみしめてまた口がへの字に曲がってしまった。
そんなジョーの気持ちを察したのかマックは額にしわを寄せてわざと大きく目を見開いてこう言った。
「わかったよ、ジョー。しばらく俺のところにいればいいさ。新しく家を買ったのは知ってるだろ?」
「……。」
ジョーは横に首を振っただけでそれには答えずに、つり上がった横目でじっとシャワールームのドアを見つめた。

 ミネラルを飲みほしたマックはフンと鼻先で笑い、
「ルシーのことは気にしなくていい。彼女もオマエも俺にとっては大事な家族みてぇなものだからな。」
といいながら新しい煙草に火をつけた。
そして「ルシーは女だてらに結構やるんだぜ。」と、ハンドルを回す仕草をした。
「ルシーさん、いや、ルシーもレーサーなの?マック!」
「そうともよ、ジョー。なんだやっと元気が出てきたな。」
 ジョーはあわてて涙をぬぐった。ルシーがシャワールームから出てきたのだ。
そしてマックの耳元で何か囁いた。
ジョーのわからない言葉で二言三言、言葉をかわすとルシーはにっこり笑ってぬれた身体のままジョーをハグした。(バスローブは着ていたが…)
「ジョー、うれしいわ。新しい家族。私の弟…。」

 マックはルシーと出会ったのをきっかけにイギリシア国に住まいを構えることにした。
白い砂浜にエメラルド色の海を見渡せる白壁の二階家だった。
二階が居住部分で一階はガレージだ。マックとルシーの愛車が仲良く置かれていた。
 その奥にもう一台。…レースカーではないものが置かれていた。
「マック、これは何?小さな家のようだけど。」
「あぁ、これはトレーラーハウスさ。トラベル・トレーラーって言われている奴だよ。あれっ?オマエに話したことなかったか?俺はこれで世界中を巡っていたんだぜ。」
「聞いたことはあったけど見るのは初めてだよ。これがマックの家だったんだね。」
ジョーはカーテンがかかった窓からトレーラーの中を覗くようにして続けた。
「ちょっとだけ中を見たいなぁ、マック。」
「特に変わったものはねぇよ。大体のものはみんな2階に上げちまったからな。」
そういいながらマックは入口の扉をガチャリと開けた。
 ベッドにカーテン。造りつけの小さなキッチン、シャワールーム兼トイレの他は何もなくてガランとしたトレーラーの中は意外に広々としていた。
ジョーはベッドの上に腰かけるとスプリングを確かめるように身体を上下させて目を輝かせた。
「マ、マック!いいよここ。俺ここに住みたい。本当だよ。」
ジョーは早口でたたみかけた。
「そしたら、マックみたいに世界中を旅しながらいろんなところのレースに出て賞金を稼ぐんだ。いいだろ?マック。」
「へへっ。そうだな…」
次にマックが何か言おうとした時、ルシーの声がした。
「マック!電話よ。ジョーを探しているっていう人から。」
「ここにいるって言ったのか?!」
「ううん。マックに電話を替わるって言っただけよ。」
「そうか。よし、いま行く。」
マックはジョーをトレーラーに残してルシーと2階へ上がって行った。

 いつだったか、南部博士が長期出張に出かけるときに同じくらいの子供を持つISOの職員の家にジョーを預けたことがあった。そこでジョーはラジコン・カーを初めて見た。そしてその虜になった。
それは次第にエスカレートして「本物の」サーキットに足繁く通うようになり、そこでマックに出会ったのだ。
 ジョーはマックの卓越したテクニックにまず心酔した。が、やがて彼のすべてにシンパシーを感じて、そのちょっと斜めに構えた態度や話し方、口の端を曲げる笑い方に至るまで真似をした。
両親と死に別れるまでジョーは近所のガキ大将に従ってやりたい放題のワルサをしてきた。父親も母親もジョーをとても可愛がってはくれたが仕事が忙しいと言っては家をあけることが多くジョーは学校をさぼることもしばしばであった。

 だが、あの日両親をギャラクターに殺され、南部博士に助け出された時からジョーの生活は一変した。
自分でもびっくりするくらい博士の云うことを聞き、入れ替わり来る家庭教師(今考えるとISOの若い職員だったようだ)とも打ち解けていままでの分を取り戻すかのように勉強をした。
これが本来の自分の姿だったような気さえした。

 あの頃は、まだISOの施設が整っていなかったこともあり、南部博士の母方の別荘だった建物を改装して研究室として使っていた。
数多いゲストルームにはISOの研究員や職員が何人か泊り込みで仕事をしていた。
そんな中でジョーも寝起きをするようになっていたのだ。

 しかしそんな生活も長続きはしなかった。
同じ歳のアイツがやって来たからだ。
何をやってもアイツにはかなわない。
「育ちが違う。」
そう誰かに言われたこともあったっけ。
 アイツも母親が死んでからしばらくのあいだ施設にいたらしい。だが、行方不明だという父親のことを南部博士はよく知っているようでわざわざ引き取ることにしたということだ。
それに比べて、親を亡くした子犬のように拾われてきただけの俺なんか…。

 「おい、ジョー。聞いてるのか!?」
マックの言葉にジョーははっと我に返った。
「あ…。」よかった。涙はこぼれていなかった。
「しょうがねぇやつだ。ほら、なんて言ったっけ?おめぇの親代わりのお偉い先生…」
「南部博士がどうかしたの?」
「事故に遭ったらしいぜ。」
ジョーの顔色が変わった。
「なんだって?!それで博士は?!」
ジョーがつかんだTシャツからその手を引き剥がすとマックは続けた。
「あわてるな。無事だとよ。へっ、そんなに心配なら帰ってやれよ。おめえのこと探しているとよ。」
 ジョーはマックに背を向けてこっそり涙をぬぐった。
「無事ならいいんだ。」
マックはやれやれというように肩をすぼめて言った。
「詳しいことは飯を食ってからだ。話を聞いたら明日にでもフィルの店に行って来い。」
「そうするよ。マック…。」

 次の日の朝早くジョーはフィルの店「ピットイン」へ向かった。
マックとルシーは二人揃って玄関まで来て見送ってくれた。
だがこれがマックの無事な姿を見た最後となってしまうとは知る由(よし)もなかった。

 昼過ぎに「ピットイン」に着いたジョーはフィルに自分と同年代の男の子を紹介された。
その子はジョーよりひとつ下でおっとりとした感じだったが体格はがっちりとしていて日本のスモウレスラーといった風貌だった。
「オラぁ、リュウ。ナカニシリュウっていうんだ。あんたがジョー・アサクラさんかね?」
ほとんど「アサクラさん」と呼ばれたことがなかったジョーはちょっとくすぐったいような気がした。
「おめぇ…いや、君が博士を助けてくれたんだってな。」
「うん。オラ、あんな無茶をする学者先生を見たのは初めてだったぞい。」
「世話をかけちまったな。」
ジョーの言い方がマックそっくりだったのでフィルは思わずニヤリとしてしまった。

「それでよ、アサクラさん。」
リュウはコーラの空ビンを指ではじきながら言った。
「ジョーでいいよ。リュウ。」
コクりとしたリュウは続けた。
「その…なんだ、南部博士はの。ジョーにどうしても伝えたいことがあるっちゅうてオラが頼まれただ。」
「オレは帰らないぜ。」
ジョーの強い言葉にビクッとなったリュウを見てフィルが口をはさんだ。

「ジョー、今回は博士を助けてくれたナカニシくんに免じて一度顔だけでも見せに行ったらどうだ?」
フィルが冷えたコーラの瓶をジョーの前に出しながら諭すように言った。

 ジョーはキッと鋭い目でカウンターを見つめたままつぶやいた。
「オレが悪かったんだ。」
ジョーは続けた。
「オレが…。博士のそばにいなかった…オレが悪いんだよな?!」
強い口調ではなかったがリュウもフィルも下を向いてしまった。

「ケンは?ケンはどうしたんだ。アイツはそばにいなかったのかよ。」
「あ、あぁ…。ワシオさんならずっと博士につきっきりだわ。」
リュウがボソリと応える。
「へっ。怪我してから付き添ったっておせえんだよ。ま、ケンがいるならオレは関係ねぇや。」
そう言ったもののジョーの目からは大粒の涙がこぼれおちていた。

「ジョー、それを飲んだら博士のところへ行くんだな。帰るかどうかはまたあとで考えればいいさ。な。」
ジョーはコクりと頷いてコーラを飲みほした。

 国際科学技術庁附属病院7階、特別病棟7018号に南部考三郎と小さく書かれた名札がついる個室があった。
「ここじゃわぁ。」
リュウは嬉しそうににっこりすると真っ白に磨き上げられた病室のドアをノックした。
「はい。」
若い男の声がした。
「南部博士、アサクラさんをお連れしたぞい。」
そう言いながらリュウはその引き戸になっているドアを開けた。
 リュウに続いてジョーが病室に足を踏み入れたその時だった。
博士のベッドの横に座っていたケンがすっと立ち上がり顔色一つ変えずにジョーに歩み寄ると、いきなり胸ぐらをつかんだ。
「ジョー、きさま…っ!」
「ケン、やめたまえ。ここは病院だぞ。」
リクライニングの背を上げたベッドの上の博士の一言でケンは手を離した。
「ふっ、相変わらず博士の言うことはよく聞くんだな。」
シャツの胸を直しながらジョーが言うと博士がたしなめた。
「ジョー、ケンが君のことをどのくらい心配したのか知っているのか?」
「へ。心配している割には暴力的じゃねぇか?見そこなったぜ。ケン!おめぇがついていながらなんだって博士にこんな怪我を…。」
ケンは横を向いて唇を噛んでいた。
「ジョー、ケンを責めないでくれ。彼は飛行訓練を始めたばかりで私に同行できなかったのだ。」
「ヒコウクンレンだとう?!」
健に詰め寄るジョーを制するように博士は続けた。
「 病院(ここ)では詳しい話はできないがある重要な任務をケンには担ってもらおうと考えているのだよ。そしてジョー。君にもその任務を手伝ってもらいたいのだ。それから、ナカニシ君にも。」
 病室の隅で事の成り行きを心配そうに見守っていたリュウがうれしそうに笑った。
「でへへ。今度オラにでっかいホバークラフトを作ってくれるっちゅうことで楽しみにしとるんだわ。」
「ホバー…なんだって?」
急な話の展開にジョーはついて行けない。
ケンだけでなくリュウにもそんなものを?
よっぽどリュウのことを気に入ったんだな。博士は一体なにを考えているんだろう。

「ケン、私はナカニシ君とちょっと話があるからジョーにあの車を見せてやりたまえ。」
そういう南部博士の目がメガネの奥でキラリと光った。
「はい。わかりました、博士。ジョー、こっちだ。」
病室のドアを開けるケンの青い瞳もまた輝いていた。
「ちぇっ、偉くなったもんだぜ。」
口では文句を言いながらもジョーはケンがしばらく会わないうちに随分と大人びたことに気づいていた。

 病院の駐車場の片隅に濃いブルーの新車が一台、置いてあった。
何の変哲もない普通のレーシングカーだった。
だが、それはジョーの心を揺さぶるには充分なものだった。
「こ、これは…?」
「南部博士がオマエのために造った特別な車だ。」
「オレのために?」
すでにジョーの全身全霊はその車に集中していた。声がまた途中でひっくり返ったのも構わずにジョーは窓越しに中を覗き込んでいた。

「あぁ。博士は何か大きなことを考えているようだぜ。オレにはセスナを一機造ってくれたんだぜ。」
「セ、セスナって飛行機だよな!?」
「見るか?向こうの空き地に停めてあるんだ。」
ケンのニヤリと笑う顔を久しぶりに見た気がした。
「おう。」
走り出すケンのあとを追いながらジョーはケンがもう自分が家を飛び出したことなど気にはしていないのだと思った。

 大人びた 風貌(ふうぼう)でも、やはりまだ13歳の少年たちだ。
来たるべき未来が明るいと知ると二人のわだかまりは春の日差しを浴びた雪のように溶けていった。
のちにケンの愛機やジョーの愛車には考えもつかないような極秘の装備がなされ、厳しい訓練の日々が待ち受けているのだが、それがわかるのはもう少し後になってからのことだった。

 ジョーは毎日のようにサーキットで「コンドル号」と自ら命名した愛車を駆っていた。
マックにも早くこの新車を見せたかったが最高の状態で見せたいと思い、もう少しもう少しと先延ばしにしていた。
 3ヶ月ほどたったころ、ケンは博士の別荘から独り立ちしようとしていた。
彼の父親が行方不明になってから荒れ放題になっていた小さな飛行場の管理小屋へ移り住むことにしたのだ。
博士が造ってくれたセスナを格納するにはぴったりの場所だったし、少し手を加えればケン一人が住むには充分な設備が整っていた。

 ケンの引っ越しの手伝いから戻ってきたジョーに南部博士はまだしばらくはこの別荘にいればよいと言ってくれた。
しかしジョーもうじきにここから独立するつもりでいると答えた。
住むのはもちろんあのマックのトレーラーハウスだ。
マックは本当にトレーラーを譲ってくれるだろうか?
もし、ダメだと言われたらどうしよう…。

 『ジョー、やつらに気をつけるんだ!』
そうマックは叫んだあと、彼は暗い谷底へと落ちていった。
「マック…!!」
ジョーは叫んだ自分の声で目を覚ました。
「夢か…。」
だが妙な胸騒ぎを覚えたジョーは夜明け前の別荘をこっそりと抜けだすとイギリシア国へと向かった。
ベッドの上に置手紙を残して…。

 コンドル号のエンジンは快調だった。
国際科学技術庁が総力を挙げて造ったというのもまんざら嘘ではないようだ。
あのマックの夢さえ見ていなければ鼻歌の一つも出ただろう。
次の日の午後、ジョーはマックの家の前に着いたのだった。

 いや、マックの家だったところといった方が正しいだろう。
ジョーの嫌な予感は的中していた。
目に眩しかった白い壁の二階家は見るも無残に焼け落ち、数本の柱が黒い炭となって虚しく立っているだけだった。
ジョーは自分の目を疑った。
(一体全体…何があったというのか…?)
 現場にジョーが立ちすくんでいると地元のシェリフ(保安官)と名乗る中年の男が声をかけてきた。
「ジョージ・アサクラくんだね。マクスウェル・シュトラーゼン氏が亡くなる直前に君に渡したいものがあると言っていたよ。」
「亡くなるだって?!」
ジョーは今度は自分の耳を疑った。
「ちょっと署まで来てくれないか?きみに見せたいものがあるのでね。」
シェリフは茫然としているジョーの肩を優しくたたくと警察署へ案内した。

 署の駐車場には見覚えはあるがやはり酷く焼け焦げた車が2台置かれていた。
焦げ臭いにおいがするその車を見てジョーはハッとした。
「ルシーは?マックと一緒にいた女の人はどこ?」
シェリフは口髭に手をやりちょっと困ったような顔をして言った。
「彼女は行方不明だ。放火犯に連れ去られたという目撃情報もあるが、目下捜査中でね。」
「そ、そんな…。」
気が遠くなりそうになるのをジョーは必死にこらえていた。

 「ジョージくん、マクスウェルさんの遺言の品はあれですよ。」
シェリフの指さす方を見てジョーは「あっ。」と小さな声を上げた。
そこにはあのトレーラーハウスが置かれていたのだ。
駆け寄ってみるとほとんど…いや全くと言ってよいほど傷ついてもいなければ焼けた跡も無かった。
 「なぜかこのトレーラーは海岸の方へと引き出されていてね。俄かには信じられんが、火だるまになって燃えている人間が押し出していたという証言もあって…。」
シェリフの言葉にジョーはカッと目を見開いてトレーラーのガラス窓に手をついた。
「トレーラーをジョージ・アサクラという子にやってくれというのが病院に担ぎ込まれたマクスウェルさんの最期の言葉でしたよ。」
 ジョーは二の句が継げなかった。
そしてトレーラーにしがみつくようにして声をあげて泣いた。
シェリフはジョーの背中に手をやると優しく話しかけた。
「こんなときに申し訳ないのだが、ジョージ君。最後に一つだけ質問があるんだ。」
ジョーは手の甲で涙を拭うとこくりとうなずいた。
「マクスウェルさんは何かわからないが闇の組織に狙われていたようだった。もしかしたら一緒にいた女性が関係あるかも知れない。何か知っていることはないかね?」
 ジョーは首を横に振った。
恥ずかしいとは思ったが嗚咽が止まらなかった。
激しい波のように押し寄せてくる悲しみに任せて泣いた。

 ジョーはその夜をトレーラーの中で過ごした。
そして次の日の朝早く「コンドル号」の後ろにそれを取りつけると、南部博士の元へと戻ることにした。
まだ新しいがだいぶなじんできたハンドルを操りながら
「マック…。俺、マックの分まで長生きするよ。そしてこのトレーラーを一生大事に使わせてもらうぜ。」
そう独り言をつぶやいた。

 バックミラーに朝日がまぶしく反射している。
ジョーは下ろしていた前髪を右手で掻き上げてみた。
朝焼けに赤く染まったその顔はいくらか大人びて見えた。


The End

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