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があわいこの文字置場

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ジョージ浅倉の息子

電話の呼び出し音にしばらく気付かずにいた南部博士は、あわてて受話器を取った。
電話の向こうから聞こえてきたのは女の声だった。

「パパッ…?」

間違い電話か?ジュンの声とはまったく違うし…。

「パパ?…孝三郎パパでしょ?」

「あぁ…。キョーコか?」

外部からの全ての連絡を断って別荘にこもり研究を続けているというのにどうやって電話がつながったのだろう?
そう思いながらも、南部博士は久々に聞くキョーコのちょっと舌足らずの甘えたような声に頬の筋肉がゆるんだ。

「久しぶりに休暇をとったの。ユートランドへ遊びに行ってもいいでしょう?」
「あぁ。だが、しかし…今は…。」

「パパ。カッツェの正体はわかったんでしょ?…あ、でも気をつけてね。パパのこと、誰かが見張っているような気がするから。じゃあね。」
「キョーコ!どうしてそれを?!」

だが、電話は切れてしまった。

仕方なくもう一度例の記録を読もうと書類を手にした博士は突然ひらめいた。
「そ、そうか、カッツェは…!」

と、その時だった。突然、博士の目の前にギャラクターのコノハムシメカが現れた。

「わぁーーー!!!」



10年前。学会の帰りに立ち寄ったBC島で南部博士は両親をギャラクターに殺され、自らも傷ついていた小さな男の子を助けた。

だが、博士がBC島から助け出した子供は彼だけではなかった。

こっそりとジョージを運んだ病院で応急処置をしている南部博士のところに神父がやってくると実はもう一人虫の息の女の子がいると耳打ちしてきた。

さっそくにいくとそこにはジョージよりも少し小さな女の子がぐったりと横たわっていた。
目立った外傷はなかったが調べてみると強い力で長い間押さえつけられていたことがわかった。
発見された時の状況を聞くとやはりギャラクターに殺されたと思われる両親の遺体の下から見つかったというのだ。

「よくこの子がそこにいるとわかりましたねえ。」
感心する博士に神父は妙な答えをした。

「現場を通りかかった時に呼ばれたような気がしたのです。」
「そんなはずはない。少なくともこの子は仮死状態だったはずだ。」

博士はきっぱりと否定したが、神父は「神のお導きです。」と祈りのポーズを繰り返した。


南部博士は悩んでいた。
子供とはいえ二人を連れて密かにこの島から出るのは難しいだろう。
一人ならば何とかごまかせるが…。

その時、博士の頭の中に声が聞こえた。いや、まるで聞こえたかのようにある考えがひらめいたのだ。

「二人を一人にすればいい。」

「子供二人ではなく、急病人の大人を一人母国の病院へ運ぶということにしよう。きっと上手くいく。」

博士は早速準備に取り掛かった。二人を一緒にして毛布でくるむと枕などで形をそれらしくしてストレッチャーに固定するとその夜の飛行機で島を発った。



ジョージは順調に回復し、しばらくして博士の家に身を寄せることになった。

だが、女の子の方は意識は戻ったものの何も話さず、表情にも喜怒哀楽はなかった。医学的にはどこも悪いところはない、という担当医師によると「心の問題でしょう」ということだった。

それならばと、今度は心理学専門の医者のところへ入院させると、まだ一言も発しないうちにそこに置いてあった本という本を読み出したのだ。
あっという間に絵本から医学専門書まで全ての蔵書を読んでしまったその子はついに言葉を発した。

「もっと読みたいの。」

「その前に、名前を教えてくれないかなあ?お嬢ちゃん。」
そう看護士がたずねると、「キャロライン・コスターよ。」と答えた。

医師の知らせに南部博士はジョージを伴い、キャロラインの病院を訪れた。
そして意外な言葉を聞くのだった。

「あ、南部博士。あの時は助けてくれてありがとう。浅倉さんちのジョージ君は、もうケガ治ってよかったね。」

「き、君。どうしてそれを…?!」
「上から見てたよ。知らなかった?」
「ゆ、幽体離脱…か?!」

「き、きゅ、きゃ…きょ?」ジョーは、キャロラインのベッドにくっついている名札を指差しながら名前を読もうとしていた。

すかさずキャロラインがこう言い放った。
「な~んだ、ジョー。まだ字が読めないの?いたずらばっかりしてるからだよね、博士?」

「読めら~い!!こんなの。キャコラッタって書いてあるよ。へん!キャコラッタ、キャコラッター!悔しかったら、バック転してみろ~っ!!」

そういってジョーは病室を飛び出していってしまった。

「おい!ジョー、待つんだ!」あわてる博士にキャロラインは冷静だった。
くすりと笑うと、「アサクラくん、明日から射撃の練習だけじゃなくて、勉強もがんばるようになるわね。」といった。

そしてそのとおりになったのだった。


それからあれは4年前のことだ。

健やジョーたちが、忍者隊としての訓練を本格的に始めて少したったころのことで、いまだに病気がちのキャロラインが療養している海辺の子供病院に博士が見舞いにいった時のことだった。

「南部博士、お話があるの。」
ベッドの上で日本式の正座をしたキャロラインがそこにいた。

「明日は私の12回目の誕生日でしょ?」
「ああ。プレゼントは何がいいか聞きに来たんだ。」
「私ね、科学者になる勉強がしたいの。」
「なんだって?科学者だって?」
「私は、ワシオくんやアサクラくんみたいに忍者隊にはなれないでしょ?でもこうしてベッドの中にいても本は読めるわ。」

「しかし、本だけじゃダメだぞ。」博士はキャロラインのやわらかい髪と頬を優しくなでながらさとすようにいった。

「ええ、わかってるわ。ドクターがね、今開発中の新薬が私に合うんじゃないか?っておっしゃってるの。それで病気が良くなったら学校へ通いたいのよ。私、博士みたいな科学者になりたいの。私を助けてくださった博士に恩返しがしたいの。」

「そうか。…わかったよキャロライン。そんなにいうのなら、アメリス国へ留学できるよう手続きをしてみよう。」
「ほんと!?うれしい。博士、ありがとう!」

南部博士はキャロラインの満面の笑みを始めて見た。そしてまたこのかわいらしい笑顔を見るためにはなんでもしてやろうという気になった。


キャロラインを留学させるために、まず南部博士が養父となり後見人として援助することになった。また、万が一ギャラクターが彼女の本名を知っていたらまずいと考え、「南部響子」と名乗らせることにした。これは博士の実の母親の名前でもある。

「母さん…。天国の母さん、見てるかい?ひょんなことから私に後継ぎができたよ。私が父さんの後をついで科学者になるといった時、母さんは泣いていたね。」

あの暗黒の時代に妻子を守るとはいえ心ならずも戦争の兵器開発に携わってしまった博士の父親は敗戦後、「戦犯」というレッテルを貼られ、戦勝国側の一方的な裁判にかけられて獄中で死亡した。
母の実家は大財閥だったが、父との結婚を反対され貧乏を覚悟でかけおちをした。

父親が投獄されてからも、お金はなかったが女手ひとつで博士と二人の兄の三兄弟を「上流階級式」にしつけ、育ててくれた。
しかし、長年の無理がたたり母が病に倒れたのは博士がオックスフォード大学を卒業した翌日だった。この日は、計らずも父親の名誉が回復した日でもあった。息子の卒業証書を抱きしめ、夫の名誉回復のニュースをテレビで見ながら静かに息を引き取った母…。

博士は、どんなことがあろうとも決して悪に利用されない科学者になろうと二人の墓前で心に誓ったのだった。

それにしても一体なぜ今頃キョーコは帰ってくるといってきたのだろうか?
留学先では飛び級を何度もしてついに去年15歳で大学の付属施設だった脳科学研究所に配属され、科学者としての一歩を歩みだしたという手紙をもらったが…。
脳科学?!…そうか、彼女は研究所でSVR波を浴びたに違いない。

彼女のように生まれつきESP(エスパー:超能力者)の素質がある者がSVR波を浴びることによってその能力を増大させるのでは?という研究報告がある。だとすると、何か忍者隊やギャラクターのことについての透視をしたに違いない。
うむ、ギャラクターか…?

「はっ!」

そこで南部博士は目が覚めた。目の前にカッツェがいる。

「ムファ、ハハハハァ!お目覚めかね?南部博士。とうとう私の手に落ちたな。」
「ベルクカッツェ…。」



ほどなく雨の中をジョーはトレーラーハウスに帰ってきた。そしてひどく後悔していた。
そのとき、誰かがドアをノックした。

「へ、泥棒がノックするわけねえか。」そう考えるととっさにズボンの脇から羽根手裏剣を出した自分がおかしく思えた。
「カギはあいてるぜ。」

入ってきたのはキョーコだった。
「どうしてここがわかった?」とジョー。

しかしキョーコはそれには答えずにまるで自分の部屋に帰ってきたかのようにぬれた上着を脱ぐと空いていたハンガーにかけ、近くにおいてあったタオルで髪を拭いた。

「あなたが呼んだからよ。」髪を手で整えながらキョーコは言った。
「なんだと?!」つじつまの合わないキョーコの答えにジョーはムッとした。

「健に『命を預けた』って言われて『一秒、いやその半分でいい』と願った時、むかし私が命をあげる話をしたのを思い出したでしょう?夢に見たのよ。あなたのことを。『オレの生きたあかしを残したい』って言っていたわ。」

「キ、キョーコ!てめえ何を知っているんだ?!」
ジョーはベッドから立ち上がってキョーコにつかみかかろうとした。
だがその時、忍者隊のサブリーダーとして数々の修羅場をくぐり抜けてきた「コンドルのジョー」は、キョーコが両手を首に回すようにして胸の中に飛び込んできたのをかわすことができなかった。

間近に見るキョーコの大きく開かれたエメラルド色の瞳には自分の姿が映っていた。
「ジョー、私の中にあなたの生きた証を残すのよ。いいわね?」

「…いいわね?」そう動いたキョーコの紅い唇が次の瞬間ジョーの下唇に触れた。
「う…。」ジョーの頭の中にしびれるような電気ショックが走った。が、それはいつものあのイヤな感じのものではなかった。

反射的にジョーはキョーコの華奢な身体を抱きしめると、その柔らかな口唇を吸った。と、同時に身体中がカッと熱くなり、急にズボンの中が窮屈になった。

「キョーコ…。」「…ジョー…。」

お互いの名前を呼び合うとそのままジョーは乱暴にキョーコをベッドに押し倒した。

「…いやっ。」

キョーコの口から小さな声が漏れた。と、同時に「カタン!」と音がして何かがベッドから落ちた。
キョーコは素早く身をひるがえすと床に落ちたジョーのブレスレッドを拾い上げた。

「ジョー。今日は他に行くところがあるのね。」そう言いながらキョーコはブレスレッドをジョーに手渡すと「また来るわね。」と言い残してトレーラーを出て行ってしまった。

「ちえっ!なんだぁ、アイツ…。」

ジョーはブレスレッドを手に持ったままトレーラーのドアを開けた。

「やっぱり診察は取り消してもらおう。いまさら病名を知ったところでどうしようもねぇ。」
ジョーは再びモグリの医者のところへ出かけていった。



「科学忍者隊、参上!」

健の声が聞こえたような気がしてジョーは意識を取り戻した。
まだ少し身体が痺れている。そうだ、オレはカッツェのメガザイナーに撃たれて素顔をさらしてしまったんだ。キョーコの夢なんか見てる場合じゃねぇ。
くそっ、このあたりにエアガンが…。あった!

「カッツェ!」ジョーはカッツェめがけてエアガンを撃った。が、それはメガザイナーの銃口に当たった。暴発するメガザイナー。

「うわーーーぁ!!」
「マスクが飛んだな、ベルクカッツェ!オレの正体もバレたがお前の素顔も見せてもらおうか。」

忍者隊の変身を解くメガザイナーはカッツェの仮面も剥ぎ取ったのだ。



「あ、パパ。お帰りなさい。」

その日の夜遅く、ゴッドフェニックスで送られてきた南部博士をキョーコが迎えた。
「ああ、キョーコ。来ていたのか。このガラス窓を直してくれたのは君か?」
「うふふ。パパ、直したのはガラス屋さん。私は電話をしただけよ。」

飛び去るゴッドフェニックスを見送ってキョーコはつぶやいた。
「ワシオくんも、アサクラくんもこの家にはいないのね。」
「ああ、もう大きくなったからね。独立したよ。」
「じゃ、2~3日泊まっていっても大丈夫ね。書斎の片づけを手伝うわ。」
「ユートランドの街へ遊びに行かないのかい?」
「行くわよ、もちろん。でも、今日はパパのところにいるわ。」
「キョーコ…」
「えっ?」
「その…パパというのは…。」
「あら、だって私のパパでしょ?……あ、鷲尾のオジさま…?」
「キョーコにパパと呼ばれるたびに健太郎に悪い気がしてね…。」
「ごめんなさい…。博士。」
「いや、いいんだ。キョーコ、今日は好きなだけここの本を読んでいきなさい。」
「ええ、ありがとう。そうするわ。まだ少し濡れてるけど。」
ギコチない父娘おやこは初めて笑いあった。

2日目の夜、キョーコはまた恐ろしい夢を見た。ジョーが私服のまま空から落ちてくるのだ。途中で変身して助かるのだが姿が見えない。
「ジョー、ジョーはどこ?」
そこで目が覚めた。
朝になって急にキョーコはユートランドへ遊びに行くといって博士の別荘をあとにした。
その日の午後、南部博士は、ある医者からの電話を受けることになる。


…あの日、野外ライブに出かけてジュンたち忍者隊のみんなで聞いた「デーモン5」の曲も耳に入らないジョーはユートランドの街中を彷徨さまよっていた。
ギャラクターが自分の両親を殺したところを目撃したジョーは自らもデブルスターの薔薇爆弾によって重傷を負った。瀕死のジョーを救ってくれた南部博士のあの日のぬくもりをジョーは覚えていた。いや、もう何年も忘れていたのに最近になって何故か思い出したのだ。
瀕死といえば、仔犬を助けた時もそうだった。モグラタンクのミサイルのかけらが頭の中から取れないまま死んでしまうと思っていたが、何とか助かった。ほとんど記憶がないが、オレがバードミサイルを撃ったらしい。
あのワンコはしばらく博士の別荘で飼われていたがいつの間にか首輪が抜けてどこかへ行ってしまった。まったく感謝知らずもいいところだぜ。
BC島での出来事は思い出したくもないが、オレがアランの婚約者をったなんて誰がアイツに教えたんだ?カッツェか?あのデブルスター2号との一騎打ちは誰も見ていないと思ったのだが…。
あの日、サーキットで約束をした子の写真がアランの部屋のベッドサイドにあったときはマジで驚いたぜ。
だからあの時オレはアランに撃たれて死んでもいいと思っていた。
だがその考えが180度変わったのは健がオレとアランの間に立ちふさがり、オレの名をかたった時だ。
「ヤツに健を、…オレの健を撃たせてたまるかっ!」
そう思った瞬間、オレは最後の銃弾たまをアランの心臓にぶち込んでいたんだ。
BC島にいた頃の旧友と忍者隊に入ってからの親友。オレにはどちらも大切な友人だった。だがあの時、そのどちらかを選ばなくちゃならねえ運命の瞬間が来ちまったわけさ。
アラン…、許してくれ。あのときオレは健を選ぶしかなかったんだ。
もうすぐまた会えるな、アラン。またサンドバッグを叩き合おうぜ。オレを許してくれていればの話だがな…。

夜の街を彷徨ったジョーは、街外れの工事現場に迷い込んだ。

ギャラクターが起こした地震によるものか、それとも他の“チカラ”が働いたのか、機材が揺れて何かが下に落ちると立てかけてあった鉄材がガラガラと音をたてて崩れた。
ジョーはふいにカッツェの言葉を思い出した。
「クロスカラコルムというとヒマラヤとの境だな。なにかある…。」

「そうよ、ジョー、クロスカラコルムだわ。」
ふいに背後から女の声がしてジョーは身をひるがえした。

「キ、キョーコ。いつのまに!?」

ジョーは恐い顔をさらに険しくさせるとキョーコの両肩をつかんで言った。
「このことは他の誰にも言うんじゃないぜ。オレ一人でカタを付けてやるんだからな!」
「わかってる、わかってるってば。ジョー。私も明日帰ることにしたのよ。…だからトレーラーハウスへ上着を取りに行ってもいいでしょう?」



朝日がジョーのトレーラーハウスを照らし出し、カーテンを閉めた部屋の中も薄明るくなってきた頃、ジョーは目を覚ますと、スイッチが切られたままのブレスレッドを落とさないようにしっかりと腕にはめ、隣りで小さな寝息をたてているキョーコの顔をじっと見つめた。

ふいに目を閉じたままのキョーコが口を開いた。
「ジョー…。」

「ん?なんだよ。」
自分の今の姿をキョーコの「心の目」で見られてしまったかな?と思うと少し照れてしまうジョーだった。

「私ね、あなたが死んだりなんかしないって感じるの。」
「へっ。よく言うぜ。お前はオレの生きたあかしを残してくれるためにわざわざこうして来てくれたんだろう?」
「うーん、それはそうなんだけど…。」
「で、どうなんだい?オレの生きた証はよー。」
「んー、どうかなぁ?」
そう言ってキョーコはやっと目を開けるとジョーの鼻に自分の鼻がくっつくくらい顔を近づけて、そのまま彼の身体を上向きにするとその上に自分の身体を重ねた。
もう、何年もの間二人はこうしてキスを交わしているように感じた。

そしてもう一度、キョーコの求めるままジョーは彼女を抱いた。
(しかしこれはキョーコの“チカラ”を考えるとジョーの求めるままだったのかも知れない)

そしてキョーコの中で絶頂を迎えたジョーだったが、そのあとすぐに頭痛の発作も起きた。

「ジョー、大丈夫?しっかりして。」
「あぁ…。くそぅ…。」

だが何かを感じたキョーコは非情にもブレスレッドのスイッチを入れた。
少し間があって南部博士からの召集がかかった。

「ちえっ、キョーコのパパは気がきかねぇなぁ…。はい、こちらG2号。ジョーです。」
「じゃあ、私は帰るね。」キョーコはトレーラーをあとにした。



「博士、みんな。元気でな。後は頼んだぜ…。」
南部博士がちょっと目を離した隙にジョーは窓から飛び出し空港へ向かった。

ジョーが空港に着くとキョーコが出国ロビーで待っていた。

「おや。南部さんちのお嬢さん、どうしてこんなところに?」
「帰るって言ったでしょ?私、飛行機に乗って帰るのよ。ほら、アメリス国行きのチケット。で、これ間違えて買ったヒマラヤ行きのチケット…。いる?」

搭乗手続きを済ませるとジョーは出発時間まで空港内の展望台へ行ってみることにした。見慣れたこの景色も見納めだ。

キョーコはジョーのベルトを持ってできるだけぴったりと身体を寄せてみた。
ジョーの鍛えられた筋肉のわずかな動きが感じられる。
(BC島を抜け出した時もこんな風にぴったりと身体を寄せ合っていたのよ。)受け取ってもらえるかどうかわからないが、キョーコはそうテレパシーをジョーに送ってみた。

「キョーコ。」
「ん?」
「オレのこと…。」
「うん。愛してる。」
「オレも愛してる…。」
「…ん…。」

二人は展望台のガラスに映っているお互いの姿を見つめ合っていた。

ヒマラヤ行きの搭乗を促すアナウンスが流れた。

「じゃ、行ってくるぜ。」
「うん。カッツェに会ったらあのヘンなマスクを羽根手裏剣だらけのインディアンマスクにしてやってね。」
キョーコが口を尖らせて羽根手裏剣を投げるマネをするとジョーは、
「へへっ。ああ、たっぷりとお見舞いしてやるさ。」と言って搭乗口へと消えていった。

キョーコが見たジョーの最後の顔はあのいつもの不敵な笑顔だった。

「パパ、バイバイ。」

最初の細胞分裂をした息子の声がキョーコには聞こえた。

THE END
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