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があわいこの文字置場

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聖夜の宴

総裁Xが、地球を去ってから早いものでもうすぐ2回目のクリスマスがやって来ようとしていた。
いつにも増して冷え込んだ日の朝、久々に健のブレスレットが鳴った。
「何ですか?博士。こんな朝早くから…。」
「忍者隊に朝も夜もない。…と、言いたいところだが。健、たぶん君たち忍者隊宛に手紙が届いているのだ。国際科学技術庁気付でね。差出人はスーザン。女性の名前だな。」
「スーザン?…知りませんねぇ。それに『たぶん』というのは?」
「来ればわかる。」
やや不機嫌そうに通信は切れてしまった。
「やれやれ。平和になって暇だしな。博士もマントル計画が一段落してほっとしているんだろう。ちょっと顔を見せに行ってくるか。」
健はそう独り言を言いながら愛機の隣りに停めてあるレース用の青い車に乗り込んだ。

あの日から半年ほどたった頃、クロスカラコルムからゴッドフェニックスを国連軍が運び出してくれた。そしてそのノーズ部分に収められていたジョーの愛車を健は引き取ったのだった。



『うたぐり忍者隊殿』…か…。

健は南部博士が差し出した手紙の宛名を見てひどく懐かしい感じがした。そして逝ってしまった友を思い出していた。
そうか。あのときのキリスト像を彫っていた石工の少女の名前はスーザンだったのか。

『科学忍者隊のみなさまへ
宛名の無礼をお許しください。
私の名前をご存じないと思いましたので、こう書けば差出人がわかると考えました。

さて、皆様のおかげで世界は平和を取り戻し、私の仕事も順調に進んでいます。
たまには休養も必要だと言われたのでクリスマスに休暇をとりました。
そこで、皆様の住んでいる街を一目みたいと思い、クリスマスはユートランドで過ごすことにしました。
お忙しいこととは思いますが、うたぐり忍者(笑)のジョー様をはじめ皆様にお会いできれば幸いです。
スーザン・オーガストより。』

「スーザンとジョーは何かあったのかね?」
南部博士は心配そうにたずねた。
「いえ、ジョーはスーザンのことをギャラクターではないかと疑って少々手荒に扱っただけです。」
「そうか。それでうたぐり…。」
そう言うと博士は珍しく声を出さずに肩を震わせて笑った。
「ジョーのやつ、死んでもモテているな。」


ところが、今年のクリスマスにユートランドへ行くので会いたいという手紙は彼女だけに留まらなかった。
次から次へと懐かしい人々から同じような内容で手紙が届いたのだった。

たとえば…
いまやルーマン王国の国王となったルーカー殿下。
同じくドリア王国の国王となったアリ王子。
相変わらず忍者隊のファンでISOを援助し続けているフレーク王妃。
破壊された海底牧場を見事に復活させたヘムラー。(※)
5人で働いて一人分の旅費を作ったスイムス団を代表してチンチロ。 などなど。

昨年から南部博士は忍者隊の素顔を少しずつ公開していた。
地球の復興には世界の人々の団結力が必要と判断した結果、そう決断したのだった。
だが、ジョーがあのような形で亡くなったことは伏せられていて今でも忍者隊は5人揃っているとみんな思っていた。


ついに南部博士の発案により「ユートランド第一ホテル・鳳凰の間」を貸切にしてクリスマス・パーティーが開かれることになった。
幹事はあのメッケルが南部博士より直々に任命された。
あのときから彼は南部博士に付き従い、この2年余りの間休むことなく地球の復興に力を尽くしてきた。
しかし最初、彼はこの話を断った。自分のようなものにはふさわしくないと言ってきたのだ。
そこで南部博士はジョーの死を打ち明けると、ギャラクターの子であったことも話して聞かせた。
そしてメッケルのこともジョーと同じようにギャラクターだったとはもう思っていないと説得したのだった。


パーティの当日、南部博士は意を決してゲストの皆にジョーのことを話した。
生演奏の陽気なクリスマスソングが流れる会場内は沈んだ空気になってしまった。
そして忍者隊の諸君もゲストの皆も思いはひとつだった。
「もう一度、ジョーに会いたい。」

その時、「わんわん!」という鳴き声がしたかと思うと大きな犬が一匹、どこからか会場に入ってきた。
「きゃ~!」
「うわぁ~!」
突然の出来事にゲストたちは会場内を逃げ回り、健と竜、メッケルの三人がその犬を遠巻きにしていた。

「タロウ!」
声をあげたのは南部博士だった。
「タロウ、タロウじゃないか!?おすわり。」
そう博士が落ち着いた声で言うとその犬は博士の足元に来ておすわりではなく「伏せ」をした。
その姿を見て健は確信した。
「タロウに間違いない。生きていたんだな。」
そして
「よく生きていたなぁ。死んだとばかり思っていたよ。」
健はそうタロウに話しかけながら頭を何度も撫ぜてやった。
そして同じこの言葉を別のもう一人の男に言うことができたらどんなに嬉しいだろうと考えるのだった。


会場の照明が一気に消えて目の前が真っ暗になったかと思うと、「赤鼻のトナカイ」が大きな音で演奏され始めた。
「あ、サンタクロースだ!」
チンチロが指差す先にどこから現れたのかスポットライトを浴びてサンタが立っていた。
今日のハイライト、サンタクロースのプレゼントタイムだ。
「ホーホーホーッ。皆さんこんばんは。さあ、良い子のみんなにクリスマスのプレゼントだよ。ホーホーホーッ。」
まるでクリスマスカードから抜け出てきたようなサンタクロースだ。
長く伸ばした真っ白い髭がライトを浴びて銀色に輝いていた。
クリスマスプレゼントでは苦労したチンチロもあの時のことは忘れたように甚平とはしゃいでいる。
「あのサンタ、本物みたいだな。」
そう健が小さくつぶやいた時、
「おい、健!」
懐かしい声で呼ばれたような気がして後ろを振り向いたが、誰もいなかった。
そこには暗闇がひろがっているだけだった。

「ミスター、ワシオケン!イマスカ~?」
サンタのアシスタントを務めていたメッケルに呼ばれた健は右手をあげてサンタの方へと歩み寄った。
「ホーホーホーッ。ケン・ワシオ、メリークリスマス。」
健はプレゼント受け取りながらサンタの目をじっと見つめた。
誰かに似てやしないかと思ったのだ。
「ホーホーホーッ。メリークリスマス。」
「メリークリスマス…。」
確かに彼の瞳はグレイだった。が、健が良く知っているあの鋭い目つきではなかった。
がっかりしている自分が少々おかしく思えた。

ゲストたちにプレゼントをすべて渡し終えたサンタが、「それでは皆さん、よいクリスマスを!ホーホーホーッ。」と言いながら手を振ると、スポットライトが消えて会場は再び真っ暗になった。
するとサンタはドアを開けてそこから外へと去っていってしまった。
サンタが開けたドアの向こう側は信じられないくらいに明るかった。
「ま、眩しいよ~」と、甚平。
「今まで暗かったからの~。余計に明るく感じるんじゃ。」と竜が言ったが、それだけではないような気がした。
そういえば、あんなところに出入り口があっただろうかと健は南部博士と顔を見合わせた。
すると、いままでおとなしく伏せをしていたタロウがむくりと立ち上がってドアの向こう側に向かって吠えたのだ。
「どうした?タロウ。外に何かあるのか?」
博士がそうタロウに問いかけた時、その光の中に誰かがすっと現れたのだ。
顔は逆光でわからないが立っているそのシルエットで背の高い男性ということがわかる。
それもまだ若い。

「ジョー!あれはジョーだわ!!」
ずっとフレーク王妃としゃべりっぱなしだったジュンが叫んだ。
会場はざわめいた。
ここにいる皆が会いたいと思っていたがもう会えないとあきらめていた男が今そこに現れたのだ。
「ジョー、もっとこっちへ来て。顔を見せて。」
だが、その男は踵を返すと光の中へと帰っていってしまった。

「ジョー…。」

夢のような一瞬だった。
でも誰も泣いたりしていなかった。
会いたかった人に会えた満足感でいっぱいだったのだ。


あの光の向こうはあちらの世界だったに違いない。
クリスマスの今日、サンタクロースに導かれて皆がいるここまで来てくれたんだ。
健は科学の忍者だ。しかしそう思うことにした。
だって彼がサンタからもらったプレゼントの箱の中にはアイツの羽根手裏剣がひとつ入っていたのだから。

THE END
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